【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第15回『いつものってなんだっけ』

2023.01.1

この原稿を書いている2022年12月26日、本来だったら私はステージに立っているはずでした。毎年恒例で地元横浜のにぎわい座で開催している、「年末だョ!全員集合」のライブ当日だったからです。ですが、私自身が新型コロナウイルス陽性になってしまったため、やむを得ず公演見合わせとなりました。申し訳ないやら悔しいやらいろんな気持ちはありますが、せっかくなので、この連載らしい内容を今日は書こうと思います。

喉に違和感を感じはじめたのは約一週間前でした。と言っても、正直自分が歌を歌う人間でなければ、全然気にしないレベルの違和感です。痛いというより、若干、本当に若干イガイガするかな? くらいの感じでした。それでも職業柄、少しでもいつもと違うと思えば、私はなるべく声を出さないようにして過ごします。なので、先々の友人とお茶をする約束なども申し訳ないけどキャンセルさせてもらって、音声配信コンテンツ(ラジオのようなものです)のレギュラー収録も、日にちをずらしてもらうことにしました。そしてまさかと思いながらもPCR検査に行ってみたら陽性、という感じでした。

そんなことをしているうちに喉のイガイガは徐々におさまってきたのですが、間もなく、というかクロスオーバーする感じで今度は鼻水が襲ってきました。そして続いて鼻声。今現在も若干こもったような声をしています。そう、いつもと違う声なんです。たった一週間弱くらいの話かもしれませんが、いつもと違う声が続いていると、もうめちゃくちゃ不安になるんですね、これが。

自慢じゃないですが、私は昔からほとんど風邪もひきません。ひいたとしてもほんの数日でおさまることが多く、今回はやはりいつもと違うんだなあという感じです。このまま声が戻らなかったらどうしようなどと無意識に考えていたのか、ここ数日は毎晩そういう夢ばかり見ます。『千と千尋の神隠し』に出てくるカエルの声になったまま戻らないとか、声が出ないから歌い方が変わって、節回しがものすごいクセの強い感じになっちゃうとか。「ああ、早くいつもの自分の声に戻りたい」、切実にそう願っている自分がいます。そして気づきました。「ああ、いつもの自分の声のこと、ちゃんと好きだったんだなあ」、と。

これはミュージシャンに限らずだと思うのですが、自分のいつもの声って(ここで言う声というのは、何も歌声だけの話ではありません。話し声、笑い声、ちょっとした咳払いの声、全部ひっくるめてです)あまりにも当たり前な存在だから、普段じっくりとそこについて考えることってないと思うんです。なんですが、風邪をひいたりすると気づくんですよね。「あ、いつもと違う」って。ということは、自分の中に明確ないつもの声のイメージがあるということなんですよね。

そう、普段は特に意識したこともなかったし、すごく好きなわけでもなかったはずなのに、いつもと違うと思った瞬間に、急に寂しい気分になる……当たり前過ぎて気づかなかったけれど、実はものすごく大切な存在だったと気づいた時、二人の歯車は再び動き出す! みたいなことです。いや、みたいなことってなんだよ。まあ少女漫画的なあれで言うと、結局幼馴染が運命の人だったっていう、そういうやつですね。よくわからないですね、はい。

ちょっとふざけてしまいましたけれども、でも割と今本当にそんな気持ちです。歌声というものについてはいつも意識していましたが、それ以外のいつもの声というのはそれに比べてそんなに考えたことはなかったので、今回これは新たな気づきでした。そして、結果的に歌声の方にもいい変化が生まれる気がしています。何にしたって自分のことを好きになれるポイントが増えると、心は豊かになりますから。そうすると、不思議と歌声にもそれは表れるんです。より彩り豊かになって、包容力が増して、ふくよかな歌声にきっとなっていくはず。

そのためにも、まずはばっちり体調を回復させようと思います。みなさんもお身体にはくれぐれもお気をつけくださいませ。2023年も心身共に健康第一で、お互いいい年にしましょう!

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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