【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第10回『とおるってなんだっけ』

2022.08.1

レコーディングが続いたあとにラジオに出演すると、番組のスタッフさんがよく「声が通りますね」と褒めてくださいます。自分ではそんな自覚全然なかったですし、ややあまのじゃくな私は「きっと気分を上げるために言ってくださっているんだろうな、ありがたいな」くらいに思っていたのですが、番組を聞いてくれたサポートメンバーやいつもの私の声を知っているマネージャーさん、音楽以外の仕事をしている友人にも言われたことがあったりして、きっと本当なんだと思うようになりました。

実際に自分が出演した番組をあとから聞いてみても、正直よくわかりません。だって話し相手であるラジオパーソナリティーの方々は、それこそみなさんとんでもなくいい声をしていらっしゃいますから! アナウンサーさんはもちろん、タレントさん、ラジオDJさん、番組を担当されているミュージシャンの方など、みなさん声に特徴があったり、何よりリスナーの耳に届きやすい声のトーンがどれくらいのものなのか、自然と心得ていらっしゃいます。私もたまにゲスト出演させていただいたり代打パーソナリティーをさせていただいたりしますが、毎日喋っている方々には到底敵いません。すごいなあ、と感心させられる事ばかりです。

でもたしかに声をよく使っている時期に飲食店に入ると、「すみませーん!」と店員さんを呼び止める声が、スッと店内を抜けて割と遠くまで届いてくれる感覚はあったりします。ざわついた店内にいるお客さんの頭上を飛行機雲のように駆け抜けて、まっすぐ店員さんのところまで辿り着いてくれているような、声の軌道を自分でも時々感じます。

一体これはなんなんだろうと思い考えてみたのですが、理由はいくつかあるような気がします。一つは、単純に「喉が開いている」ということ。レコーディングが続いている時期は普段よりもよく声を使っているので、単純に「鳴り」がよくなっているのでしょう。アコースティックギターもそうです。私はまったく同じ型番で製造時期も変わらないギターを2本持っていて、1本はサブ、もう1本はメインとしていつもライブやレコーディングで使っているのですが、正直全然音が違います。単体だとそこまでわからないのですが、バンドの中で弾くと音がやや埋もれてしまうサブに比べて、メインの方はそれこそスッと音が抜けます。なぜ弾き込むほど鳴りがよくなるのかというと、振動することでボディの木の余計な水分が抜けて音がよく響くようになる……らしいです。

もちろん、私の身体は木でできているわけではないので同じ理論は当てはまりません。しかし、「余計なものが抜けると身体の中を声が自然と巡っていく」感覚というのはたしかにあります(この連載の中でも過去にそんなような話をした気がします)。「上手く歌わねば」という頭でっかちな思考がパンパンに詰まっていた頃は、音の響きを楽しむ余裕なんてなく、身体ではなく喉で歌う感じになっていました。つまり、その頃は「ボディが鳴っていなかった」とも言えるわけです。

そこからも繋がってくるのですが、二つめの理由としては「ちゃんと自分の音で鳴っている」ということが挙げられる気がします。ギターも声も、その人の音がするかどうかで伝わる魅力はだいぶ変わってくると私は感じています。それは頭で考えてどうこうなるものというより、ギターだったら自然にそうなるという弾き方のフォームであったり、弦のはじき方、強弱の付け方など、無意識なところに現れる「らしさ」みたいなものがどれだけあるか、ということです。技術的な「上手い」ではなく、「美味い」音が出せるミュージシャンというのは、得てしてどんなギターを持たせても不思議とその人の音になるものです。

歌もまた同じです。レコーディングが続く時期というのは、自分の声の個性とあらためて向き合う時期でもあります。いつもよりも慎重に耳をすまして自分の声を聴いてみると、パッと聴きは同じでも「あ、今の自分の声好きだな」と思える瞬間がちょこちょこあります。それは技術的な部分での好みだったりもしますが、私の場合はどちらかというと、「自分らしい声かどうか」です。自分らしさなんて人それぞれですから上手く説明しろと言われたら難しいのですが、要するに「この言葉をこの声で歌うから意味がある」と確信を持てる響きというのがたしかにそこにあるのです。

そしてそれはやがて、知らず知らずのうちに自信へと変わります。迷いがなくなった声は淀みなくまっすぐ響き、言葉の一粒一粒の輪郭をはっきりさせながら、誰かの元へと届くのです。辞書的な意味はよくわかりませんが、「通る声」ってそういうことなんじゃないかと私は思います。どこにいてもその人の声だとよくわかるような、独特のきらめきを持った声。レコーディングで毎日のように歌って、そのワクワクも悔しさも幸福も全身で感じとって、誰とも違う自分だけの経験を重ねた日々に発する声というのは、歌だろうと話し声だろうと、きっとそれは思っているよりも瑞々しく、誰かをハッとさせる何かがあるのでしょう。今思ったのでのすが、街中で子供の声がやけに通るのも、ひょっとしたらそういう理由もあるのかもしれませんね。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!