【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第14回『おんがくってなんだっけ』

2022.12.1

ツアーファイナルも無事終わりまして、少し時間が過ぎました。今思い返しても、我ながら素晴らしいライブだったと思います。メンバー、スタッフ、全員が健康体で最後まで駆け抜けられたこと、各会場でたくさんのお客さんに会えたこと。世の中の状況を考えると、決して当たり前のことではなかったと思います。あらためて、ご来場いたただいた皆様、本当にありがとうございました。終演後にはサイン会も行ったのですが、そこではたくさんの“はじめまして”、そして“また会いましたね”がありました。

「5年ぶりです」

「10年ぶりです」

「就職しました」

「結婚しました」

「子供が生まれました」

「離婚しました」

「大切な人が亡くなりました」

「いろんなことがあったけど、ずっと花ちゃんの歌を聴いていました」

そんな言葉を聞くたびに、数えきれないくらいたくさんの人生に触れたような気がしました。誰かの他愛もない日常で、あるいは大事な分岐点で、自分の音楽が流れていたと思うと、少し不思議な気持ちになりました。ちゃんと寄り添えていただろうか、何かの支えになれていただろうか、私の歌でよかったんだろうか。そんなことを一瞬考えたりもしましたが、その方たちがこうして今回のツアーに足を運んでくださったこと、それがすべての答えなのだと今は思います。そして私が歌い続ける意味なのだと。

ミュージシャンという仕事をしていながらこんなことを言うのもあれかもしれないのですが、私としては、音楽はある種の嗜好品だと思っています。すべての人がそうであると言っているのではなく、自分自身がそういう考えだというだけです。私は、正直音楽を聴かない日もたくさんあります、なんなら聴かない日の方が多いかもしれません。電車に乗れば電車の音を、散歩に出れば街の音を、家の中では窓を打つ雨の音や、外を駆ける子供の声を聴きます。わざわざ音楽を聴かなくてもそこら中で音は鳴っていて、耳をすませば勝手に音楽になって聴こえてきたりします。

だから極論を言うと、べつにわざわざ人の作った音楽なんか聴かなくても、生きていけると思うのです。でも、それでも音楽がある理由ってなんなんだろう。私が音楽をやり続ける理由ってなんなんだろう。少し前まではそうじゃなかったし、これからも考えに変化はつきものだと思うのですが、現状、とりあえず私はこう思っています。「もしかしたら誰かの人生をほんの少し豊かにしてくれるものなのかもしれない」、と。

どうしようもなく疲れた時に甘いキャラメルを口に放り込むと、なんだか涙が出そうになることがあります。よく頑張ったと自分を褒めてやりたい夜、生ビールを流し込むと強張っていた心がほぐれていくのを感じます。窓際の棚の上に一輪の花を飾ると、朝起きるのが少し楽しみになったりします。音楽もまた、そういうものなんじゃないかなと思うのです。

なくても生きていける、でもあるとなんか嬉しい。毎日じゃなくてもいいけど、ふと触れるとやっぱり好きだなと思う。何か大切なことを思い出して、誰かに会いたくなる。そんな音楽をこれからも作っていきたいです。

もちろん、嗜好品ではなくて、唯一神のような存在になるのもミュージシャンの一つの完成形だと思います。圧倒的なカリスマ性があって、手が届かないけど追いかけたくなるような、神々しい存在。そういう風に明日なれるよと言われたら、そりゃあ一度はなってみたいものです。でもきっと、わたしには向いていない気がします。だって自分がそういう風に音楽を聴いてこなかったから。どこかで無理が生じて、「すまん、やっぱ私みんなの生きがいにはなれないわ!それぞれで幸せになってまた会おう!」ってなりそうです(笑)。

そんなわけで、11月はツアー以降割とまったり過ごしておりました。日常生活では音楽なんてほとんど聴いていないに等しいです。でもその代わり、音楽と同じくらい愛しいものをたくさん吸収する期間にしました。夜中に「美味しいうどんが食べたい」と思い立ち、翌日の昼には気づけば香川にいました。道中ではたくさん本を読みました。東京に帰ってきてからは、電車で2時間半かけてずっと行きたかった美術館に行ってみたり、毎日ゆっくりお茶を飲んでみたり、新しい口紅を買ったりしました。そして最後に、大好きなアーティストさんのライブに行きました。号泣し過ぎて頭が痛くなったのは久しぶりでした。たくさんのものを吸収して心が豊かになった状態で聴く音楽は、格別でした。やっぱり音楽は素晴らしいなあと思いました。自分も新しい曲がたくさん書きたくなりました。

こういう風に自然な流れで、いつまでも音楽を続けていけたらいいなあと思います。さあ、今日はこれからスタジオに行って個人練習です。その前に楽器屋にも寄りたいし、そろそろこの原稿を締めて、眉毛書いてとっとと出かけないと。ということで、それでは、また。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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