【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第9回『こえってなんだっけ part.2』

2022.07.1

前回の連載で、現在はミックスボイスと地声の二つを使い分けているということ、そして7月6日にリリースとなるニューアルバム『また会いましたね』では、今まで以上にそういった声の使い分けも楽しんで聴いていただけるんじゃないかということを書きました。

先日、そのアルバムの中から「明大前」という楽曲のミュージックビデオが公開され、単曲先行配信も開始されました。もうチェックしていただけましたか? まだという方はぜひ見て、聴いてください。

「明大前」Music Video

「明大前」単曲先行配信:https://sekitorihana.lnk.to/Meidaimae

ということで今回は、「明大前」で私がどこをミックスボイスで歌っていて、どこを地声で歌っているのかというのを実際に解剖していこうと思います。以下が歌詞です。

明大前の踏切で
今夜も僕は立ち止まる
見えない星を眺めて考える
これで最後と言い聞かせ
何年が過ぎただろう
それなりの結果一つ残せずに


いろんな遊びを覚えて
たくさん友達もできて
朝まであんなに語り合ったのに
みんな遠くに行っちゃった
今じゃテレビの向こう側
素直にまだエールは送れない


嗚呼 そしてまた今日が終わる
僕は一人途方にくれる
何もできず 何一つ変われず
ロックスターにもアイドルにもなれずに
ただ時が過ぎてゆく
いつまでこんなことしてるのだろう


明大前の踏切を
越えた向こうのアパートで
いつでも君は眠らず待っている
増えない金 すり減る未来
きっと気づいてるはずなのに
変わらず愛し
てくれるのはなぜ

嗚呼 そのまっすぐな眼差しで
変わらずくれる優しさで
胸が痛い ただ胸が痛いんだ
安心も宝石もあげれない 君一人守れない
だけどごめんねの先は何もない

嗚呼 そしてまた今日が終わる
僕は一人途方にくれる
何もできず 何一つ変われず
ロックスターにもアイドルにもなれずに
ただ時が過ぎてゆく
いつまでこんなことしてるのだろう

いつまでこんなこと でも

「明大前」作詞・作曲:関取 花

と、こんな感じです。そしてこの色分けは何かというと、青がミックスボイス赤が地声で歌っている箇所ということになります。もっと綿密に言うとサビ前の「イエー」のところから地声だったり、サビの各行頭の音程が高い一音だけミックスが入っていたりもしますが、そういう細かいところはちょっとここでは割愛させていただきます。

では具体的にどうしてこういう歌い分けになったのかというと……よく覚えていません(笑)。ただ何も考えずに歌いました。この曲は特に頭でっかちになって歌わない方がいいと思って、たしかメインは2テイクくらいしか歌わなかったです(今回のアルバムは他の曲もそれくらいです)。だからあとから聴き返して、「すごいなここの歌い方」と我ながら感心しちゃいました。

たとえば2番のAメロのラストの行。1番のAメロではラストの行もミックスボイスで歌っているのですが、2番では途中から地声に切り替わっています。2番と1番の歌詞の最も大きな違いって、具体的な「君」が出てくるところなんですよね。そこまではなんとか自己解決できていた感情が、自分だけの都合では済ませられない現実と共に押し寄せてくる。他人の人生をも巻き込んでいることへの申し訳なさ、それでも追いかけたい夢、どうしようもない自分。そういうあらゆるものへのあらゆる感情が、「君」という対象を思い浮かべることでいよいよ無視できなくなってきて、「それでも愛してくれるのはなぜ」で思わず叫びが心を突き破ってしまった、そんな歌い方に聴こえました。

みなさんにはこの声が、この歌が、どんな風に聴こえるのでしょうか。人によってきっとそこに感じる意味は違います。そしてその時々の状況によっても聴こえ方は変わってくるのだと思います。最後の行の絞り出すような「でも」も、どういう「でも」なのか、きっと受け取り方は様々です。

ちなみに今原稿を書きながら思い出したのですが、この曲はレコーディングの時、一回歌っただけで他の曲とまったく違う疲れ方をするので自分でも驚きました。なんか精神ごと身体が持っていかれるというか……。頭じゃなくて心で歌っていたんだと思います。いい意味であんまり歌っていた最中の記憶がない、限りなくライブに近い歌唱でした。

そう、ライブの何が好きって、嘘がつけないところが好きなんです。少しでも邪念があれば声ですぐにバレてしまう。逆に気持ちさえこもっていれば、音程を外そうとリズムが多少ずれようと、絶対に伝わるものがある。この曲は、ライブを重ねてもっともっと化ける曲だと思います。感情が乗る歌は、経験を重ねたぶんだけ間違いなく深みが増しますから。秋からはアルバムを引っ提げたツアーも始まります。ぜひ遊びにきてくださいね!

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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