【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第47回:「で、うたってなんだっけ」

弾き語りツアー「ひとりぼっちもわるくない」、無事完走いたしました。5月24日の京都公演から始まり、8月23日の東京公演まで全14ヶ所。とにかく健康無事で乗り切ることができたことにホッとしています。ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました。

2024年の12月から所属していたメジャーレーベルと事務所を離れ、独立をして基本的には完全に一人で音楽活動をするようになってから、初めてのツアーでした。各地のイベンターさんと相談しながら日程や会場を決め、物販を作り、釣り銭の計算やアルバイトさんの手配をし、交通宿泊の準備、券売状況の確認とそれに伴うホームページやSNSなどのアナウンス更新、もちろん合間には他の仕事やライブもあり……。とにかく初めてのことの連続で、うっかりミスは何度もしたけれど、ライブ会場やお客様、その他スタッフさんに大きなご迷惑を(私が思う限りでは)おかけすることなく完走できたので、まずは自分を褒めてやりたいと思います。

今までよりもやることは増えて確実に気力体力共に使ってきたはずなのに、とにかくめちゃくちゃ楽しかったです。お客さんやスタッフさん、たくさんの方々のおかげでライブができていると身をもって感じながらツアーを回れたので、一本一本のライブへの想いも半端じゃなかったです。毎回発見と感動があって、終演後のビールの美味しさもひとしおでした。どこかマンネリ化の気配もあった我が音楽人生は、まるでもう一度産まれ直したかのように輝きを取り戻しました。ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、今の本当の気持ちです。

正直に言うと、荷物が増えすぎていた感覚が昨年まではありました。あれもやっていいよ、これもやっていいよ、これはやっておくよ、花ちゃんは音楽だけやっていたらいいよ、というありがたすぎる環境は、自分のような人間にとっては勝手にプレッシャーになっていたのだと思います(念のため言っておきますが、誰かに何かを押し付けられたということは今まで基本的にありません。すべて自分で選んだ道の上で私が勝手に感じていたことなので、誰もわるくありません。お世話になったすべての方々に、今はひたすら感謝の気持ちでいっぱいです)。

なんというか、「これだけやっていただいているのだから、とにかく数字で結果を出さなければ」と思い過ぎていたんですね。でも捨てられないプライドだって変えられないこだわりだって自分にはあったし、そうなるともうどうしていいのか……。何をするにも考えすぎて、不安になって、「せめて失敗しないための予防策としての荷物」をどんどん増やしてしまっていた状況でした。歌詞を間違えたくないから譜面台を置く。座っていた方が家の制作環境に近くて安心するから座って歌う。そんな風に気づいたらどんどん荷物は増えていきました。

でも独立してからは、そんなこと物理的に言っていられないわけです。機材車なんてないから自分で運べる分のものしか持ち運べない。譜面台も椅子も一人で新幹線移動するのに持って行けるわけがありません。衣装や着替え、メイク道具、機材など他の荷物ももちろんありますしね。だったらどうする、使わなくても大丈夫な自分になればいい。

ツアー最終日の東京、ステージにはギターとマイクと水だけを置きました。小物台も譜面台も椅子も何もありません。この身一つさえあれば成立するライブの状態まで持っていくことができた時、そしてそのシンプルなステージをこの目で見た時。「強くなったな」と思いました。

当然そうなると歌も変わります。ツアーファイナルに遊びに来てくださったいつもお世話になっているローディーさんが、「今日の歌は、作られたものじゃなくて完全にその場で生まれたものだった」と言ってくれました。本当に嬉しかったです。ライブ中のあらゆる間(ま)、MCのタイミングや内容、呼吸、歌やギターのアレンジ。そのすべてがたしかにその場で生まれたものでした。

さあ次の曲を歌おう、と思ってブレスをする。でもなんだか今じゃない気がする。そう思ったら、とりあえず歌い出すのではなく、自分の心と体が歌いたいと言うまで一瞬待つ。そんなことができるようになりました(弾き語りだからできることでもありますけどね)。自分と常に対話しながらライブができた気がします。

ツアー合間、8月頭にはレコーディングもしました。なんと、この私が立って歌入れをしました。この連載でも過去に書いているかと思うのですが、私はこれまで音楽を初めて15年間、椅子に座っての歌入れしかしてきませんでした。立って歌うと自分で自分を持て余してしまう感覚があって、どうにも上手くいかなかったんです。

でも今回は大丈夫でした。心身ともに身軽に、そして強くなった私は、どこかに重心を預けなくても自分自身のことを支えてやれるようになっていました。さらに今までは座って歌う上にギターも抱えていないと不安だったのですが、それもなくて平気でした。ライブ同様、この身一つ何も持たず、私が私でいられたら大丈夫と思えました。録音もとてもスムーズに進み、歌い方にも迷いがなくなったからか、ほぼ一発OKで歌録りを終えました。

今の私の歌は、今の私自身なのだとあらためて思います。私が強くなれば歌も強くなる。私が優しくなれたら歌も優しくなる。私が成長すれば歌も勝手に成長する。歌はナマモノで、イキモノです。だから「ライブ」をするのでしょう。あらまあうまいこと言っちゃって。お後がよろしいようで。なんちゃって。

とにかく、「うたってなんだっけ?」と今誰かに聞かれたら、声高らかに私はこう言うでしょう。「人生!」と。

〜追伸〜

こちらの連載、なんと書籍化が決定いたしました! しかもなんと、発売は年内を予定しております。

いつか形になればいいなあとはずっと思っていたのですが、まさかデビュー15周年、独立一年目の記念すべき年に実現するなんて……。歌うことも、文章を書くことも、そして自分の人生そのものも、紆余曲折を経ながらもとにかく続けてきてよかったなあと思います。

また続報があればこちらの連載でもお伝えしてまいりますので、来月からも引き続きお楽しみいただけたら幸いです。

これからも関取 花と「うたってなんだっけ」をどうぞよろしくお願いいたします!


最新アルバム『わるくない』インタビュー



リリース情報

ニューアルバム『わるくない』関取 花
2025年5月7日(水)リリース

NKT-10001/2,500円(税込)
CD配信リンク:https://lnk.to/warukunai

関取花『わるくない』ジャケット

<収録曲>
01. わるくない
02. VRぼく
03. いつかね
04. 空飛ぶリリー
05. 安心したい
06. 二十歳の君よ
07. 会いたくて

「VRぼく」関取 花(アルバム先行配信曲)
2025年4月16日(水)リリース
先行シングル配信リンク:https://PCI.lnk.to/Vrboku

ライブ情報

関取 花 バンドセットワンマンライブ2025

2025年12月27日(土)
大手町三井ホール
開場 16:00/開演 17:00

チケット:指定席 6,000円(税込)ドリンク代別
※3歳以上チケット必要 / 3歳未満のお子様は大人1名につき1名まで膝上にかぎり無料

一般発売:一般発売 9/27(土)10:00〜

お問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション
☎050-5211-6077  受付時間:平日12:00~18:00
https://www.red-hot.ne.jp/

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プロフィール

関取 花

関取花

1990年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライター。幼少期はドイツで過ごす。2017年にリリースした楽曲「もしも僕に」は、現在MV再生数850万回を超え、今なお伸び続けている。愛嬌たっぷりの人柄、独特の感性とおしゃべりからエッセイの執筆やラジオ、テレビ出演など活動は多岐に渡る。2025年、メジャーレーベルと事務所をはなれ、デビュー15周年という節目を迎え独立を発表。自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。5月7日、最新アルバム『わるくない』リリース。ちなみに関取 花は本名だが、先祖はお相撲さんではない。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2025年、デビュー15周年という節目を迎え自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。2025年5月7日に最新アルバム『わるくない』をリリース。

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