【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第46回:「むじかくってなんだっけ」

2025.08.1

久しぶりにデモを録音しました。と言ってもボイスレコーダーでの一発録りですが。

私はツアー中などに曲作りをするのが苦手です。大体毎年の流れとしては、ツアーが終わって一段落したところでようやく重い腰を上げて曲作りをし始めます。やっぱりツアー中はライブ脳になっているので、「ライブで盛り上がるか」「セットリストの中でどんな曲があったらバランスがいいか」などをどこか考えながら作ってしまうので、後々聴き返すとちょっと狙って作った感じが透けて見えるというか、不自然な仕上がりになりがちなんですよね。そういう作品は結局アルバムに入れないので、経験上そうじゃなく曲作りができるタイミングまで待つことにしています。

しかしこの前デモを録音したタイミングに関しては、ちょっと色々と活動としてこうしていきたいというのがツアー中に見えてきたのもあって、あえて軽い気持ちでデモを録ってみることにしました(曲自体は2年ほど前からあったもので、作成当時から気に入っていた楽曲でした)。

とはいえ最初はせっかくだしと思いインターフェースをパソコンに繋いで録音していたのですが、どうも仕上がりを聴くと曲の良さが消えてしまっているような気がして納得できませんでした。歌詞だけでは説明できない部分の楽曲に込めた思いみたいなものが、なんだか薄れてしまったような気がしたんです。感情が見えないというか、受け取る景色が平面に感じるというか。

音楽をやっていると、「天才だ」と思う人に出会うことがあります。ポイントは人それぞれだと思うのですが、私がそう思う人に共通して感じるのは、「無自覚さ」です。世にも珍しく、皆が手に入れたいと思うような輝きを持って生まれた宝石であるということに、本人はまるで気づいてなさそうな人がたまにいます。だけどそのまま無自覚でいることはほとんど難しいです。なぜならそんな人はまわりが放って置かないですから。

宝石も道端に落ちていたらただの小石だと考える人は一定数います。もちろんその気持ちもわかります。でも、美しく磨かれてリボンをかけられて草むらからショーウィンドウに並べられたその瞬間に、なぜか輝きが色褪せるパターンは結構あります。こればっかりはやってみないとわからないけれど。

そんな中で私が思う天才な人というのは、道端に落ちた石ころのまま世界を変えてしまうような人です。通り過ぎた誰もがその輝きに目を奪われながらも、あまりに無自覚なその姿に、かつての自分の素直さや幼さ、懐かしさを感じてただただじっと見つめてしまいたくなるような、そんな人。今まで実際にライブを間近で見てそう感じたのは一人、二人くらいですが。

私はというと、はっきりと自信を持って言えますが、たぶん天才ではありません。人から見てどうかはわかりませんが、私の基準の中での天才と言える人間でないことはたしかです。一生懸命考えて、ああでもないこうでもないと絶えず動きながら一角ずつ削っていって、人より時間をかけてやっと輝く面が顔を出すようなタイプです。

でもそんな私でも少しだけ「天才かも」と思える瞬間があって、それが完成した一発録りの弾き語りデモを自分で聴き返した時です。リズムもよれよれ、ピッチも良くない。なんならギターと歌のバランスだってめちゃくちゃ。でもとってもみずみずしくて、無自覚な輝きをたしかに放っているんですよね。そう、まるで音楽を始めたばかりの時のような。かつて皆が等しく天才だったあの頃のような。

だから私は音楽を始めてから15年間、入念にデモを作るということをしたことがありません。厳密に言うとしようと思ったり軽くやってみたことはあるけれど、レコーディングメンバーやプロデューサーさんにその音源を送るかと言ったら、一度も送ったことはありません。きっとそうすることで私は何かの心のバランスを保っているのかもしれません。

とはいえ、SNSなんかを見ていると今の若い方々の作る楽曲には感心することばかりです。トラックから自身で作って、デモの段階から歌い方や見せ方までセルフプロデュースの力がすごすぎる。時代と共に「天才」の定義は変わってくる気もしています。

それでもいちいち心臓が掴まれた方向を見つめて立ち止まりながら、自分が美しいと思う形となるべく向き合って行きたいなとは思います。きっとこの先も人より時間はかかるだろうけれど、それがいずれ私の唯一無二の輝きになると信じて。


最新アルバム『わるくない』インタビュー


リリース情報

ニューアルバム『わるくない』関取 花
2025年5月7日(水)リリース

NKT-10001/2,500円(税込)
CD配信リンク:https://lnk.to/warukunai

関取花『わるくない』ジャケット

<収録曲>
01. わるくない
02. VRぼく
03. いつかね
04. 空飛ぶリリー
05. 安心したい
06. 二十歳の君よ
07. 会いたくて

「VRぼく」関取 花(アルバム先行配信曲)
2025年4月16日(水)リリース
先行シングル配信リンク:https://PCI.lnk.to/Vrboku

ライブ情報

弾き語りツアー「ひとりぼっちもわるくない」
※7月1日以降の公演のみ記載。

7月5日(土) 北海道・札幌musica hall café 
7月19日(土) 広島・広島Live Juke
7月20日(日) 岡山・岡山城下公会堂 in KOTYAE
8月2日(土)兵庫・神戸グッゲンハイム邸 
8月3日(日) 大阪・大阪Soap opera classics 
8月9日(土) 福岡・福岡ROOMS 
8月23日(土) 東京・東京 雷5656会館 

【チケット一般販売中】
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プロフィール

関取 花

関取花

1990年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライター。幼少期はドイツで過ごす。2017年にリリースした楽曲「もしも僕に」は、現在MV再生数850万回を超え、今なお伸び続けている。愛嬌たっぷりの人柄、独特の感性とおしゃべりからエッセイの執筆やラジオ、テレビ出演など活動は多岐に渡る。2025年、メジャーレーベルと事務所をはなれ、デビュー15周年という節目を迎え独立を発表。自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。5月7日、最新アルバム『わるくない』リリース。ちなみに関取 花は本名だが、先祖はお相撲さんではない。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2025年、デビュー15周年という節目を迎え自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。2025年5月7日に最新アルバム『わるくない』をリリース。

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