【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第45回:「つづけるってなんだっけ」

2025.07.1

音楽をやりはじめた理由は明確に説明できるのですが、やり続ける理由って何? と聞かれたらちょっと難しい。これって一体なんなんだろう、と最近ふと思いました。

これは自分自身に対してだけでなく、まわりのミュージシャンのこともぼんやり頭に浮かべてのことでした。やってきた年数にもよりますが、正直20代までは全然わかるんです。なぜならはじめた理由を何かしらの形でまだ追い求めている期間内だと思うから。でも今30代も半ばになって、まわりの先輩たちは40代の人も増え、みんななぜ音楽をやり続けているのか、その理由は正直見ているだけでは本当のところは全然わかりません。そこにわかりやすい富や名声があったとしても、私は同じようにハテナを浮かべます。

念のため言っておきますが、こんなにやっていて辛いのにどうしてとか、そういうネガティブな話ではまったくありません。うまく伝わらないかもしれないですが、たとえるなら「なぜ地球は丸いのか?」に近いというか。当たり前にそういうものだと思い込んで日々を過ごし続けているけれど、そもそもなんでそうなったんだっけ? というところにふと立ち返りたくなった感じです。

当然ながらそれぞれに抱いているロマンみたいなものはあると思います。だとしたらそのロマンをなぜ当たり前のように抱きしめながら活動を続けているのか、という話です。「初めて聴いたロックンロールの衝撃が忘れられなくて」「生きた証を音楽に残したくて」「聴いてくれる人がいるから」など、言葉にすればそれなりにいろいろと言い表せますが、それはやっぱりはじめた理由の方に寄っているんじゃないかな、と。なぜ続けているのかというその理由に関しては、もっとシンプルで、そしてそんなにもしかしたらかっこいいものでもない何かがあるんじゃないか、そんな気がしてどうにか自分の中で言語化したいと思いました。ただの好奇心です。

そこで、何人かの同業の友人に尋ねてみました。でもみんな「そう言われたらなんでなんだろうね」と言っていました。たとえば「夢は武道館!」と言ってそれを目標にそのために音楽をやり続けて、じゃあいざ達成できたとしても、多分そのあとも我々は音楽をやり続けるじゃないですか。じゃあ音楽をやり続ける理由ってべつに武道館では本当はなかったよね、となるわけです。

そんな中、「なぜ私たちは音楽をやり続けるんでしょうかね?」ととある先輩に聞いたところ、「始めたからじゃない?」とだけその人は答えました。私は雷に打たれたような気分でした。言語化できずにああでもないこうでもないと考えたり聞いてみたりしていたことが、たった一言でズバーン! と解決された瞬間でした。

ああ、そうだよな。始めたからやり続けているだけなんだよな。本当にそう思いました。だって言ってみれば人生だってそうじゃないですか。誰が生まれる前から「絶対に人間としてこの地に生まれたい!」と願っていたでしょうか。精神世界の話は一旦置いておくとしたら、みんな基本的にはたまたま人生が始まったから今それぞれの人生をそのまま生き続けているだけですよね。いい意味で。始まったから続けている。本当に案外大抵はそんなものなのかもしれません。

ほとんどのことに本当は大義名分なんてなくて、大体の理由は後からついてくるもので、なんなら終わる最後のその瞬間にすべてを振り返った時に初めてぼんやりとその理由を知ることだって多いわけで、べつにそれでいいんですよね。

始めたから、やり続けている。ただ、それだけ。これだけ読むとぶっきらぼうに聞こえるかもしれませんが、これ以上ない真っ当で誠実な理由だなと私は思います。むしろどんな立派な言葉よりも希望さえ感じる。だって何かを始めることとそれを続けること、この2つさえできれば人生なんてあっという間に過ぎてしまうくらいには尊い行動だと思うから。

私にとってはそれがたまたま音楽でしたが、きっとそれはどんなお仕事、趣味についても言えることなんだと思います。これから先何かについて重く考え過ぎそうな時に、私は何度でもこの言葉を思い出すと思います。「始めたから、続けている」ただ、それだけ。それがどんなに大変でかっこいいことか、今ならよくわかります。


最新アルバム『わるくない』インタビュー


リリース情報

ニューアルバム『わるくない』関取 花
2025年5月7日(水)リリース

NKT-10001/2,500円(税込)
CD配信リンク:https://lnk.to/warukunai

関取花『わるくない』ジャケット

<収録曲>
01. わるくない
02. VRぼく
03. いつかね
04. 空飛ぶリリー
05. 安心したい
06. 二十歳の君よ
07. 会いたくて

「VRぼく」関取 花(アルバム先行配信曲)
2025年4月16日(水)リリース
先行シングル配信リンク:https://PCI.lnk.to/Vrboku

ライブ情報

弾き語りツアー「ひとりぼっちもわるくない」
※7月1日以降の公演のみ記載。

7月5日(土) 北海道・札幌musica hall café 
7月19日(土) 広島・広島Live Juke
7月20日(日) 岡山・岡山城下公会堂 in KOTYAE
8月2日(土)兵庫・神戸グッゲンハイム邸 
8月3日(日) 大阪・大阪Soap opera classics 
8月9日(土) 福岡・福岡ROOMS 
8月23日(土) 東京・東京 雷5656会館 

【チケット一般販売中】
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プロフィール

関取 花

関取花

1990年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライター。幼少期はドイツで過ごす。2017年にリリースした楽曲「もしも僕に」は、現在MV再生数850万回を超え、今なお伸び続けている。愛嬌たっぷりの人柄、独特の感性とおしゃべりからエッセイの執筆やラジオ、テレビ出演など活動は多岐に渡る。2025年、メジャーレーベルと事務所をはなれ、デビュー15周年という節目を迎え独立を発表。自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。5月7日、最新アルバム『わるくない』リリース。ちなみに関取 花は本名だが、先祖はお相撲さんではない。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2025年、デビュー15周年という節目を迎え自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。2025年5月7日に最新アルバム『わるくない』をリリース。

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