【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第41回『うたってなんだっけ2025』

2025.03.1

2月22日(土)横浜にぎわい座芸能ホールにて、「年始だョ!全員集合2025〜独演会〜」を開催しました。毎年恒例で行っているライブですが、今年は初の独演会、弾き語りでの公演でした。デビュー15周年、原点に立ち返ってたったひとりでステージに立ちたかったからです。

この日、私はレーベル、事務所共に所属していたユニバーサルシグマを離れ、独立して活動していくことを発表しました。それに伴い、NOKOTTA RECORDSという自分のレーベルも立ち上げました。発表はこの日と決めていたのでまだしていませんでしたが、実は12月からすでに独立していました。

1月に配信リリースした「二十歳の君よ」という楽曲も、実はNOKOTTA RECORDSからのリリースでした。たった一曲を配信リリースするのも、ものすごく大変なことを知りました。長く細かいフォーマットへのいろいろな情報の記入、媒体向け資料の作成、アートワークの入稿、その他もうとにかく全部です。ディストリビューターの方にたくさん質問し教えていただきながら、無事配信された日の喜びといったら。15年間音楽をやってきましたが、こんなにやることがあるんだ、と本当に驚きました。

それが終わればにぎわい座の準備です。タイムテーブルを作成したり、各セクション(音響さん、照明さんなど)の方々と連絡を取ったり、お弁当をどうするかとか、もちろんグッズの制作、そしてその日に発表する諸々の情報の準備……。正直とても書き切れません。こちらもイベンターさんや他のスタッフさんたちからいろいろなことを教えていただきながら、とにかくてんやわんやの毎日でした。

どんなに準備をしたつもりでも「あ、あれもやらなきゃ」が出てくる、そういうことの連続でした。どれだけの人に助けられながら一本のライブができているのかを、本当の意味ではじめて実感しました。どんなに感謝の気持ちを持っていても、大体のことはわかった気になっていても、正直これは実際に自分でやってみないとわからないことだったと思います。

通常、ミュージシャンはスタッフ陣よりも会場への入り時間が遅いです。ステージのセッティングなどが済んだ状態のところに、リハーサルをしに入ります。ですから、本当の本当の素舞台みたいなものって実はあまり目にする機会がありません。会場の下見の時なんかに見ることはあるかもしれませんが、当日にどれだけの人がどれだけの機材をどんな風に搬入、設置しているのか。そういう様子を見る機会って、ないです。

でも今回、初めて私はスタッフの皆さんと同じ時間帯に会場入りし、それらを見ることができました。舞台セットがどのように作られるのか、マイク(私の立ち位置)はどのように場所を決めるのか、照明さんはどのように美しい影を作るのか……。各セクションの職人たちの真剣な眼差し、音のないまっさらな会場。今まで何度もやってきた場所、何度も一緒にライブを作ってきた仲間たちなのに、私はまだ何も知らなかったんだ、と思いました。

そうして立つステージの上は、いつもとまったく違うものに感じました。聖域とでも言いましょうか、神聖な場所のように感じました。すべてのことが洗い流され報われるような、そんな気持ちになりました。間違いなく過去一番の集中力でライブができたと思います。

歌も、不思議な感覚でした。本番は自分でも驚くほど緊張せず、喉が一曲目からほぐれているのを感じました。私は大抵、高音の調子がいい時は低音の調子がイマイチだったり、その逆もまたしかり、あるいは全体的に70点だな、という日は人間なのでやっぱりあったりするのですが、この日はいい意味で採点不能、という感じでした。力が抜けているのにどこまでも出そうで、とにかく安心感がすごかった。力むことなく、頭で考えることもなく、感じたまま、思ったままのニュアンスが勝手に口から音となって出てくる、そんな感覚でした。どの曲も、作った瞬間の喜びみたいなものがまるで蘇ってくるかのようでした。

よく、「アーティストは演奏にだけ集中してくれればいいから」と言っていただけるのですが、私個人としては実はここ数年、そこへの違和感を抱いていたのも事実でした。(これは本当に単純に私の性格の問題なので、何かや誰かが間違っている、という意味での違和感では決してありません。念のため、悪しからず)「本当にそれだけでいいのか、何かを自分は知らなすぎるんじゃないか」という思いがずっとありました。

薄々感じていたのですが、私はどうやら身をもって経験し、社会の仕組みや成り立ちをできるだけ(自分なりに)理解し、何をすべきかを考え、自分の人生が豊かになっていると感じられる時の方がいい歌が歌えるみたいです。私にとって歌というものは、「人生を音で表したもの」という感覚なんだなとあらためて思いました。

今回は、まさにそんな体験の連続の中でのライブでした。もうね、やっぱりそうしたらとにかく歌う喜びがすごかった。間違いなく人生で一番楽しかった。嬉しかった。音楽を今やれていることへの感謝が溢れて、勝手に歌になった。

デビュー15周年、34歳、社会人一年目。まだまだ知らないことはたくさんあるなと実感する毎日です。でも、自分はきっともっと、まだまだいい歌が歌えるだろうな、という希望で溢れています。たくさんの人にたくさんのことを都度教えていただきながら、まだまだ私は歌という名の旅を続けて行こうと思います。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2025年、デビュー15周年という節目を迎え自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。2025年5月7日に最新アルバム『わるくない』をリリース予定。

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