【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第37回『カラオケってなんだっけ』

2024.11.1

体感二億年ぶりくらいにカラオケに行ってきました。高校生の頃は狂ったように通っていたのですが、今となっては全然機会がなくなりました。大人になってしまえば放課後のような時間はないし、ストレス発散にはカラオケよりもお酒を飲むことが選ばれる気がします。でももしかしたらそれ以上に、今の時代だと意外に気を遣う遊びなのかもしれないなとも思いました。

学生時代って、日常会話の一つに今聴いている音楽の話があったし、何より私が学生の頃はまだ流行りの音楽というのが今ほど細分化されていなかった印象で、だから「みんなが知っている曲」がそれなりにあったんですよね。でも今、特に33歳の私くらいの世代って、「SNSで流行している曲」「見ているドラマで流れるから知っている曲」「単純に自分の好きな曲」がうまいこと重なり合う、そういう曲ってなかなか少ないんですよ。個人個人で音楽の聴き方も違うし、出会い方も違う。だから聴いている曲が違うんですよね。

そうなるとまずは選曲に悩みます。誰も知らないかもしれない曲を歌うのって、なかなか勇気がいるじゃないですか。3分の曲なら3分、5分の間なら5分、せっかくカラオケに来たのに気まずい思いをしながら歌いたくなんてありません。それにカラオケの選曲って、ある意味自分の部屋を見せるくらいの自己開示だとも思うんですよね。その人の印象に直結するし、なかなか照れくさい行為でもある。

と、ここまで話しておいてなのですが、私はやっぱり根っからのカラオケ大好き人間だったようで、久しぶりに行ってもそういう恥ずかしさってあまり感じませんでした。誰も知らないなら知らないで勝手に気持ちよく歌うし、みんなが知っている曲ならみんなで盛り上がればいい。もちろん最初はちょっとだけドキドキしたけれど、一曲歌い終わる頃にはそんなのなくなりました。「私は私が気持ちよく歌えたらそれでいいのだ」と思えたら、あとは好きな曲をひたすら入れて行きました。その曲について思い入れがあるとかないとか、そのミュージシャンが好きだとか、そんなのはもう二の次です。とにかく気持ちよく歌いたい、それだけ。

その日は同業の友人たちと行ったのですが、後日話をしていたら、なかなか面白い話を聞きました。とある友人曰く、「ボーカリストの人って、カラオケでどう振舞うかが結構二極化する気がする」と言うのです。どういうことかと話を聞くと、私のように、「ボーカリスト関取花」としてではなく「ただの関取花」として楽しめるタイプと、カラオケでもあくまでも「ボーカリスト〇〇」として歌う人の2タイプがいるとのことでした。なるほど、これは興味深いなと思いました。

後者の場合は、普段その人がやっている音楽のイメージに近い曲を選ぶし(つまりイメージを裏切らない選曲)、歌う時も「外してもいいや」とはならずに、きちんと真剣に歌うのだとか。たしかにボーカリストにとってカラオケって、プライベートなのにお仕事の成果を披露するみたいな変な場所でもあるんですよね。そういう時に、ステージ上、つまり歌を歌う時に、舞台上用の自分みたいな設定がきちんとある人ほど、なかなかそういう意識はカラオケでも捨てきれないのではないか、ということでした。

それでいうと私はシンガーソングライターで、やっている内容も割と人生と音楽活動が直結しているタイプの人間なので、今でも学生時代のような気分でカラオケを楽しめるのかもしれません。仕事のオン・オフはめちゃくちゃはっきりありますが、カラオケはそういう意味でいうと完全オフの時にしか行かない場所なので、もうそっちに決めちゃえばボーカリストとしてのスイッチはオンになることはないんですよね。だから何も気にせず歌える。もちろん、どちらがいい・悪いという話ではありません。ボーカリストの中でも2パターンいる、というのが面白いなと思ったというだけの話です。

あともう一つ発見だったのは、マイクです。私は普段のライブでは自分用のマイマイクを使っていて、これはマイクの特性と自分の声の特性を考えて選んでいるものです。自分の苦手な箇所、特に声が小さくなってしまうような音域は、マイキングのみでは限界があったりします。でもそこを補填するような特性のあるマイクを使うことで、苦手な部分をグッと前に出せたりします。そうすることで、歌をより聴こえやすく届けることができるのです。

しかし、カラオケのマイクは当然マイマイクではありません。だからこそ逆に、自分の本来の弱点みたいなのがくっきりと見えてきて、とても勉強にもなりました。なるほど、やっぱりこの音域が私は弱いなとか、ここの音域は結構キーンとくるな、とか。よりフラットな耳で、客観的に自分の声を聴くことができたのもよかったです。

学生時代と変わらずに楽しめている自分もいれば、そんな中でも何かしらの学びを持って帰ってきている自分もいるのが、なんだか新鮮でした。でも一つ確実にわかったのは、思っていた以上に自分は歌うことが好きなんだということでした。楽しみながら学べるって、一番いいですよね。それが結局、長く続く秘訣だったりしますから。これからもちょっと頭でっかちになりそうな時には、カラオケに行ってこの気持ちを取り戻すのはアリだなと思いました。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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