【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第32回『うたいたくなるってなんだっけ』

2024.06.1

みなさんのよく行くスーパーではどんな音楽が流れていますか? 流行りの音楽、ヒット曲のインストゥルメンタルバージョン、フレッシュな感じの洋楽……。そしてそのスーパーのオリジナルソング。耳をすますと、案外いろんなお店でオリジナルソングが流れていますよね。

私は昔からそういうオリジナルソングが大好きで、よく行くお店のであれば大体歌うことができます。歴代住んできた家の最寄りのスーパーはすべて違うお店でしたが、それぞれにオリジナルソングがあり、今でも割と覚えています。

通っていくうちにどんどん愛着が湧くのもオリジナルソングのいいところです。フルで歌詞つきで歌えるようになる頃には、曲が聴きたくてそのスーパーに行っちゃうなんてことも。

ライブで遠征の際も、時間があれば地元スーパーに行くようにしています。そこではいつも以上に耳を大きくして店内をぐるぐる歩き回り、オリジナルソングが流れていないかをチェックします。そして流れていようものなら即検索、なるべく覚えて帰るという。

なぜこんなにも私がスーパーのオリジナルソングに心惹かれるのかというと、はじめて聴いた瞬間からなぜか懐かしさを覚えるからです。童謡や唱歌に近いような、不思議な安心感があります。わかりやすい歌詞とメロディーで、どれも“日常”を表すのにぴったりな曲ばかり。なんというか、とても間口が広い音楽でいいなと思います。

先日もスタジオ作業の合間に買い出しに出かけたら、ちょうどとあるスーパーでオリジナルソングがかかっているところでした。私は一人心の中でその曲を口ずさんでいたのですが、通り過ぎた小学生くらいの女の子二人組は楽しそうに声に出して歌っていました。(混ざりたかった!)

きっと買い物に来るたびにその曲を耳にしていて、いつの間にか覚えたのでしょう。スーパーのオリジナルソングにはそういうキャッチーさがあります。覚えようとしたわけじゃないのに入ってくる、最高のポップスなのかもしれません。一度覚えたら2番、3番と同じメロディー構成が続くのも童謡的でいいですよね。こういう楽曲を作ることができたら気軽に子供たちにも歌ってもらえるのか、そんなことを思ったりもして勉強になりました。

そうかと思えばこの前、電車の中でCreepy Nutsさんの「Bling-Bang-Bang-Born」を歌っている、今度は小学生くらいの男の子二人組を見かけました。サビだけでなく難しいラップの歌詞もきちんと暗記して歌っていて、びっくりすると同時に感動しました。彼らにとってその曲がどれだけ胸躍るものであるかがビシバシ伝わってきました。

街中で子供たちがつい口ずさんでしまうような曲には、どんなジャンルであれ、何か音楽というものの本質が詰まっているような気がする今日この頃です。意味やギミックや流行だけでは語れないような、もっと手前にある何かが、彼らをそういう気持ちにさせるのでしょう。

そういえば、以前知り合いのお子さんに好きな曲は何かと聞いた時に、ついでに「どうしてその曲が好きなの?」と質問したことがあります。返ってきた答えは、「だって歌いたくなるから」でした。

歌やすいから歌いたくなる、かっこいいから歌いたくなる、楽しくなるから歌いたくなる、歌詞を噛み締めたいから歌いたくなる、よくわからないけど歌いたくなる……。どんな理由にしても、なんだかすごくいいなと思いました。音楽って文字通り、音を楽しむものですから。誰かの心が反応して歌いたくなったのなら、その曲はもうそれだけで音楽としての素晴らしい役割を果たしているわけです。

私も誰かが歌いたくなるような曲をたくさん書いていきたい。でも決して策に溺れず、大前提として、“自分自身が繰り返し歌いたくなる曲”であることを忘れないようにしないとですね。子供たちのような無自覚で手放しの無邪気な心を、いくつになっても大切に抱きしめていたいです。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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