【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第31回『しゃべるってなんだっけ』

2024.05.1

最近はツアーの合間にレコーディングをしているのですが、その時にふと気付いたことがあります。それはレコーディングメンバーの喋り声の良さです。

レコーディングスタジオには、ざっくり言うと二つの部屋があります。スタジオブースと、コントロールルームです。スタジオブースとは、私たちが楽器や歌を録音する時に使う場所のことです。コントロールルームとは、ミキサー卓やスピーカー、パソコンなどが置かれている、いわゆるレコーディングエンジニアさんが常にいる場所のことです。録音が終わったら私たちもこの部屋で録音したものをチェックします。

スタジオブースとコントロールルームは別部屋に分かれているし防音になっているので、直で会話することはできません。そういう時はトークバックというものを使います。コントロールルームにいる人がトークバック用のボタンを押しながら話すと、スタジオブースのヘッドホンにその声が届き、会話をすることができるというものです。この時スタジオブースの人の声は、マイクを通してコントロールルームのスピーカーから出てきます。なので、ちょっとラジオから聴こえてくる声のような感じで聴こえてきます。

みなさんは、「マイク乗りのいい声」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。好みの話も入ってきますし様々な解釈の仕方があると思いますが、私が思うマイク乗りのいい声というのは、小さな声で話していても奥行きと深みが感じられる、抜けがいい声というイメージです。そういう意味で言うと、やはりたまに声優さんのやられているラジオなんかを聴くとびっくりします。もう、みなさん本当に素晴らしいです。どんなにガチャガチャした場所で聴いていても、どんなに後ろにBGMが乗っていても、声だけが耳にスッと入ってくるんですよね。単純に声量があるから聴こえてくるというのとは違う、声の質や発声そのものによる響きが豊かだという印象があります。

そういう意味で言うと、今一緒にレコーディングしているメンバーのみんなは、それぞれ担当してもらっている楽器こそギター、ベース、ドラムですが、みんな「歌をよく歌う」メンバーです。普段から自分のバンドでボーカルをしていたり、コーラスの多い現場をやっていたり、ソロプロジェクトで歌を歌っていたり。ボイトレを受けているとかそういうわけではないと思うのですが、無意識ながら自分なりの声の出し方というのをよくわかっている人たちなのだと思います。

でも面白いのが、みんな客観的に自分の喋り声を聴くと、「え、自分ってこんな声してるの?」と驚くことです。とても素敵な声で喋っているのに、やはり自分で普段聴いている自分の声とは印象が変わるみたいですね。

そういう私自身もそうです。昔はラジオに出た時の自分の声を聴いて、「こんなに暗いし、通らないものなの?」とびっくりしました。それ以降はお仕事でお喋りする時は思っているより2トーンくらい上げて話すようにしています。今ではマイクが目の前にあると自然とそのスイッチが入るようになってしまいました。なのでどんなにしっとりした曲を歌った後でも、MCになるとつい明るい声になってしまいます。心と声がややチグハグになっているのを感じることもあったりして(笑)、個人的にはもう少し改善して行きたい点でもあります。

ちなみにそこがさらにプロフェッショナルな方々になってくると、TPOに合わせて、マイク乗りの良い声の中でもさらに「高い・低い・ゆっくり・速い」などを使い分けてお喋りすることができます。例えば、朝のラジオの場合は急いで準備をしている人や通勤・通学中のリスナーが多いので、バタバタしている気持ちを少しでも和らげてもらうために、少しゆっくり目に、トーンもてっぺんまで上げず、でも温かい感じで話す。お喋りを届けるというより生活やレジャーの情報をお届けする夕方以降の番組の場合は、情報がきちんと耳に入ってくるよう少しだけ声のトーンを落とす、でも深刻な感じにはならぬよう語尾は少し上げる、とか。どれも実際に現場で直接聴いた話です。すごいですよね。

もちろん、深夜ラジオでいつだって誰よりも声が出ている爆笑問題さんのラジオも私は大好きです。でもよく考えたら夜中の1時や3時にテレビで見るのと変わらない印象でお話できているって、それもとんでもないプロフェッショナルさですよね。しかも何か深刻な問題についてお話する時にはやはり違う声の響きになる。ハッとこちらが息を呑んでしまう。本当にかっこいいです。

声というのはあらためて本当に奥が深いなと思います。天性のものでもありますが、意識を少し変えるだけでガラッと印象が変わったりもする。でも、無意識に宿る不思議な魅力もあったりするわけで、あくまでも一ミュージシャンの私が喋り声についてあまり考えすぎてもなあとも思うんですけどね。でも歌と声というのは切り離せない関係なので、ずっと興味があるところではあります。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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