【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第22回『っぽいってなんだっけ』

2023.08.1

久しぶりに、カーリー・サイモンの『Boys in the Trees』というアルバムを聴きました。最近はシンガー・ソング・ライターものではなく割とバンドものの音楽を好んで聴いていたのですが、(暑くなると毎年そうです)なぜかふと聴きたくなって。

カーリー・サイモンの作品は言わずもがな素晴らしいものばかりですが、このアルバムはその中でも特に好きな作品です。豊かなアレンジと楽曲パターン、そして一曲ごとに違う彼女のその声色にいちいちドキッとさせられて、何度聴いてもまったく飽きのこない、不思議な魅力があります。

窓の隙間から入ってくる柔らかい風のような声かと思えば、ソウルフルで力強かったり、子供のような無邪気さがあったり。本当にどれだけの声を操ることができるんだこの人は! と、あらためて感動しました。

何よりすごいのが、それなのに全部の楽曲からちゃんとカーリー・サイモンっぽさを感じられるところです。たしかな音楽的ルーツがそこにあるのはもちろん、この頃はアルバムにも参加しているジェイムス・テイラーとの結婚時期でもあったり、女性としてどんどん成熟していく過程のある種の人間臭さ、土臭さみたいなものがそうさせているのかなとも思ったりしました。

生きてきた証がそのまま割とわかりやすく声や作品に出るのが、シンガー・ソング・ライターと言われるミュージシャンの面白いところです。もしかしたら楽曲に合わせて意識的に歌い方を変えているだけなのかもしれませんが、そういった柔軟性みたいなものは、やはり生きてきた中で身につけたものでしょう。

自分自身も、10代の頃や20代前半の頃に比べて、さまざまな歌い方ができるようになってきたなと感じます。ある時声が出なくなってしまってやむを得ず変えた部分などももちろんありますが、今はそういう時期も乗り越えて、羽の生えたような気持ちで、いい意味でその時々の自分の気分が、「こっち」という方の歌い方で歌えるようになってきたな、と思います。

同じ曲でも、誰かを包み込むように歌いたい時と、自分を突き刺すように歌いたい時があったりします。もちろん、そういうことさえ考えないで、本当の無意識で歌える時もあります。他者が聴いてどれくらいの違いがあるかというとわからないのですが、自分でライブの録音などを聴き返すと、結構面白いです。

今はそういった違いもポジティブに受け取れるようになりましたが、少し前までは、逆に不安要素として感じてしまう時期もありました。なんというか、そのせいで器用貧乏になって終わるんじゃないか、という不安です。

でもある時、「どんな曲をどんな風に歌っても、どれも結局花ちゃんっぽいから全然心配ないよ」と、マネージャーさんが言ってくれました。たくさんの音楽を聴いて、たくさんのミュージシャンを見てきた人がそう言うのだから、じゃあ大丈夫かなと思えました。マネージャーさんだけでなく、いつもサポートをしてくれているバンドメンバーたちも、いつだか同じようなことを言ってくれた記憶があります。彼らは皆、私が「誰かっぽい」ことをやってしまっていたら、いち早く気づく人たちです。そういう人たちが「どれも花ちゃんっぽい」と言ってくれる、こんなに心強いことはありません。どんな自分も関取花なのだと、もっと胸を張ろうと思えました。

カーリー・サイモンに限らず、キャリアが進んでいく中で、歌い方だけではなく、サウンド、歌詞の内容、ファッション、メイク、思想など、あらゆるものが人生の様々な出来事と共に変化していくシンガー・ソング・ライターはたくさんいます(バンドにもそれはあるけれど、シンガー・ソング・ライターはよりわかりやすいなと思います)。

ボブ・ディランだって、テイラー・スウィフトだって、みんなどんどん変わっていっています。でも、どの時代のどの曲を聴いても、どこかにその人っぽさって絶対透けて見えるものなんですよね。たとえ自分がその人に出会った時の音楽性や声とどんなに違っていても。

表面上だけではないところに耳を澄ましたり目を凝らしたりすれば、その人っぽさって見えてくるもので、そのうしろにある物語も自然と感じとることができます。そして誰かのそんな新しい一面に触れ、考えることで、また新しい自分に出会えたりします。

自分に対しても他者に対しても、変化にはなるべく寛容でありたいなと思う今日この頃です。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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