
【連載】「うたってなんだっけ」
関取 花
第48回:「ねがいってなんだっけ」
2025.10.1
この文章がアップされている本日10月1日は、新曲「わたしのねがい」の配信リリース日です。0時に配信開始なので、今これをお読みいただいているタイミングでは各配信サイトからお聴きいただける状態のはずです。
前回8月頭にレコーディングをしていたということを書きましたが、まさにそれがこの「わたしのねがい」という楽曲でした。歌入れについては前回の内容で若干触れているのでよかったら読んでみてください。
今回はこの楽曲のレコーディング全体の話をしてみようと思います。この連載でも何度か書いてきたかと思うのですが、私は基本的にレコーディングメンバーには弾き語りの音源と歌詞しか送りません。必要であれば構成譜も作成したりはしますが、最近お世話になっているレコーディングメンバーの皆さんにはお送りしていないのが現状です。曲を音やリズム以上に歌詞やメロディーで解釈してくれている方々で、すごく言い方が難しいのですが、「音楽の聴き方」がきっと自分と近いだろうな、と思うからです。
恐らくですが、ガッツリ構成譜を書きながら曲作りをしていくシンガーソングライターはそんなにいないんじゃないかなと個人的には思っています。詞先だとしても曲先だとしても、まずはメモ書き程度で曲を作っていく人が周りには多いです。音楽のスタイルにもよるとは思いますが、私のようなアコギ一本から曲を作っていくような人たちは、大体そんなイメージです。
そうなるとどうしても色々と感覚優先になるので、説明をすればするほど野暮になってしまうというか、逆に伝わる景色を狭めてしまう気がしてくるんですよね。美術館に行って絵を見に行った時、全部の絵の横に作者からの説明書きがあったら嫌じゃないですか。
「右側に描いたのは〇〇という人で、なぜ赤い絵の具で描いたかというとこういうねらいがあって……」と全部本人から説明されたら、「そうなんですね」で終わってしまう。正解を最初から提示してくれるのはとても親切だけど、事ものづくりにおいてはそれが仇になることもあると感じています。そうじゃなくて、「もしかしてこういうことかな?」と見る側、聴く側が想像するところにこそ、ものづくりの神様は宿ってくれる気がします。
作る側の意識を持ってもらう前に、まずはただ楽曲を聴く側の意識で想像を膨らませてもらう。そうすることで楽曲に広がりが出たり、それぞれの視点が合わさることで景色がどんどん立体的になっていたりといった化学反応が起きるんじゃないかなと思います。それができる相手、手放しで一度自分の曲を委ねられる人たち、というのに出会えたのだから、私は本当に運がいいなと思います。
そんなメンバーだからこそできたのがまさに今回のレコーディングでした。特筆すべきところはプリプロ(プリプロダクションの略で、実際にレコーディングするためのアレンジを決めたりする前準備のこと)の日を設けず、いきなりレコーディング本番当日だったというところです。
なんでそんな急なスケジュールにしたの!? と言いたくなると思うのですが、実は私なりに考えがあってのことでした。5月に発売した「わるくない」というアルバムも同じメンバーで録音したのですが(その時はプリプロをちゃんとやってからレコーディングしました)、みんなが弾き語りのデモだけを聴いてきて、スタジオで「まずは思い思いにやってみましょうか」と言って鳴らした一音目のあの輝きみたいなものが、私はどうにも忘れられなかったんですね。相手の出方で変えるようなものではなく、「私はこう思う」「僕はこう思う」という願いの集合体のような、グッとくるものがあったんです。
今回の楽曲はそのタイトルにもある通り、「願い」が自分の中でテーマでした。辞書的な意味は置いておいて、私は「祈り」が静だとしたら、「願い」には動のイメージがあります。いい意味でもう少しひとりよがりで、ただ誰かや何かを思うまっすぐであたたかい無垢な感情。そういったものをとにかくみずみずしく残したくて、プリプロはやらないでレコーディングがしたいと考えていました。
レコーディング当日、それぞれがセッティングを済ませて「じゃあ一旦やってみますか」と言って音を鳴らした瞬間。「これ!」と思ったのを覚えています。歌っていてワクワクしました。弾いていてドキドキしました。やりながら、自分がどう表現すればいいのかが自然とわかっていく気がしました。太陽の光が滲み、羊たちの群れがどこどこと空を駆けていきました。窓辺に青い鳥がチュンチュンと鳴きながらやってきて、穏やかな朝を連れてきてくれたようでした。私の願う、「わたしのねがい」の景色そのものでした。
レコーディングはスムーズに進み、歌録りもアレンジに導かれるように歌えたこともありあっという間でした。本当は今回の連載にレコーディングの際に使った歌詞カードへの書き込みを載せようかと思ったのですが、本当にすぐに終わって書き込みが一切なかったのでその案はボツにしました。ただ歌詞が書いてある紙を載せることになるので……(笑)。
そうやって完成した今回の楽曲、きっと一音目からその「願い」の息吹を感じていただけると思います。ぜひ聴いてみてくださいね。
リリース情報
「わたしのねがい」関取 花
2025年10月1日(水)配信リリース
配信リンク:https://pcim.lnk.to/watashinonegai

ライブ情報
関取 花 バンドセットワンマンライブ 2025
日時:2025年12月27日(土)
時間:開場 16:00 / 開演 17:00
会場:大手町三井ホール
チケット:指定席 6,000円(税込)ドリンク代別
詳細:https://www.sekitorihana.com/live/2161
書籍情報
ノウハウ本ではないけれど、歌う人にも贈りたい本。
デビュー15周年の関取 花が「歌」について綴った『Vocal Magazine Web』の人気コラムが書籍化!
新刊書籍『うたってなんだっけ』関取 花

2025年12月19日(金)発売予定
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)
仕様:四六判 / 256ページ予定
ISBN:9784845643592
商品詳細と予約はこちら
https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3125351004/
2010年にデビューし、2025年は15周年イヤーを送っているシンガーソングライターの関取 花による、自身2冊目の書籍。2021年より『Vocal Magazine Web』にて連載中のコラムをまとめたもので、『うたってなんだっけ』のタイトルが示すように、自身が考える「歌」についてシンガーとしての経験や活動を通した言葉が軽妙な語り口で綴られている。本書はいわゆる「歌のノウハウ本」ではないが、現在歌手や歌の活動をしている人や、これから歌を大事に生きていきたい人、歌そのものが好きな人にも届く内容となっている。
書籍化にあたって、新たに特別対談(対談相手は後日発表!)と、関取 花が自らの35年の人生を振り返る「セルフ年表」を収録予定。自らを描いた「どすこいちゃん」のイラストも描き下ろして書籍内に散りばめられるので、そちらもお楽しみに!
目次 (※内容には多少の変更がある場合がございます)
・うたってなんだっけ
・うまいってなんだっけ
・懐かしいってなんだっけ
・作るってなんだっけ
・いい感じってなんだっけ
・変わらないってなんだっけ
・大きいってなんだっけ
・声ってなんだっけ
・声ってなんだっけ part.2
・通るってなんだっけ
・変わるってなんだっけ
・わたしたちってなんだっけ
・歌いやすいってなんだっけ
・音楽ってなんだっけ
・いつものってなんだっけ
・好きってなんだっけ
・幸せってなんだっけ
・ダンスってなんだっけ
・強さってなんだっけ
・決まりってなんだっけ
・眠りってなんだっけ
・っぽいってなんだっけ
・テーマソングってなんだっけ
・思いっきりってなんだっけ
・痛いってなんだっけ
・ゆるいってなんだっけ
・やるってなんだっけ
・やらないってなんだっけ
・完璧ってなんだっけ
・同志ってなんだっけ
・喋るってなんだっけ
・歌いたくなるってなんだっけ
・コンプレックスってなんだっけ
・間(ま)ってなんだっけ
・舌ってなんだっけ
・ボーカルってなんだっけ
・カラオケってなんだっけ
・日用品ってなんだっけ
・今ってなんだっけ
・ちゃんとってなんだっけ
・うたってなんだっけ2025
・(特別編)それでもなぜ歌うのか
・ナチュラルってなんだっけ
・近道ってなんだっけ
・続けるってなんだっけ
・無自覚ってなんだっけ
・で、うたってなんだっけ
特別対談
対談相手は後日発表します。
特別付録
関取 花によるセルフ年表
本コラムの執筆者

関取 花
関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2025年、デビュー15周年という節目を迎え自主レーベル「NOKOTTA RECORDS」(ノコッタレコーズ)を設立。2025年5月7日に最新アルバム『わるくない』をリリース。
本コラムの記事一覧
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第1回「うたってなんだっけ」
2021.11.8
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第2回「うまいってなんだっけ」
2021.12.1
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あけましておめでとうございます!
2022.01.1
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第3回『なつかしいってなんだっけ』
2022.01.10
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第4回『つくるってなんだっけ』
2022.02.1
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第5回『いいかんじってなんだっけ』
2022.03.1
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第6回『かわらないってなんだっけ』
2022.04.1
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第7回『おおきいってなんだっけ』
2022.05.1
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第8回『こえってなんだっけ』
2022.06.1
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第9回『こえってなんだっけ part.2』
2022.07.1
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第10回『とおるってなんだっけ』
2022.08.1
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第11回『かわるってなんだっけ』
2022.09.1
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第12回『わたしたちってなんだっけ』
2022.10.1
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第13回『うたいやすいってなんだっけ』
2022.11.1
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第14回『おんがくってなんだっけ』
2022.12.1
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第15回『いつものってなんだっけ』
2023.01.1
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第16回『すきってなんだっけ』
2023.02.1
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第17回『しあわせってなんだっけ』
2023.03.1
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第18回『だんすってなんだっけ』
2023.04.1
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第19回『つよさってなんだっけ』
2023.05.1
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第20回『きまりってなんだっけ』
2023.06.1
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第21回『ねむりってなんだっけ』
2023.07.1
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第22回『っぽいってなんだっけ』
2023.08.1
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第23回『てーまそんぐってなんだっけ』
2023.09.1
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第24回『おもいきりってなんだっけ』
2023.10.1
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第25回『いたいってなんだっけ』
2023.11.1
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第26回『ゆるいってなんだっけ』
2023.12.1
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第27回『やるってなんだっけ』
2024.01.1
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第28回『やらないってなんだっけ』
2024.02.1
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第29回『かんぺきってなんだっけ』
2024.03.1
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第30回『どうしってなんだっけ』
2024.04.1
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第31回『しゃべるってなんだっけ』
2024.05.1
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第32回『うたいたくなるってなんだっけ』
2024.06.1
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第33回『コンプレックスってなんだっけ』
2024.07.1
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第34回『まってなんだっけ』
2024.08.1
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第35回『したってなんだっけ』
2024.09.1
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第36回『ぼーかるってなんだっけ』
2024.10.1
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第37回『カラオケってなんだっけ』
2024.11.1
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第38回『日用品ってなんだっけ』
2024.12.1
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第39回『いまってなんだっけ』
2025.01.1
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第40回『ちゃんとってなんだっけ』
2025.02.1
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第41回『うたってなんだっけ2025』
2025.03.1
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第42回『(特別編)それでもなぜ歌うのか』
2025.04.1
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第43回:『ナチュラルってなんだっけ』
2025.05.1
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第44回:「ちかみちってなんだっけ」
2025.06.1
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第45回:「つづけるってなんだっけ」
2025.07.1
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第46回:「むじかくってなんだっけ」
2025.08.1
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第47回:「で、うたってなんだっけ」
2025.09.1
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第48回:「ねがいってなんだっけ」
2025.10.1