【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第35回『したってなんだっけ』

2024.09.1

最近、地味に舌のトレーニングをしています。家の中ではもちろん、口を閉じながらできるメニューもあるので、外を歩いている時なんかにもマスクの下でせっせと鍛えております。

私は元々舌が長く、小さい頃は寝ている間に舌先を前歯で噛みしめながら寝ているような子でした。そのため上の前歯の成長を妨げてしまっていたのか、生えかわりはしたもののあまり大きくならずで、その後整った大きさになるようにセラミックで被せ物をしました。現在もその状態です。余談ですが以前、「テレビで関取さんを見て、この人の歯が好きだと思って遊びに来ました!」と可愛らしい女性の方がライブに来てくださったことがありました。めちゃくちゃ嬉しかったのですが、その時はさすがに前歯のことは言えませんでした。

そんなわけで私は舌が長いので、放っておくとだらーんと重く垂れ下がってしまいます。とはいえ口の中のスペースは限られているので、そのままにしているとどうも居心地が悪い。絶対に私の舌は正しい位置にいないよなあと思っていたところ、舌のトレーニングに辿り着きました。すると、NGとされている舌の位置が、そのまんま私の舌の位置だと知りました。

普段の正しい舌の位置は上顎にぺったりとついている状態らしいのですが(歌う時は出したい声などによってまた変わってきますが、いずれにせよ筋肉は必要)、私の場合は筋力が弱く舌が落ちている状態で、低位舌といわれるようです。受け口などの原因にもなるということで、最近どうもその気配があるなと自分で感じていたので、これはやらない理由がないと思いトレーニングを開始しました。

さまざまな動画やウェブサイト、本などを見ながら、メカニズムが体感として理解できて、かつ続けられそうなものをやってみているのですが、今までいかに舌の筋肉を使っていなかったかを思い知らされるばかりです。まず最初の一週間は、筋肉痛との闘いでした(やりすぎたかもしれない)。その期間は歌う時もなんだか違和感があるしもうやめたくて仕方がなかったのですが、ものは試しで続けてみたところ、徐々に変化に気づくようになりました。

舌のトレーニングをしていないと、舌が硬くなり動きづらくなるそうで、これは滑舌などにも影響してきます。しかしトレーニングをしてみると、舌がなんだか柔らかくなった感じがしました。上手く脱力できるようになるというか、自由自在に動かせるというか。そうすると、歌う時もすごく楽なんですよね。変に舌に力が入っている状態で歌うと喉も締まって苦しいのですが、それが少しずつなくなっていきました。

私の場合は高音よりも低音を出す時に喉が締まってしまいがちで、実際に歌いながら胸のあたりに手を置いてみるとわかりやすいのですが、喉が開いている状態で歌うと、胸のあたりがわーっと共鳴しているのがわかります。空洞を音が通り抜けていくのがわかる感じですね。しかし喉が締まっている状態で歌うと、それがなくなるんです。感覚でいうと、喉から上の部分だけで発声しているので、下まで音が響いてこない感じです。声でいうと倍音がない、深みがない、薄くて平らな感じの響きになります。

舌のトレーニングをすることで、喉を開くための舌のベストポジションみたいなのがわかってきます。私もまだ完全に習得できていないし、ギターを弾きながら歌うとなるとそんなに舌ばかり意識してもいられないのですが、日々のトレーニングを習慣化していけば、いつかは無意識的に正しい舌の位置での発声ができるようになるはず。舌の使い方が安定すると、音程も取りやすくなるそうです。

わかりやすいところだと、YouTubeなんかで「発声 舌 トレーニング」などと検索するとさまざまな動画が出てきます。トレーニング内容は違えど、なぜ舌のトレーニングをすると発声がよくなるかという根本の部分の話はみなさん同じようなことを仰っている印象を受けました。その中から、ご自身に合うやり方を試してみるのもいいかもしれません。

「歌が上手くなりたい」と思うと、どうしても大きい声を出すことやニュアンスの付け方なんかに先に気持ちが行ってしまいますが、それらのためにはまず何が必要なのか、基礎のもっと根本の部分、自分の筋肉や生活習慣なんかから見直してみてもいいのかもしれませんね。歌も気持ちよく歌えるようになるし、なんだか他にも健康のためのいいことがありそうだし。ちなみに舌のトレーニングは、小顔効果、それからいびき予防なんかにもいいんだとか。

この連載では何度も言っておりますが、私個人としては心身共に健康であるということがいい歌を歌うことへの最大の近道だと思っております。地味なトレーニングでも、続ければきっと何かが変わると信じて、私はこの原稿を書いている今も舌のトレーニングをしています。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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