【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第33回『コンプレックスってなんだっけ』

2024.07.1

みなさんはコンプレックスってありますか。私はエラの張った輪郭が少しだけ気になる時があります。実生活で困ったことはこれまで特にないのですが、その昔ネット上で自分の顔について書かれているのを見かけてしまい、人間なので「そっかあ」と少し落ち込んだりしました。

鏡を見ては何度も「これがなくなればなあ」と思いましたし、美容施術を考えたことだってあります。でもその度に「いや待てよ」となったのは、歌のことがあったからです。

モノマネが上手な芸人さんが、「骨格が似ている人を真似ると上手くできたりする」と話しているのを聞いたことがあります。たしかに骨格が似ている人は声質も似ているなと感じたことが私自身もあります。顔も楽器だと考えるならば、確かに形が似ていたら同じような響きを持っていそうなものですよね。

もちろん顔の一部を少し整えたところで声までそんなに変わるのかと言われたら必ずしもそうではないと思うのですが、私は今の私の声が好きなので、「もし少しでも変わってしまったらどうしよう」という不安が勝って、今のところ何もせずにいます。

この連載でも過去に書いたことがあると思うのですが、お世話になっているプロデューサーさんに、「花ちゃんの声は木管楽器みたいだね」と言っていただいたことがあります。それをきっかけに、間違いなく私は自分の声を好きになれました。木管楽器の響きが私は大好きだからです。

歌っていると、確かに自分の顔(あるいは体)の真ん中にある空洞が振動しているように感じることがあります。喉に力が入っていない状態でも大きな声が出るのは、きっとこのおかげなんじゃないかなと感じています。自分で言うのもですが、あたたかい響きを持っていて、なかなかいいなと思います。

そんな私のこの声、誰かに似ているなとずっと思っていたのですが、最近ようやくわかりました。母です。先日実家に帰った時、母と喋りながら「あ、似てる」と思う瞬間がたくさんありました。

私の輪郭は母親譲りのもので、自分が歳を重ねるにつれ顔がどんどん似てきているのを感じています。そして私はそんな母の声が昔から大好きです。よく通るけど優しくて、圧はなく澄んでいて、いい声だなあと小さい頃からずっと思っていました。60歳を過ぎた今でも、みずみずしく可愛らしい声をしています。私も母のように歳を重ねて行きたいです。

そんなわけで、最近は自分の顔も割と好きです。この声を出せるのはこの顔があるからなのだと思うと、そんなにわるくないなと思えます。「コンプレックスは最大の武器になる」とどこかで聞いたことがありますが、本当にそうだなと思います。

これからの自分も楽しみです。楽器は使い込めば使い込むほどより響きが良くなったりしますが、もしかしたら私の声もそうなのかもしれない。経年変化を楽しみつつ、その時々の自分をより愛せるように、今の声と何より自分自身を、大切にして行きたいなと思います。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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