【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第26回『ゆるいってなんだっけ』

2023.12.1

この原稿を書いている前日は、ツアー「関取二人三脚」の初日でした。場所は東京、入り口に立った瞬間に50年前にタイムスリップしたような気分になる、ダンスホール新世紀という会場でした。

一歩中に入るとガラス張りの壁にミラーボール、星空のような天井の照明、見上げればビロードのカーテンが輝き、メインステージの他にも、横にある小さな螺旋階段を上ればサブステージがあったり。ある種の非日常を味わいに来るライブというものを楽しんでいただく場として、こんなにぴったりなところはないのでは? と思うほど素敵な会場でした。

そんな雰囲気にマッチするよう、私たち(このツアーは鍵盤の谷ぴょんこと谷口雄さんとの二人編成です)もおめかしをしてライブをしました。普段はあまり衣装らしい衣装を着てライブをしたりしないので、いつもと少し違う自分たちにやや戸惑いつつ、ライブ直前まで私自ら谷ぴょんのパンツの裾上げをしたりと、何かとバタバタしていました(笑)。それでもやはりばっちり決めた格好でライブをするというのは、なんだか身体全体にスイッチが入るような感じがして、パフォーマンスにもいい影響が出たような気がします。

私は基本的に、生活の延長線上にライブがあるようなミュージシャンになりたいと思っています。「明日、飲みに行かない?」「いいよ!」と同じようなテンションで、「明日、ライブしない?」「いいよ!」と答えられるような、風のようにいつでもどこにでも駆けつけて、自分らしいパフォーマンスができる、そんなミュージシャンに昔から憧れがあります。

そういうのもあって、最近はあえて衣装らしい衣装を着ないでライブをするようにしていました(特に弾き語りやアコースティック編成では)。でも、やはり久々に衣装を着るといいものですね。「自分は今、ステージに立っているんだ」というたしかな責任と誇りが、私にもう一段階上の自信とやる気を与えてくれました。特別な会場や衣装というのは、それだけで自分にそんな魔法をかけてくれる気がします。特に昨日は自分でも、一言目を喋り出した瞬間から、バチーン! とスイッチが入るのを感じました。

しかし数年前までの自分だったら、スイッチが入ってしまうと、逆に本来の自分とは少し違う、「みんなが求めている関取花」という役に入るような感じで、家に帰るとぐったりしてしまう、なんてことばかりでした。でも昨日は大丈夫でした。本来の自分らしさを蔑ろにすることなく、ゆるさと緊張感をうまいこと自分で操りながら、スイッチは常にオンでいる、というのができるようになってきたのかなと思います。

終演後、いつもライブを手伝ってくださっているスタッフさんが、「前よりも力まず歌えているね」と言ってくれました。パワーは存分に込めているのに変わりはないけれど、たしかに今の自分は物理的なパワーだけに頼らず、もう少しふくよかな、大きくて温かい何かを抱えながら、太陽の光を放出するように歌えている、そんな気がしました。こうやってゆるやかに、でも一番心地のいい、じんわりと染み渡る歌声を、なるべく長く響かせていきたい。

そんなわけで、ツアー初日の昨日は、衣装にも着られることなく、自分できちんと自分をコントロールできる、本当の意味での地力が少しずつついてきたのかもしれないと思えた夜でした。この調子でツアー残り2公演も駆け抜けられたらと思います。そしたらきっと、もっと好きな自分に出会える気がするんです。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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