【連載】「うたってなんだっけ」
関取 花
少し前、久しぶりに軽めの喉風邪みたいなものになりました。正直、一般的には風邪とも言わないような、そんなレベルの話です。季節の変わり目ということもあり、ある日朝起きたら少し喉がイガイガする感じがして、でも日中になると割とすぐ治まりました。湿度も夏よりは下がってきているだろうし、その日の夜から加湿器をつけ始めたのですが、翌朝もやはり同じような感じ。多分一般的には喉が痛いとも言わないくらいの感じでしたが、私にとってはすごく不快だったので、すぐに病院に行きました。診てもらうと扁桃腺が少し腫れているということでしたが、抗生物質を出すほどのことでもないとのこと。結局漢方やら炎症止めやらを少々いただいただけで帰りました。
そしてそれから数日、今は見事に元気であります。最初から熱などは出ていなかったので、本当に喉だけですぐに治りました。学生時代だったら、これくらいのことで病院に行ったりなんてこと、まずなかったように思います。じゃあやはりコロナ禍で気にするようになったのかと言われると、私の場合はそういうわけでもありません。歌を歌う仕事をするようになってからはずっと、敏感過ぎるほどの風邪恐怖症です。
お客さんからお金をいただいてライブをするのに、自分の体調管理不足でベストパフォーマンスができないなんて、その時点でもう自分は0点だと感じてしまいます。(でもこれは他のミュージシャンの方々に対してもそう思うというわけではない)
世の中には化け物みたいな才能を持った人や、天使の歌声を持った人、天性の華がある人、とんでもない力を持ったミュージシャンがたくさんいます。そんな人たちに比べて私には何があるだろうと考えた時、いつも言葉に詰まってしまいます。自分の作る曲は大好きですし、自分のことも好きになってきました。自信がないのかと言われたら、ないわけではありません。でも、「天才」ではないということは明らかに自覚しています。
ミュージシャンという仕事を選んでからもう10年以上、「天才」だと思う人間に出会ったことがあります。そういう人の圧倒的な輝きというのは、もはや音楽だけの話に限ったことではなく、内側から溢れ出ているエネルギーとか、瞳の美しさとか、持っている独特の間とか、もうそういういろんなものが絡まり合っての「天才」なんだと思うのですが、何かやっぱり、見ていて聴いていて、浄化されるような、そして背筋が伸びるような思いにさせられます。
そういう人たちに共通して言えるのは、豊かすぎる感受性故に繊細だろうとも思うのですが、その中にブレない芯というのが必ずあるということ。どんなに危なっかしくても、どっしりと構えている何かがそこにはあるんです。
もちろん以前は私も、「天才」に憧れていました。誰だってそうでしょう、天才になりたいですよ。なれるものなら今からでも。でも、世界の不思議と人々の秘密、そして自分という人間の仕組みを知っていくうちに、気づくんですよね。「ああ、私はそちら側の人間ではない」と。昔はその事実に直面し無駄に絶望したりもしましたが、今はあんまり、気にしなくなりました。だって当たり前だけど、人ってみんな違うから。私は私なりのやり方で、豊かな人になっていけばいい。
そう思った時に、自分の芯となる部分、私なりにここさえ保っていればまずは大丈夫だ、というところが、健康だったんです。特に、歌を歌うという部分においての健康ですね。つまり喉の調子。気分のムラやその日の調子というのは、人間だから誰だってある話。だとしたら、それ以前の最低限のラインだけは常にキープしていたいよね、そうすることできっと心身共に強くなれるし、パフォーマンスもどんどん上がっていくよね、そう思うようになりました。たしかにそれは何よりもの安心感に繋がりました。
だから逆を言えば、喉が少しでも痛いと、つまり少しでも普段通りじゃないと感じると、本当に嫌になるんです。「あ、終わった」と思ってしまう。喉はイガイガ、胸はチクチク痛みます。良い言い方をすればストイックもしくはクソ真面目、悪い言い方をすれば考えすぎまたは不器用だなと自分でも思います。
私ももう少しどっしりと構えていたいなとは思うのですが、これがなかなか上手になれない。音楽という存在が年々生活の一部になっていっているからこそ、喉風邪になった時の自分のテンションの急直下が怖いです。何か大きなきっかけがあれば変わりそうな予感もしているんですけどね。
本コラムの執筆者
関取 花
関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。
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