【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第19回:渡辺美里「My Revolution」の歌い出しが革命だった理由

「きゅんメロ9th」の源流とも言える1曲

 前回はEXILE「Lovers Again」(2007年)で「きゅんメロ進行」の相棒とも言える「きゅんメロ9th(ナインス)」について考察しました。ちょっと思い出してみましょう。

EXILE「Lovers Again」の冒頭部

 耳に残る冒頭の「♪ ひ(とり)では」の部分が「きゅんメロ9th」でした。では今回は、この「きゅんメロ9th」の源流とも言える1曲をご紹介します。

 リリースは1986年ですから、かなり前でして、当時とすれば、かなり過激な作品でした。しかし、作曲家の名前を聴くと、「さもありなん」と思うでしょう(「さもありなん」って死語か? 若者は検索のこと)。

──小室哲哉!

 あの「TK」=小室哲哉の、作曲家としての実質的初ヒット。それはそれは、まったく新しい感性を感じたものです。この曲の10年後あたりに時代を席巻するのも「さもありなん」と思いましたよ。

 その曲とは、渡辺美里「My Revolution」。今回は何と、サビではなく歌い出しなのです。これまで見てきたように「きゅんメロ進行」は、普通サビで使われるものなのですが、この曲は、あったまから何度も何度も繰り返す。まずここが新しい。

 歌い出しの「ス式楽譜」です。

 のんびりとした前半と後半のせわしなさの違いにご注目ください。後半の【Em7】からは、まるで階段を転げ落ちるようにせわしない。

 特に「♪ ほう(づえ)」、「♪ よる(はきのうで)」の16分音符の使い方は、小室哲哉と渡辺美里にとって、当時同じくEPICソニー所属だった先輩=佐野元春発祥の符割りです。これも新しかった。

 そして、今回最も注目するのは歌い出しの「きゅんメロ9th」です。「さよなら」の「よ」が9thなんです「よ」

──── ♪ さよなら sweet pain 頬づえついていた夜は昨日で

「My Revolution」渡辺美里 作詞:川村真澄 作曲:小室哲哉

ス式楽譜「My Revolution」渡辺美里

 歌ってみてください。どこか空中に浮いているような、不思議に気持ちいい感じがあるはずです。でもカラオケなどでは歌いにくい部分でもあります。音程をしっかりとって空中に浮いてください。

 「空中に浮いているような、不思議に気持ちいい感じ」──ここが、もしかしたら、「My Revolution」の最大の革命(Revolution)ポイントだったかもしれません。大げさに言えば、日本人がこれまで感じたことのない気持ちよさだった。

 【Fmaj7】→【G / F】という前半の鍵盤図です。もう説明不要と思いますが、【G / F】を使っているということは、例の「後ろ髪コード進行」ですね。赤い星が「きゅんメロ9th」の音。「♪ さよなら」の「よ」と「な」が、9th「な」んです「よ」。

「きゅんメロ9th」+「後ろ髪コード進行」+「16分音符の多用」=「Jポップの起源」

 「きゅんメロ9th」も使いつつ、冒頭から「後ろ髪コード進行」を惜しげもなく繰り返す。さらに佐野元春発祥の16分音符も多用──私はこの曲、「Jポップの起源」という感じがします。1986年リリースですが、もう90年代、バブル崩壊後のサウンドという気さえするのです。

 私の革命(My Revolution)は「日本音楽シーンの革命」だったのです。だからこの曲が、現在に至るまで愛され続けるのも──「さもありなん」。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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