【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第18回:EXILE「Lovers Again」のサビが不思議と印象に残る理由

 たまにはLDH系を取り上げます。EXILEが2007年に発表した22枚目のシングル「Lovers Again」(ラヴァーズ・アゲイン)。

「Lovers Again」EXILE

「Lovers Again」のサビが不思議に印象に残っている背景とは?

 この曲が、もう16年前になるのか。月日の流れは早い!

 何となくお気づきかもしれませんが、白状すれば私自身、EXILE方面はあまり聴いておりません。でも逆に言うと、そんな私にも「Lovers Again」のサビが不思議に印象に残っている背景には、音楽的な秘密があるのです。

 あ、もしかしたら印象に残っているのは、音楽的な秘密に加えて、この曲をネタに使っているお笑いコンビ「ダブルネーム」を、よく見ていたからかも。

【Lovers Again/EXILE】のメロディーに乗せて歌う「あの人かもしれない」【H.M編】/ダブルネーム

 でも、ここではやっぱり音楽的な秘密の話をしましょう(キリッ)。まず、この曲のサビは「きゅんメロ進行」がかなりしつこく繰り返されます。

──── ♪ ひとりでは 愛してる証さえ

「Lovers Again」作詞:Kiyoshi Matsuo 作曲:Jin Nakamura

 初めに「V字」の動きをして、その後2回の下降階段。この形状自体は、これまで見てきたものとよく似ていますね。お約束と言ってもいいくらい。

 ですが、歌い出しに注目してください。ここに音楽的な秘密があるのです。

 冒頭の「ソ」の音に注目です。歌詞で言えば「♪ひ(とり)では」の「ひ・で・は」のところ。

 ここのコードは【Fmaj7】です。すでにご説明したとおり、「ファ・ラ・ド・ミ」という構成音でできているコードです。しかし、メロディは「ソ」。ということは、伴奏(コード)とメロディが合っていない。

 前々回に見たキリンジ「エイリアン」のサビは、この【Fmaj7】=「ファ・ラ・ド・ミ」でメロディも「ミ」から始まりました。【Fmaj7】という「シティポップ・コード」の響きを決定づける「ミ」で歌うことで、都会的な独特の響きを生んだのです。

「エイリアンズ」キリンジ

 でも今回は「ソ」。これ伴奏(コード)にはない音で、ちょっと大げさに言えば不協和音と言えなくもない。しかし「不協和音と言えなくもない」ということは、逆に言えば、非常にインパクトや引っかかりのある音とも言えるのです。

 この音、例えば「ファ・ラ・ド(ミ)」という「ファ」を根音(こんおん)としたコードにおける「ソ」の音のことを「9th(ナインス)」と言います。鍵盤図をご覧ください。赤い星がその「ソ」で、根音「ファ」から数えて9個目。だから9th。

「魔法の音=9th」は、きゅんメロとの相性が良い

 9thは一種、「魔法の音」でして、うまく使えば、この「Lovers Again」のように、とてもインパクトや引っかかりのある音になります。しかしヘタに使うと、不協和音のように濁ったチグハグな音になってしまう。

 わかりやすい例を挙げると、安全地帯「悲しみにさよなら」(1985年)の歌い出し=《♪ なかない(で)ひと(りでー)》の音が、コード「ド・ミ・ソ」の上で「レレレレ(ド)レレ(ミミー)」と、「レ」=9thをうまく使うことで印象を強めています。この場合「ド」が根音で、「ド」・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・「レ」、とドから数えて9番目。だから9th。

「悲しみにさよなら」安全地帯

 実はこの9th、「きゅんメロ進行」との相性が良いのです。具体的には、冒頭の【Fmaj7】のところで「ソ」の音を歌う曲は、いくつかあります。ほら、あの曲とか、あの曲とか。

 そんな中でも、この「Lovers Again」は格別の出来でしょう。とにかく一度聴いたら忘れられない。脳内で永遠にループする感じさえする。そうなっちゃう大きな理由が、サビ歌い出しの「ソ」=9thの音にあるのです。

 では次回は、この「きゅんメロ9th」の源流とも言える、あの名曲を取り上げたいと思います。ご期待ください。

 最後に。この曲が発表された2007年は、落合博満監督率いる中日ドラゴンズが日本一になった年でした……ということを念頭に置いて、このネタをお聴きください。

【Lovers Again/EXILE】のメロディーに乗せて歌う「あの人かもしれない」【F.O編】/ダブルネーム

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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