【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第13回:YOASOBI「群青」は、きゅんメロ界の総決算=「きゅんきゅんメロ」!

 前回から引き続き、YOASOBI「群青」を取り上げます。今回取り上げるのは、

──── ♪ 好きなものを好きだと言う 怖くて仕方ないけど

「群青」作詞・作曲:Ayase

 のパートです。下の映像では、0分58秒あたりから始まります。

YOASOBI「群青」Official Music Video

 私は、このパートを「日本きゅんメロ界の総決算」と捉えています。言い換えれば、「きゅんメロ、ここに極まれり!」

 まず今回は、先にス式楽譜を見てみましょう。もう楽譜自体に、何というか、幾何学的な美しさが漂っている感じがします。

 水色の矢印で表現した跳躍が、これでもかこれでもかと繰り返され、下段では緑の矢印で示した「♪(こわく)てしかー(たないけど)」で、一気に跳ね上がります(専門用語で言えば「7度」の跳躍)。ここがまずエモい。

 もちろん、このパートがきゅんきゅんするのは歌詞の貢献も大きい。Z世代は「好きなものを好きだと言う」ことが「怖くて仕方ない」のかもしれません。言っていい。言っていいんだよ──「きゅんメロが好きだ!!!」って。

 それはともかく、私が言いたいのは、歌詞に加えて「このメロディは奇跡だ!!!」ということなのです。本当にいろいろと凝っていて、まさに「総決算」という感じ。

【E7】のセンチメンタルでエモい響きを決定づける「ソ#」の存在

 さて、今回のポイントは「ソ#」(ソのシャープ)です。ス式楽譜の赤いところに注目してください。

 まずは「♪ こわくてしかーたないけど」の「て」です。この音、何だかエモい感じがしませんか?

 ここでコード進行を見てください。今回は【F】→【G】→【G / F】という、前回ご紹介した「おくれ毛コード進行」に続いて【E7】が来ています。

 憶えていらっしゃるでしょうか。この【E7】は「第3回:『きゅんメロ進行』を今度はギターで体感する」でご紹介した、スピッツ「ロビンソン」の【B7】と同じ位置関係にあります。あのとき書いたように、このコードは、あとに来る【Am】との結び付きが強く、マイナーコードの哀しさに片足を突っ込んでいて、結果として、センチメンタルでエモい響きを持ちます。

 そんなコード【E7】の響きを決定づける音が、実は「ソ#」なのです。だから「ソ#」で歌われる「♪こわくてしかーたないけど」の「て」も当然エモくなる。

 加えて、赤で書いたコード進行をよく見ると【E7】→【E7 / G#】となっています。つまり前回の「おくれ毛コード進行」の【G】→【G / F】同様、小節の中でベース音が変化するのです。

 ここでよく見てください。あれれ? ベース音が「G#」と書かれています。これ、つまりは「ソ#」のこと。センチメンタルでエモい「ソ#」が、何とベースでも使われている!

スージー演奏できゅんきゅんチェック!

 私の演奏映像です。左手に注目してください。例の「おくれ毛コード進行」=【G】→【G / F】(ソ→ファ)に続いて、【E7】→【E7 / G#】(ミ→ソ#)の「ソ#」に、きゅんきゅんしませんか? するでしょう? 言っていい。言っていいんだよ──「きゅんきゅんするんだ!!!」って(注:【E7】→【E7 / G#】の箇所を【E】→【E / G#】と簡略化しています)。

YOASOBI「群青」の「ベースのソ#」にきゅんきゅん

 そう、きゅんきゅん。このコード進行は、「日本きゅんメロ界の総決算」。きゅんメロよりもきゅんきゅんくる、言わば「きゅんきゅんメロ」なのです。

 ちなみに先の【E7】→【E7 / G#】、鍵盤図ではこんな感じ。黄色の鍵盤が「ソ#」の音。そして赤で表現したのが、左手で弾くベース音の移動。これもミからソ#に動いていて、低音からエモさを下支えするのです。

 いろいろと書きましたが、とにかくこのサビは凝っている。凝りに凝っている。まさに「日本きゅんメロ界の総決算」=「きゅんきゅんメロ」。ぜひ弾き語っていただきたいと思うのです。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!