【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第4回:きゅんメロ界の金字塔〜荒井由実「卒業写真」

さて、第2回第3回を通じて、「きゅんメロ進行」(F−G−Em−Am)をキーボードやギターで何となく弾けるようになったところで、いよいよ、この進行を使った名曲をひとつひとつ追っていきたいと思います。

まずは、日本において、この進行に市民権を与えた名曲、つまり「きゅんメロ」界の金字塔である荒井由実「卒業写真」(1975年/作詞・作曲:荒井由実)です。荒井由実、つまり現・松任谷由実のアルバム『COBALT HOUR』に収録され、幅広く長く、愛され続けているあの曲。

個人的に忘れられないのは、子供の頃に聴いていたラジオの深夜番組で、この曲を聴くと必ず泣いてしまうパーソナリティがいたことです。私は子供心に「高校を卒業する頃には、この曲がしみるようになるんやろなぁ」と思っていました。

その予測は、半分当たっていて、半分はずれました。というのは私のように、高校卒業から30数年経っていても、この曲、まだまだ全然しみるからです。

で、この曲は、曲の最初から最後まで、「きゅんメロ進行」(的な進行)が流れ続ける作りになっていまして、そういう意味でも「きゅんメロ」界の金字塔の名にふさわしい。

さてここで、私が発明した新しいかたちの楽譜、題して「ス式楽譜」(=スージー式楽譜)をご紹介します。超簡易版の楽譜で、演奏にはまったく適さないものなのですが、でもその分、楽譜を読めない初心者の方も、メロディの流れがどうなっているかが、視覚的にひと目でわかるようになっている画期的な「楽譜」です。

ちなみに、左側の「ドレミファ……」は「移動ド」で表記してしています。「移動ド」……難しい概念なので、ご興味ある方はいろいろと検索していただきたいのですが、わかりやすく言えば「どんなキーであっても主音をドとして表記する」、もっとわかりやすく言えば「GでもFでもB♭でも、どんなキーであってもハ長調(キー:C)に直してドレミファ……を表記する」というものです。

ですが、「卒業写真」はキーがC(ハ長調)なので、上のパラグラフで書かれた内容は元から解決しています。ので、話を難しく感じた方は、上のパラグラフ、一切無視して構いませんよ。

という「ス式楽譜」で、「卒業写真」の、あの忘れられない「きゅんサビ」を書くとこうなります。コード進行は下に書きました。「きゅんメロ進行」ですね(今回もコードは簡易版に直しています)。

ポイントは、水色の矢印で記したいきなりの上昇フレーズ。「ひ→と→ご→み」=「ド→ファ→ソ→ラ」とググッと上がる。この上がり方がきゅん度もググッと上げています。

そして、この上がり方を活かした形で、「最高きゅん度」の歌詞が乗ります。

── ♪ 人ごみに流されて ♪ 変わってゆく私を

── ♪ あの頃の生き方を ♪ あなたは忘れないで

「卒業写真」荒井由実(作詞・作曲:荒井由実)

人ごみに流されて、青春時代の自分を失っていく私に対して、あなたは決して変わらないでねと訴える歌詞です、と説明するだけで、もうきゅんきゅん来るのですが。

そんな「きゅん歌詞」が、過去を一気に振り払い未来に向かっていくような上昇フレーズに乗せられ、さらに背景で「きゅんメロ進行」が流れていく──という構造自体が、このサビを「きゅんサビ」たらしめているんだと、私は考えます。

「最高きゅん度」の歌詞に、元気で快活なコード進行は似合いません。ですが、マイナーコード基調の暗いコード進行も逆に不似合いでしょう。メジャーとマイナーの中間、前々回に書いた「ツンデレ」な「きゅんメロ進行」がピタッとはまるのです。あ、「きゅん歌詞」と上昇フレーズの関係も、一種の「ツンデレ」ですね。

一応、弾き語りしたい人のために、鍵盤の押さえ方表も載せてきます。「ひとごみ」の「み」を赤丸のラの音で歌ってみてください。

今日のまとめとしては、「きゅんメロ進行」に「きゅん歌詞」を乗せるときに、どうも上昇フレーズが効きそうだということです。参考にしてください。ではまた。


きゅんメロガールによる、きゅんメロ・プロジェクト!

ヴォーカル・マガジン・ウェブのTikTokチャンネル(https://www.tiktok.com/@vmw_jp)とYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCWwtnxl-swzokRkJuUSp1Yw/featured)にて、「きゅんメロ・プロジェクト」がスタートしました!

今回も本連載で取り上げている「きゅんメロ」を題材に「きゅんメロ・ガール」の動画をお届けします。

投稿しているのは3本。今回のきゅんメロ・ガールはなんと小学5年生の、ののかちゃんです!!

●きゅんメロ楽曲の実演:連載の例題曲から「きゅんメロ」部分を弾き語り!

●キュンメロを作ってみた!:例題曲のコード進行で、きゅんメロガールにオリジナルのメロディ作りにトライしてもらっています!

●きゅんメロのコード進行:上記のコード進行のカラオケを弾いてもらいます。それを聴いて、あなたのきゅんメロを作り「#きゅんメロ」を入れて、TikTokやYouTubeに投稿してください!

編集部とスージー鈴木さんで優秀者を選び、本連載で紹介していけたらと思っています!
どしどしご応募待っています!

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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