【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

イラスト:まつだひかり

スージー鈴木

第2回:「きゅんメロ」のツンデレを体感する

音楽評論家、スージー鈴木が贈る連載コラム「きゅんメロの秘密」は、
日本人が好き過ぎると言っても過言ではないコード進行、「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm」と、
そこから生まれる「きゅんなメロディ」について考察していくもの。
シンガーソングライターのように作曲を行なうヴォーカリストは特に必見の内容となっている。

第2回となる今回は、プリンセス プリンセスのヒット曲を題材にした『「きゅんメロ」のツンデレを体感する』です。
実際にキーボードで音を出して「きゅんメロ」を体感しようというもの。ぜひやってみてください!

前回のまとめ。胸がきゅんとする「きゅんメロ」は、とりわけ邦楽~Jポップで多用される「きゅんメロ・コード進行」に基づいていて、具体的には「F-G-Em-Am」だ、ということでした。

で、この「きゅんメロ進行」については、ちゃんと体系的に分析されたことが、これまでにどうもなさそうなのです。いや、いろんな音楽家が、このコード進行を多用して「きゅんメロ」を量産していることは事実なのですが、なぜこれが、特に日本人の胸をきゅんとさせるのかが解明されていない、らしい。

そこで、この連載では、世界初の「きゅんメロ」研究を進めていきたいと思うのです。「きゅんメロ」とは何か、どの音をどうすれば「きゅん度」が高まるのか。これがわかれば、私も作曲家として、大金持ちになれるかも……あ、ダメだ、研究結果を披露しちゃったらパクられるわ。

まぁ、そんな夢物語はさておき。

今回は、このコード進行を、理屈で理解するのではなく、身体で体感したいと思います。具体的には、この「きゅんメロ進行」を、キーボードで弾いて「体感」していただきたい。

──と書くと、「いやいや、私ピアノ弾けないし……」と尻込みする人も多そうなのですが、大丈夫です。私が開発した、世界一簡単、目で見てわかるキーボード譜に沿って、指し示された鍵盤を押せばいいのです。これはもう、音楽というより指圧の世界ですが。

早速ですが、どんなキーボードでも構いません。グランドピアノでもよければ、おもちゃのキーボードでもいいです。この図にある①→④の図に沿って、鍵盤を押さえていってください(青丸だらけの中に、ひとつだけ赤丸がありますが、その理由はあとで)。

きゅんメロ・コード進行

できました? もし慣れてくれば、リズミカルに、あるテンポに沿って、指を移していってください。

ほら。

ほらほらほら。

もう、胸がきゅんとしてきたはずです。たまりませんね。実は、種明かしをすれば、①がF、②がG、③がEm、④がAmというコードだということなのですが、今日の段階では、それはいいです。まずは何回か、①→④と弾いて、いや押さえてみてください。

ほら、邦楽~Jポップにあまたある「きゅんメロ」がいくつも、あなたの頭の中に浮かんできたはず。あ、浮かんでこない? では1曲、こちらからご紹介したいと思います。


プリンセス プリンセスの大ヒット「世界でいちばん熱い夏」。オリジナルは1987年で、89年に大ヒット。ちなみに89年は平成元年。平成の幕開けを飾った1曲でした(実は原曲のコードは、もうちょっと複雑なのですが、今回は簡略化してお知らせします)。

実はこの曲、ほとんど全編「きゅんメロ進行」でできているのです。その中でも、一番きゅんとするのは、曲後半のここではないでしょうか。

── ♪ 世界でいちばん大きな太陽 世界でいちばん熱く光る夏
「世界でいちばん熱い夏」作詞:富田京子 作曲:奥井香

せっかくですから、ここを歌ってみましょう。歌うこと前提に、上の図の中でひとつだけ、①のところで、赤丸を置いておきました。この音(具体的にはラ=A)を、歌い出し=「♪世界で」の音程として、弾き語り、いや「押し語り」をしてみましょう

ほらほらほら。

もう、身体全体がきゅんとしてきたはずです。たまりません、たまりません。で、せっかくですから、少しだけ「きゅんメロ」の構造を体感しつつ、分析します。

私が思うのは、①②と③④の違いです。前半の①②は、強く攻めているというか、ロックな感じ、直線的な感じがします。どちらかと言えば明るい。しかし、後半の③④は、ちょっと後退しているというか、哀しくセンチメンタルな感じがする。直線というよりは曲線──。

つまり「ツンデレ」。①②の「ツン」から、③④の「デレ」への切り替わりによる、どっちつかずな感じ、光と影、陽と陰、ロックとセンチメンタルの配合が、「きゅんメロ進行」のツボだと思うのですが。

というコード進行の上で「♪ 世界でいちばん大きな太陽 世界でいちばん熱く光る夏」と歌うわけです。

そうすると、歌われる「大きな太陽」と「熱く光る夏」が、永遠のものじゃない感じがする。というか、今この瞬間だけのもので、③④のセンチメンタリズムの効果によって、明日にはもう秋が来ちゃうかも……という感じが漂ってくると思うのですが、どうでしょうか。

おっと、やや結論を急ぎすぎたかもしれません。ゆっくり行きましょう。次回は「きゅんメロ進行」をギターで弾いてみます。せっかくですから別の「きゅんメロ」名曲を取り上げてみましょう。


きゅんメロガールによる、きゅんメロ・プロジェクトがスタート!

ヴォーカル・マガジン・ウェブのTikTokチャンネル(https://www.tiktok.com/@vmw_jp)とYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCWwtnxl-swzokRkJuUSp1Yw/featured)にて、「きゅんメロ・プロジェクト」がスタートしました!

本連載で取り上げている「きゅんメロ」を題材に「きゅんメロ・ガール」の動画をお届けします。
投稿しているのは3本。

●きゅんメロ楽曲の実演:連載の例題曲から「きゅんメロ」部分を弾き語り!


●キュンメロを作ってみた!:例題曲のコード進行で、きゅんメロガールにオリジナルのメロディ作りにトライしてもらっています!


●きゅんメロのコード進行:上記のコード進行のカラオケを弾いてもらいます。それを聴いて、あなたのきゅんメロを作り「#きゅんメロ」を入れて、TikTokに投稿してください!

編集部とスージー鈴木さんで優秀者を選び、本連載で紹介していけたらと思っています!
どしどしご応募待っています。


今回の「きゅんメロガール」

河崎千尋(かわさきちひろ)ちゃん

ミュージカル『アニー』(ジュライ役)など、多方面で活躍中の18歳になったばかりのシンガー。『毎日たった3分トレーニング 30日で理想の声になれる本』(田中直人:著)のカバーガールと実演モデルも務めている。
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本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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