【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第15回:TUBE「シーズン・イン・ザ・サン」はなぜ湘南の香りがするのか

 (前回の)「ゲレンデがとけるほど恋したい」から「シーズン・イン・ザ・サン」ですから、季節感もへったくれもありません。こんにちはスージー鈴木です。

 さて、《 ♪ Stop the season in the sun~》という、この曲の歌い出しももちろん「きゅんメロ進行」です。ここまで読まれてきた方は、「シーズン・イン・ザ・サン」というタイトルを見ただけで、ピンと、いや「きゅん」ときたかもしれませんね。

シーズン・イン・ザ・サン/TUBE

──── ♪ Stop the season in the sun

「シーズン・イン・ザ・サン」作詞:亜蘭知子・作曲:織田哲郎

 ス式楽譜はこんな感じ。これまでと違って、一番初めがいきなりピークで、そこから下がっていく。

ウォータースライダーのようなメロディ

 私が思い出したのはウォータースライダーですね。ただ、ウォータースライダーはだいたい下がっていくだけですが、この「シーズン・イン・ザ・サン」という名のウォータースライダーは、ジェットコースターみたいに、途中で上がったり下がったりする。

 そして《うるおしてくれ》の《く》で再度ピークへ。そして最後ずどーんと下がる。まぁ、忙しいウォータースライダーです。

 繰り返しますが、最初の《 ♪ Stop》が、このメロディのポイントです。これまでの「きゅんメロ」は大体、歌い出しから、ずんずん上昇していくパターンが多かったにもかかわらず、こちらは、いきなりピーク!

 だからインパクトがあると言えますし、だから歌いづらい。この《 ♪ Stop》の音程を外したら一巻の終わりですものね。くれぐれも外さないよう、頑張ってください。

メジャーセブンス(maj7)登場!

 では、コード進行です。今回は【Fmaj7】→【G / F】→【Em7】→【Am7】です。いわゆる「後ろ髪コード進行」。あれ、最初のコードが何か変だな。この連載で、初めて出てきますね「maj7」って。

 さて、ここで皆さんに謝らなければならないことがあります。ごめんなさい。実は、わかりやすくするために「maj7」(メジャーセブンスと読みます)の説明を、ここまでしてこなかったのです。で、例えば「卒業写真」(荒井由実)など、これまで紹介してきたいくつかの曲の冒頭の【F】は【Fmaj7】だったのです。平にご容赦。

 では、ここで本腰入れて、「maj7」を解説します。まずは押さえ方です。鍵盤図をご覧ください。今回はいつもの【Em】と【Am】にも「7」を付けました。赤が「7」の音です。いつかお話しした「きゅんメロ・セブン」ですね。シュワッチ。

 次に【Fmaj7】と【Em7】を抜き出しました。よく見てください。【Fmaj7】は「ファ・ラ・ド・ミ」という構成音です。これをよく見ると「ファ・ラ・ド」という【F】=メジャーコードの上に「ラ・ド・ミ」という【Am】=マイナーコードが乗っている構造になっています。

 逆に【Em7】は「ミ・ソ・シ」という【Em】=マイナーコードの上に「ソ・シ・レ」という【G】=メジャーコードが乗っている。

 マイナーの上のメジャー、メジャーの上のマイナー。「maj7」と「m7」は、同じ「きゅんメロ・セブン」でも、対極的な関係になっていることがわかります。

 かつて説明したように、「7」という雑味が入ることで「複雑かつ都会的な感じになる」ことは両方に共通ですが、「maj7」のほうが、メジャーがベースなので、ちょっと明るく乾いている、逆に「m7」は、暗くて湿っている感じがする。

 もうちょっと言葉を足せば、同じ「複雑かつ都会的」でも、「maj7」のほうは「センチメンタル」、「m7」は「メランコリック」という感じがするのは、私だけかしら?

maj7=シティポップ・コード

 さて、「maj7」は、最近ブームの「シティポップ」でやたらと使われます。「シティポップ・コード」と言っていいくらい。山下達郎はたぶん、日本一「maj7エンゲル係数」の高い音楽家だと思います。

 「7」の音楽的意味は、次回以降に回すとして、とにかくこの「シーズン・イン・ザ・サン」では、これらふたつの「きゅんメロ・セブン」、特に冒頭の「maj7」によって、都会性が増すことで、歌詞で歌われる海を、地方の海ではなく、まるで湘南の海のように仕立て上げるのです。

 というわけで話をまとめると、「シーズン・イン・ザ・サン」は「湘南のウォータースライダー」だということになります。

 果たして、湘南地区にウォータースライダーがあるか調べると、神奈川県高座郡寒川町にある「HAYASHIウォーターパークさむかわ」というプールにありました! でもこれ、相模線の終点=茅ヶ崎駅から3つ前、内陸側に位置していまして、海からかなり遠いのです。

結論:「シーズン・イン・ザ・サン」は、海ではなく、実はプールの歌だった?

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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