【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第11回:あの浜田省吾「J.BOY」の「イケイケダンス進行」?

国境やジャンルを超えて「ユーロ」と「広島」で響き合った?

 さぁ、今回は大物、浜田省吾のあの「J.BOY」(1986年)です。実は、この曲も「イケイケダンス進行」が延々と続く曲でして、つまりは翌87年の少年隊「ABC」と同系統ということになります。嘘だと思ったら、「J.BOY」のカラオケで「ABC」を歌ってみてください……ほらね。

 前回申し上げたように、この「イケイケダンス進行」の源は、ユーロビートの源とも言えるマイケル・フォーチュナティ「ギブ・ミー・アップ」(86年)です。でもこの「ギブ・ミー・アップ」と「J.BOY」は同年のリリースなんですね。たぶん偶然の一致だと思うのですが。

 でも「【F】→【G】→【Em】→【Am】」というコード進行が延々と続くことによる気持ちよさについて、同時期に国境やジャンルを超えて、「ユーロ」と「広島」で響き合ったのでしょう。かくして、この「日本でもっともディスコと認識されていないディスコサウンド」が完成しました。

 まずは浜田省吾自身によるライブ映像です。86年当時のディスコで流行した「ワンレン・ボディコン」的要素が一切混じらない感じをお確かめください。

──── ♪ J.BOY 掲げてた 理想も今は遠く

「J.BOY」作詞・作曲:浜田省吾

 サビ頭(動画では1分30秒あたりから)のメロディの動きを見てみます。まず、コード進行は、また「後ろ髪コード進行」になっています。説明は……もういいですよね。

2度にわたる「イケ!」「イケ!」の上昇・跳躍がポイント

 この連載で見てきた「きゅんメロ進行」は、【F】→【G】でメロディが上昇して、【Em】→【Am】でメロディが下降するというパターンが多かったのですが、今回は、ス式楽譜にあるように、2度の上昇が印象を決定付けています。

 私には、この2度の上昇・跳躍がそれぞれ「イケ! 」「イケ!」と言っているように聴こえます。「イケ!」「イケ!」が連なって、「イケイケダンス進行」になる。

 また浜田省吾という人は、《 ♪(今は)遠く 》みたいに、ポーンと跳躍するところの歌い方がいいんですよ。聴き手のハートをわしづかみするという感じがします。こういう風に歌えると気持ちいでしょうね。

 鍵盤図は、これまでと同じですが、一応。サビ歌い出し《 ♪ J.BOY 》の《 Y 》を赤い鍵盤の音程=ド(C)で歌ってください。

 あと、実際に『弾いてみた』動画も一応。ちょっとだけ物まねしている私を褒めてやってつかあさい(広島弁)。

 「日本で最もディスコと認識されていないディスコサウンド」と書きましたが、それでもこの「J.BOY」の歌詞の主人公は、仕事のあとの憂さ晴らしでディスコに行きそうな気がします(イメージ:当時全盛の麻布十番「マハラジャ」)。

 「ワンレン・ボディコン」の「イケイケ女」(イメージ:浅野ゆう子)をはべらして盛り上がりながら、心の中で《 ♪ 掲げてた理想も今は遠く》と嘆くJ.BOY。そう考えると、メロディの「イケ!」「イケ!」跳躍と、哀しげな歌詞との乖離は、ディスコにいるJ.BOYの心理そのもののような気がしてきました。

 それでも「イケイケダンス進行」が延々と続くように、J.BOYがわだかまりを抱えた状態も延々と続きながら、日本はバブル崩壊へと向かっていくのです。Oh! J.BOY!!


あわせてチェック!

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!