【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第27回:Official髭男dism「イエスタデイ」をJ-POPの真打ちにしたコードとは?

「感情の水びたし」の音楽を量産するヒゲダン

 Official髭男dism(通称・ヒゲダン)「イエスタデイ」(2019年)のサビは、ここ数年では、屈指の「きゅんメロ」と言えるでしょう。動画のちょうど1分あたりからお聴きください。

Official髭男dism「イエスタデイ」

──── ♪ 遥か先で君へ 狙いを定めた恐怖を

「イエスタデイ」Official髭男dism 作詞・作曲:藤原 聡

 この曲がリリースされた当時、私は、彼らヒゲダンの曲を「J-POPの真打ち」と表現しました。洋楽に比べて、メロディが多く、展開も激しく、とにかく聴き手の感情を高ぶらせようとする音楽がJ-POPだとすると、その真打ち。

 言い換えれば「感情の水びたし」── そんな音楽を量産してきたのがヒゲダンだと思うのです。それまでのJ-POPがクールに思えてくるほどに(2022年の傑作「Anarchy」以降は、別の方向性に向かっている気もしますが、それは稿を改めて)。

 さてこの曲、Aメロ、Bメロは、メロディもコード進行も複雑で、そうそう簡単にはカラオケで歌えない感じがします。

 でも、でもです。サビに来たところで、視界がぐ──んと晴れるような気持ちいい感じがしませんか? 実はこれ、「きゅんメロ進行」の仕業なのです。

ス式楽譜「イエスタデイ」

音幅、メロディの流れ、音使いに注目!

 ス式楽譜をご覧ください。まず驚くのが①で示した音幅です。たった4小節で何と10度(下のドから上のミまで)。これがドラマティックで、いい意味で大仰で、つまりはエモい。

 次に②で示したメロディの大きな流れ。これは、この連載ではお馴染みの上がって下がってという勾配です。言い換えれば、上がる緊張から下がる弛緩というダイナミズム。この構造がまたエモい。

 さらには③の音使いに注目です。《 ♪(さ)きでー》がミの音になっています(実音ではB=シという超絶高音)。

 このミの音は、第25回で取り上げた浜田省吾「ラストショー」の強烈な歌い出し《 ♪ さーよならー》の《 ♪ さー》と同じ音。【Fmaj7】(ファ・ラ・ド・ミ)というコードのメジャーセブンスの音=ミが強い印象を残します。

 続く【G】のコードをバックに歌われる《 ♪(き)みへー》、こちらは【G】に対する6度のミ。こちらも一筋縄ではいかない音使いで、強い印象を残す。鍵盤図で表わせば、こうなります。赤い音=ミが歌メロ。

鍵盤図「イエスタデイ」

 続くパートも見てみましょう。2小節目の【E7】に注目です。実はこのコード、第3回のスピッツ「ロビンソン」、第7回の中村あゆみ「翼の折れたエンジェル」でも出てきた、例の哀愁が高まるコードです。

──── ♪ どれだけ僕は払いきれるんだろう

「イエスタデイ」Official髭男dism 作詞・作曲:藤原 聡

ス式楽譜「イエスタデイ」

 この【E7】(厳密に言えば、キーGのときの【B7】、キーFのときの【A7】、つまりは【Ⅲ7】のコード)をヒゲダンは驚くほど多用します。つまり「ヒゲダンコード」と言ってもいいほどに。

「ヒゲダンコード」を頭から登場させる「Pretender」

 私が驚いたのは「Pretender」(2019年)です。「ヒゲダンコード」が頭から2小節目でいきなり登場するのです(《 ♪ 予想ど(おり)》のところ)。

Official髭男dism「Pretender」

 「ヒゲダンコード」は溜めて溜めて、最後のほうで使うのが一般的なのですが(実際「宿命」ではそういう使い方をしています)、「Pretender」では、それを歌い出し2小節目でいきなり使いながら、その後、作曲テクニックをさらにてんこもりにすることで、結果として「感情の水びたし」にしてしまうのが、彼らのすごいところ。

 「イエスタデイ」に話を戻すと、「ヒゲダンコード」のところ=《 ♪(は)らいきれ(るんだろう)》のところで、哀愁が炸裂。ヘタしたら「感情」のみならず「目頭」まで水びたしになりそうです。

 以上、「イエスタデイ」は、「きゅんメロ進行」+「ヒゲダンコード」という黄金律、加えて藤原 聡の超絶高音ヴォーカルや、めちゃめちゃドラマティックな編曲などなどによって、「感情の水びたし」現象を発生させ、「J-POPの真打ち」となれたのだというお話でした。

 最後に追記。「Pretender」が歌い出し2小節目でいきなり「ヒゲダンコード」を使っていると書きましたが、実は、そんな珍しい曲が大昔にもあったのです。それも世界で一番有名な曲と言っていいような。それは「イエスタデイ」です。あ、ヒゲダンではなくビートルズのね。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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