【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第17回:「あの時君は若かった」かまやつひろしによる「日本最古のJポップ」

 ここ最近、比較的新しめの曲を取り上げて、若い読者に色目を使ったので、じゃあ、ということで、今回は一気に古い曲に戻りたいと思います。では、せっかくなので、日本で一番古い「きゅんメロ」へ。

日本最古のきゅんメロ・クリエイター、かまやつひろし

 「最古のきゅんメロ」は何か、諸説ありそうですが、私の観察によれば、どうもザ・スパイダースのようです。若い読者に色目を使って補足すれば、1960年代後半に活躍した7人組バンド(当時の言葉でいえば「グループサウンズ=GS」)で、堺正章や井上順など、のちにタレントとして広く知られるメンバーが在籍していました。

 もうひとり、メンバーを挙げるとすれば、かまやつひろし。で、この人が実は「日本最古のきゅんメロ・クリエイター」だと思われるのです。

 「サマーガール」(1966年)や「なんとなくなんとなく」(同年)など「きゅんメロ進行」(的な進行)を使った曲を、かまやつひろしは何と57年も前に早々と発表しています(余談ですが1966年は私の誕生年。つまり私は「きゅんメロ進行」と同い年)。

 ですが、「かまやつ・きゅんメロ」の代表曲と言えば、「あの時君は若かった」(1968年)にとどめを刺します。私は、これをもって「日本最古のきゅんメロ進行」「日本きゅんメロ発祥の地」としたい。

 サブスクのリンクを貼ります。かまやつひろし本人によるセルフカバー音源です。若い方でも聴いたことがあるという人も多いのではないでしょうか(と、また色目)。

「あの時君は若かったサブスクのリンク

──── ♪ あの時君は若かった わかって欲しい 僕の心

「あの時君は若かった」作詞:菅原芙美恵 作曲:かまやつひろし

見た目に美しい=法則性があるメロディ

 まずはス式楽譜です。が、これだけだと、55年前に作られた歌い出しの“凄み”がわかりにくいかもしれません。

ス式楽譜「あの時君は若かった」

 そこで「シン・ス式楽譜」を導入します。音符の長さを無視して、ただ音列だけを純粋に眺めるための、いよいよ簡易的な楽譜です。

シン・ス式楽譜「あの時君は若かった」

 どうでしょう、この造形的な美しさは。ゆっくり立ち上がって、ながらかな下降がきれいに3回繰り返される。まるでコピー&ペーストしたように。

 これまでこの連載では、「きゅんメロ進行」の上に、ダイナミックに上昇・跳躍する、忙しいメロディを中心に見てきましたが、今回は「ダイナミック」というよりか、まずは見た目に美しい。

 見た目に美しいということは、つまり法則性があるということ、法則性があるということは、つまり耳馴染みがいい、親しみやすいということになります。だからこそ──55年後の今でも、多くの人に親しまれ、カバーされ続けるのです。

日本最古のシティポップ・コード、日本最古のJポップ

 さらに驚くのが、使っているコード。「F-G-Em-Am」という「素朴版・きゅんメロ進行」ではなく、「Dm7-G7-Cmaj7-Am7」という、全コードがこの連載で説明済みのセブンスを多用した、いわば「おしゃれ版・きゅんメロ進行」

 55年前に、もうこんなおしゃれなコード進行を使っているなんて!

 もっと言えば、「シティポップ・コード」のメジャーセブンス(Cmaj7)を早々と使っているあたり、「日本最古のシティポップ」と言えるかも。もっともっと言っちゃうと、これぞ「日本最古のJポップ」ですよ。

 かまやつひろしはその後、ユーミン(荒井由実→松任谷由実)のデビューを手掛けます。そしてユーミンは「12月の雨」、「私のフランソワーズ」、そしてこの連載で取り上げた傑作「卒業写真」を生み出す──令和のJポップで隆盛を極める「きゅんメロ」という大河の最初の一滴、それが「あの時君は若かった」なのです。

 だから、かまやつひろしさん、「あの時君は若かった」を作ったあの時の君は、早すぎた!

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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