【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

イラスト:まつだひかり

スージー鈴木

第1回:あのメロディに胸がきゅんとする理由

音楽評論家、スージー鈴木が贈る連載コラム「きゅんメロの秘密」は、
日本人が好き過ぎると言っても過言ではないコード進行、「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm」と、
そこから生まれる「きゅんなメロディ」について考察していくもの。
シンガーソングライターのように作曲を行なうヴォーカリストは特に必見の内容となっている。

はじめまして。音楽評論家のスージー鈴木です。最近、胸がきゅんとすることもなくなった55歳のオッサンです。

以下、このVocal Magazine Web(以下VMW)を見ているであろう、ヴォーカリスト志望の若い方を読者と思って書きますが、もしかしたら、そういう方々、つまりアナタには「胸がきゅんとする」という表現、ひいては「胸きゅん」という略し方に馴染みがないかもしれません。

これ、「胸がきゅんとするほど切なくなる感じ」ぐらいの意味なのですが……と、この説明で何となくわかっていただいたと仮定して、この連載では「きゅんメロ」=「胸がきゅんとするほど切なくなるメロディ」の話をしたいのです。

あ、もしや、私と同世代も読んでいるかもですが、そんな方々には説明不要ですね。YMO「君に、胸キュン。」(1983年)を知っている世代ですから。

そんな我々にとってはカタカナの「キュン」ですが、ひらめという歌手の「ポケットからきゅんです!」(2020年)という曲がTikTokでバズりましたので、この連載では若者向けにひらがなの「きゅん」で表記することにします。

話を戻します。ヴォーカリスト志望の方なら、その多くは、「きゅんメロ」を歌いたい、できれば「きゅんメロ」を作りたい、自分で作った「きゅんメロ」を歌いたいと思っていることでしょう。

だとしたら、この連載で解明していく「きゅんメロの秘密」を知っていて、絶対に損はありません。実は、特に日本の音楽シーンにおいて強く支持される「きゅんメロ」には、とてもわかりやすい法則性があり、「秘密」のヴェールは、すでに少しだけ剥(は)がされているのです。

理屈っぽい話に入る前に、ここで、若い方から大きな支持を得ているYOASOBI「夜に駆ける」(2019年)の冒頭を歌ってみましょうか。みなさんもご一緒に。

── ♪ 沈むように 溶けてゆくように

「夜に駆ける」作詞・作曲:ayase

ほら、ここ! 何だか、切なくて気持ちいい感じがしません? これが「きゅんメロ」なのです。

で、先に「法則性」と言いましたが、それはコード進行なのです。具体的に言えば、

「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm」

というコード進行を使っているのです。いきなりのローマ数字(高級な置時計で見るやつですね)が、ちょっと専門的でわかりにくいかもなので、具体的にキーをCとすれば、

「F-G-Em-Am」

という進行になります(実は、YOASOBI「夜に駆ける」のキーはE♭なのですが、このあたりの説明も後日)。この「F-G-Em-Am」というコード進行が、どうも日本人(だけ)が極端に好き過ぎる進行のようなのです。

事実、フランソワ・デュポワというフランス人のマリンバソリスト/作曲家は、『作曲の科学』(講談社ブルーバックス)という本で、「日本でひんぱんに使われているコード進行」、「日本で人気の王道コード」と評しています。

YOASOBIだけでなく、このコード進行を使ったヒット曲は、最近めちゃめちゃ増えていて、もう、ちょっとしたブームとなっています。

でも、これ、別に最近始まったわけではなく、実は昭和の音楽シーンから脈々と継がれています。松任谷由実もサザンオールスターズもプリンセス プリンセスもスピッツも、みんなみんな、このコード進行を使ったヒット曲を作りました。

このコード進行=「きゅんメロ進行」のこと、もっと知りたくなりませんか? 知りたくなったはずです。なぜなら、(ちょっと乱暴にいえば)日本人はみんなみんな大好きなのですから──「きゅんメロ」が。

というわけで、連載「きゅんメロの秘密」では、この「きゅんメロ進行」を使ったヒット曲を聴きながら、歌いながら、なぜ日本人が「きゅんメロ」を好き過ぎるのか、その秘密を解明していこうと思います。

そしてゆくゆくは、「きゅんメロ進行」を使った作曲コンテスト=「きゅんメロ・スカウト・キャラバン」(何だそれ?)を開催して、YOASOBIに続く、新たな「きゅんメロ・スター」を、VMW発で発掘したいという野望もあります。

つまり私は、きゅんメロ界の秋元康=「あ“きゅん”もとやすし」を目指します。今回は以上です。次回もよろしくお願いします。きゅんきゅん!

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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