【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第25回:浜田省吾「ラストショー」の歌い出しに「きゅん」とする最大の理由とは?

学生時代に出会った人生で一番ビビッときた「きゅんメロ」

 【(中森)明菜進行】、【枯葉進行】という大物コード進行をさばきましたので、基本に戻って、また【純粋きゅんメロ進行】の話を。

 これまでの人生で一番ビビッときた「きゅんメロ」は何かと考えたら、80年代、学生時代に聴いたこの曲だったような気がします。浜田省吾「ラストショー」(1981年)。

ラストショー (ON THE ROAD 2015-2016 “Journey of a Songwriter”)

 学生時代、私は言わば「佐野元春派」で、その流れで、浜田省吾を何となく遠ざけていました(今から考えれば、謎な派閥意識です)。しかし、ある日ラジオで聴いた、この曲の歌い出しのメロディにはやられました。ス式楽譜ではこうなります。

●ス式楽譜①

ス式楽譜①「ラストショー」

──── ♪ さよなら バックミラーの中に あの頃の君を探して走る

「ラストショー」浜田省吾 作詞・作曲:浜田省吾

「ラストショー」分析で見えてきた「きゅん度」最大の要因

 一応分析してみます。「一応」というのは、このメロディの「きゅん度」を形成する最大要因は、のちに述べるように楽譜には表わせられないものだと思うからです。

●ス式楽譜②

ス式楽譜②「ラストショー」

 まずは【1】で示した跳躍ですね。正直レからソという4度の跳躍は、これまで見てきた「きゅんメロ」の中では、それほどの幅ではないのですが、この曲のキーはCなので、このス式楽譜は移調なしの原曲キー。つまりレ(D)→ソ(G)はなかなかの高音の領域となり、インパクトが高まります。

 また【2】で示したように、【1】の跳躍の前に、一度上がって下がってという勾配があるのも、【1】の準備運動として効いている感じがあります。

 でも、譜面上一番大きいのは【3】ではないでしょうか。歌い出しのいきなりの音が、この楽譜にあるようにミの音なのです。【Fmaj7】におけるミ。鍵盤図で表わすと、この赤い音から歌われる。

鍵盤図①

 いつか書いたように、メジャーセブンス【maj7】は、メジャーコードとマイナーコードの中間的な響きを持っています。【Fmaj7】で言えば、ファ・ラ・ドというメジャー(【F】)とラ・ド・ミというマイナー(【Am】)の響きを兼ね備えている。

 言い換えると、メジャーの中のマイナー的な響き、つまり悲しい響きをもたらすミの音で歌うことで、いかにも《 ♪ さよなら》な感じが表わされるということです。

 ここで比較用に、仮に最初のコードを、普通の「きゅんメロ進行」的に【F】にして、かつメロディもミではなく、【F】に沿うよう半音上げたファから始まる「ニセ・ラストショー」を考えてみましょう。

ス式楽譜③「ニセ・ラストショー」

 どうでしょうか? めっちゃ味気ないでしょう? 「きゅん」としないでしょう? 「ラストショー」がこれから始まるというより、その瞬間が「ラスト」=終了~、という感じになるでしょう?

 そのくらい【3】=ミから始まるという効能は大きいのです。一応、鍵盤図を付けておきます。赤丸のミから歌い始めてください。

鍵盤図②

コード? 音? 浜田省吾の声そのものが最大要因!

 以上ですが、それでも、この曲に「きゅん」を感じる最大の要因は、コードがどうこう、音がどうこうというより、浜田省吾の声そのものだと思います。ハスキーで野太くって、あまりビブラートをかけずストレートに歌う、あの声。あの声質こそが「ラストショー」を「ラストショー」たらしめていると思うのです。

 というわけで、「ラストショー」から学ぶべきは、まずは浜田省吾の声です。まずは物まねから入るのがいいのではないでしょうか。私も何度となくラジオやテレビで披露しています(すいません)。その経験から言えば、彼の声は(たぶん)下の倍音が多いので、1オクターブ下げて物まねすることをお薦めします。何だ、この豆知識は。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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