【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第24回:「愛はかげろう」(雅夢)と「世情」(中島みゆき)~これぞサステナブルな【枯葉進行】

エレガントでおしゃれ、終わらなそうな感じの進行とは?

 前回の続きです。前回見た【(中森)明菜進行】、つまり、彼女をブレイクさせた「セカンド・ラブ」と、デビュー曲「スローモーション」で使われていたコード進行は、こんなものでした。

【Dm7】-【G7】-【Cmaj7】-【Am】-【Dm7】-【Bm7-5】-【E7】

 【Dm7】-【G7】-【Cmaj7】-【Am】という【きゅんメロ進行】に尾ひれをつけて、その尾ひれの中に「Bマイナーセブンフラットファイブ」(【Bm7-5】)という長い名前のコードをしのばせると、エモさが高まるという話。

 かつ、コード進行に乗せるメロディを、ある音形の繰り返しとすることで、人懐っこくなり、覚えやすくなるという話もしましたね。

 今回は、そんな【明菜進行】を少しだけ変えてみます。少しだけ。

【Dm7】-【G7】-【Cmaj7】-【Am】-【Bm7-5】-【E7】-【Am】-【A7】

 似てますよね。尾ひれの部分がちょっと変わっただけ。でも、この進行、実は【明菜進行】よりもメジャーで、かつポップスだけではなく、シャンソンやジャズでも使われているのです。

 別名【枯葉進行】と言います。数多くのシンガーにカバーされているシャンソンの名曲「枯葉」(Autumn leaves)で使われているもので、とにかくエレガントでおしゃれで、あと延々と繰り返される感じ、絶対に終わらなさそうな感じがする特徴があります。

1980年のヒット曲「愛はかげろう」雅夢

 日本でもたくさんの曲に使われています。代表としては、1980年9月25日発売、69.1万枚を売り上げ、オリコン3位まで上り詰めた雅夢(がむ)の「愛はかげろう」でしょうか。若い方はご存じないかもですが、お父さん、お母さんは、たぶん知っていらっしゃるんじゃないかな。

「愛はかげろう」雅夢

 1分16秒くらいからのサビが【枯葉進行】です。ス式楽譜だとこんな感じになります。

「愛はかげろう」ス式楽譜①

 よく見てください。また、ある音形が繰り返される構造になっています。だからまた人懐っこくなり、覚えやすくなっているんですね。

「愛はかげろう」ス式楽譜②

 そして延々と続く感じ。聴いて歌ってみてください。

──── ♪ 愛はかげろう つかの間の命 激しいまでに 燃やし続けて

「愛はかげろう」雅夢 作詞・作曲:三浦和人

 何だか、延々と続いていく感じがしませんか?

──── ♪ 愛はかげろう つかの間の命 激しいまでに 燃やし続けて 愛はかげろう つかの間の命 激しいまでに 燃やし続けて 愛はかげろう つかの間の命 激しいまでに 燃やし続けて

 ほらね。最後の【A7】に【Dm7】への「引力」が働いていることから、何度も何度も繰り返される感じがする。つまり何度も何度も、愛のかげろうとやらがメラメラと燃やし続けられる。

金八先生の名シーンで鳴り響いた「世情」中島みゆき

 似たような曲があります。1978年4月10日リリースのアルバム『愛していると云ってくれ』に入っていた、中島みゆき「世情」という曲です。と言っても、若い方はおろか、若い方のご両親もわからないかも。

 でも、こう言ったら、ご両親はたぶんピンと来るはず……「『3年B組金八先生』第2シリーズの『卒業式前の暴力(2)』で、加藤優(まさる)が警察に捕まえられるときに鳴り響く曲」。工藤静香のカバーバージョンで聴いてみましょう。

「世情」工藤静香

──── ♪ シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく 変わらない夢を 流れに求めて

「世情」中島みゆき 作詞・作曲:中島みゆき

 1分40秒くらいからが、さっきとはちょっと違うけれど、大括りで言えば【枯葉進行】で、また同じ音形が繰り返され、そしてまた延々と続く感じがしますよ。

「世情」ス式楽譜

────♪シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく 変わらない夢を 流れに求めて シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく 変わらない夢を 流れに求めて シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく 変わらない夢を 流れに求めて

 【枯葉進行】恐るべし。延々と繰り返される感じがたまりません。言わば枯葉の無限地獄。いや、何だか気持ちいいから「無限天国」か。

 言い換えれば、【枯葉進行】は、持続可能なサステナブルなコード進行なのです。つまり地球の誕生から再生持続し続ける植物のような進行……枯葉だけに。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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