【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第9回:アースシェイカー「RADIO MAGIC」に見るハードロックな《後ろ髪》

 さて、前回取り上げた【後ろ髪コード進行】について、もう一回だけ触れて、おさらいしておきたいと思います。

1980年代前半に吹き荒れたハードロック・ブーム

 でもその前に、ちょっとだけ思い出話をさせてください。この連載、若い読者が多いと思いますので、もしかしたら大昔、原始時代の話のように感じる方が多いかもですが。
 1980年代前半の大阪、ちょうど私が中学生・高校生だった頃の大阪は、ハードロック・ブームが吹き荒れていました。大人になっていろいろ調べてみましたが、やはり東京に比べて、大阪のハードロック・ブームは異常だったようです。
 もちろん当時から「ヘヴィメタル」という用語は存在したのですが、当時は、まだ「ハードロック」という言葉のほうが一般的だったような記憶があります。

 ハードロック・ブームということは即ち「ハードロックギター・ブーム」なのです。みんなエレキギターを買って、ディストーションのエフェクターをつないで、ギンギンに歪んだ音で弾きまくっていました。
 80年代前半にもかかわらず、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルなどの70年代ハードロックをコピーするのが、当時の大阪っぽさなのですが、もちろん新進気鋭の日本人バンドのコピーにもチャレンジします。
 そんな、あの頃の私たちが憧れた、日本人ハードロック・バンドの両巨塔が、ラウドネスアースシェイカーでした。
 ラウドネス派とアースシェイカー派に分かれるのです。ちょっとブリティッシュで、重々しくって、つまりは「ヘヴィメタル」感溢れるラウドネスに対して、アメリカンで、軽快で、いかにも「ハードロック」な感じのアースシェイカー。
 私は後者=アースシェイカー派でした。そして高校3年生、大学受験勉強に軽い腰を上げ始めた頃に流れてきたのが、アースシェイカーの名曲「RADIO MAGIC」だったのです。

上昇するメロディといっさい動かないベースの対比

── ♪ RADIO MAGIC 流れるよ 君のくちびるに

「RADIO MAGIC」アースシェイカー(作詞:西田昌史 作曲:石原慎一郎)

 傑作サビ=《♪ RADIO MAGIC 流れるよ 君のくちびるに》のところが、実は【後ろ髪コード進行】=【F】→【G/F】→【Em】→【Am】になっているのです。サビの前半を「ス式楽譜」で表現するとこんな感じ。

 サビ後半は、メロディが下降して落ち着きます。この緊張→弛緩の流れもお見事。


 歌詞は「卒業写真」(荒井由実)同様、またセンチメンタルな感じです。おそらく主人公はバンドマンなのでしょう。《君を引き止めたい》けれども、「俺」は《明日になれば》、《俺を待つ どこかの町へ》行く。
 動いていく「俺」と、動かない「君」。その関係が、上昇していくメロディと、コードが変わってもいっさい動かないベースの対比から感じられるのです。
 確認ですが、【F】→【G/F】を鍵盤図で表現すると、こんな感じです。

 とまぁ、理屈っぽいことをいろいろ書きましたが、ス式楽譜も鍵盤図などの画像も、動画には勝てないだろうということで、「RADIO MAGIC」の【後ろ髪コード進行】を、私が実際にミニキーボードを使って、弾いて・歌った動画を制作しました。前回に続いて、いろいろと説明しましたが、要するにこういうことなのです。

世界で一番有名な【後ろ髪コード進行】

 さて、世界で一番有名な【後ろ髪コード進行】と言えば、カーペンターズ「青春の輝き」(I Need to Be in Love)となります。1976年の5月にリリースされているようです。
 日本で言えば、もちろん荒井由実「卒業写真」(1975年)が代表。もしくは、その前年にリリースされたチューリップの「青春の影」(1974年)か ──いずれにせよ、「青春の輝き」より早い。
 そして、これら70年代中盤以前には、洋楽にも邦楽にも【後ろ髪コード進行】が見つからない気がするのですが、みなさんいかがでしょうか?(ご存じの方がいたら教えてください)

 ということは、もしやカーペンターズ「青春の輝き」は、「卒業写真」や「青春の影」を参考にした説?
 そういえばカーペンターズは、1976年の3月、つまり「青春の輝き」リリースの直前に来日しています。そのときに、ユーミンやチューリップの【後ろ髪コード進行】を聴いたとか? まさか……。

 というわけで最後に補足。私がアースシェイカーをコピーしたという意味合いのことを、この記事の前半に書きましたが、この「RADIO MAGIC」のギターソロには、まるで歯が立たなかったことを追記しておきます。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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