【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密
スージー鈴木
今回は先に理屈の話をやっつけます。
前回「F-G-Em-Am」という「簡易版」ではなく、「原曲に忠実な本気版」として「Dm7-G7-Em7-Am7」という、4つのコードに7」を付けた進行を紹介しました。
「きゅんメロ進行」に「7」がついて「きゅんメロ・セブン」の誕生。シュワッチ。
で、「7」を付けた効能として、「雑味が混じった感じ」、「その雑味が、都会的というかオシャレっぽく響く」と書き添えました。
では、そんな都会的な「きゅんメロ・セブン」=「Dm7-G7-Em7-Am7」をひとつひとつ分解していきたいと思います。まずは冒頭の「Dm7」。読み方は「ディー・マイナー・セブンス」。押さえ方は、上と同じですが、こうです。
下から「レ・ファ・ラ・ド」という並びです。一応理屈を言っときますと「レ・ファ・ラ」が「Dm」というコードで、それに「ド」という「7」=セブンスの音が入って完成。
そう言えば、この「Dm7」に取って代わられた「F」は、こんな押さえ方でした。
「ファ・ラ・ド」。あれ? さっきの「Dm7」と似てません?
そうなんです。「レ・ファ・ラ・ド」の「Dm7」と「ファ・ラ・ド」の「F」、似ている。っていうか、「レ・ファ・ラ・ド」の中に「ファ・ラ・ド」が含まれている!
数学の授業で学んだ「集合」の記号「⊃」を使いますと、「Dm7 ⊃ F」となります。ということは、「F」が出てくるコード進行で、その「F」を「Dm7」に変えると、響きが複雑かつ都会的になるということですね。
という事前情報を頭に入れながら、今回は「きゅんメロ進行」界のスタンダードの中のスタンダード、大瀧詠一の手による「夢で逢えたら」を見てみます。映像は鈴木雅之版で。
── ♪ 夢でもし逢えたら 素敵なことね
「夢で逢えたら」鈴木雅之(作詞・作曲:大瀧詠一)
「ス式楽譜」に起こすと、こんな感じ。
「ドン・ドンと落ちて、ふわ~~」が2回続きます。「ドン・ふわ」メロディ×2。同じ構造を繰り返すメロディだから、覚えやすいんですね。あ、「♪ すてきなことね」の「ね」は、ちょっとこぶしが入って「ねぇぇぇー」と細かい動きになるのですが、それは「ス式楽譜」で表現していません。
ちなみに今回もコード進行は、「Dm7」以外簡易版。上とほとんど同じですが、一応。「♪ ゆめでもし~」の「ゆ」を赤い印の鍵盤の音(ド)で歌ってください。
で、冒頭の「Dm7」を「F」にして弾いてみてください。っていっても「Dm7 ⊃ F」なんで、ほとんど同じような響きですが、ちょっとだけ、ちょっとだけ「Dm7」版のほうが、複雑かつ都会的な感じになることがわかります……よね?
「F」だったら、夢で絶対に逢える確信がある、つまり「夢で逢えます(キリッ)」になる感じがします。対して「Dm7」は、「夢で絶対に逢える確信はないけど、逢えたらいいな(きゅん)」という、つまりは「夢で逢えたら」になると思うのです。
言い換えると「Dm7」は、「逢えたらいいな(きゅん)」な「願望コード」だと言えるのですが。てか、「きゅんメロ・セブン」の効果ってすごいな。シュワッチ。
本コラムの執筆者
スージー鈴木
1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。
<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)
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