【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第29回:モーニング娘。「LOVEマシーン」が世紀末の日本を盛り上げた理由

全然きゅんとしない「きゅんメロ進行」が「きゅん」とする。

 「きゅんメロ」というくらいですから、これまで紹介した曲は基本、泣けるバラードばかりでした。ただ第10回で取り上げた少年隊「ABC」(1987年)の回で書いたように、泣けるというより「踊れる」という感じの曲も、「きゅんメロ進行」をよく使っています。

 今回も全然きゅんとしない「きゅんメロ進行」、つまりは「イケイケダンス進行」になります。1999年発売、20世紀末の日本をこれでもかこれでもかという感じに盛り上げたモーニング娘。「LOVEマシーン」。当時、死ぬほど見たMV。私これ買いましたよ、VHSテープのやつ。

「LOVEマシーン」モーニング娘。

サビのたった2小節だけ現われる「きゅんメロ進行」

 ただ、少年隊「ABC」と違うのは、あちらは「きゅんメロ進行」が曲の冒頭から延々と続くのに対し、こちらはサビで一瞬現われるだけということです。本当に一瞬。ここだけ。

ス式楽譜①

 短っ。たった2小節。でも、非常に印象に残りますよね。でもちょっと短か過ぎるので、次の2小節も入れてみました。

── ♪ 日本の未来は(Wow Wow Wow Wow)世界がうらやむ(Yeah Yeah Yeah Yeah)

「LOVEマシーン」モーニング娘。 作詞・作曲:つんく

ス式楽譜②

「LOVEマシーン」の「きゅんメロ」ポイントを3つに分けて解説!

 全体像はこんな感じ。で、ポイントを記しますと……。

 まずは①、一番のポイントは、全体がたったの5度の間に収まることです。これまでは「きゅんメロ進行」の中に、オクターブ(8度)跳躍とかもあったのですが、今回は、そもそも全体が5度と、非常に狭い幅の中に収まります。

 そもそも、メロディが激しく動くと、聴くほうに関心が行ってしまって、踊りに集中できないということなのでしょう。世紀末の日本を踊らせた理由のひとつ目は音域の狭さです。そう言えば少年隊「ABC」のサビも狭かったですね。こちらはたった4度。

ス式楽譜③「ABC」

 次に②。ここは細かいのですが「歌メロ=ベース音」になっていることです。コードが【F】と【G】ですが、それに合わせてメロディもF(ファ)とG(ソ)の音になっています。《 ♪ 日本の・未来(は)= ♪ ファファッファ・ソソソ(ド)》。コードが【F】と【G】のベース音となるFとGと同じ音でメロディが作られていることで、響きがとてもストレート、直線的になっている気がします。結果、踊りたくなる。

 さらには③、「 ♪ レミレド・レミレド」(上)、「 ♪ ドーレーミードー」が持つ、何か童謡みたいな、呪文みたいなメロディの魔力です。

・♪ Wow Wow Wow Wow= ♪ レミレド・レミレド

・♪ Yeah Yeah Yeah Yeah= ♪ ドーレーミードー

 このメロディで私が想起するのは、童謡「たきび」の歌い出し=《 ♪ かきねのかきねの》です。《 ♪ 日本の未来は~かきねのかきねの》。《 ♪ 世界がうらやむ~かーきーねーのー》。あれ、ちょっと無理があるか?

 でも、童謡っぽいということは、子供でもノレそうな、踊れそうなということに繋がります。「LOVEマシーン」が老若男女に愛されたのには、案外この「たきび」的なメロディが効いたような気がします。あ、世紀末という時代に「たきび」が火をつけたのか(うまいこと言うたった)。

 あ、少し阿波踊りっぽくもありますね。《 ♪ 日本の未来は~えらいやっちゃ・えらいやっちゃ》。《 ♪ 世界がうらやむ~よいよいよいよい》。阿波踊りっぽいということも、子供でもノレそうな、踊れそうなということでしょう。

 最後になりますが、書きながら歌詞を見て思ったのです。冒頭に“全然きゅんとしない「きゅんメロ進行”と書きましたが、歌詞《 ♪ 日本の未来は 世界がうらやむ》ってフレーズは、今であれば、ちょっときゅんとしますよね。今の不景気ニッポンの国力や経済力を、世界が全然うらやましく思っていないであろうことを考えると。

 と思ったら、作者のつんく♂さんは、歌詞の意味について、こうつぶやいていました。

 あ、国力や経済力じゃなくって、恋愛の話なのか……。でもやっぱり、ちょっときゅんと来たわ。

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!