【連載】スージー鈴木 きゅんメロの秘密

スージー鈴木

第20回:オフコース「Yes-No」の繊細でパステルカラーなきゅんメロ

 「きゅんメロ進行」は、つまりは繊細な感覚のコード進行と言えます。歌謡曲とか演歌の直線的で雑把な、色で言えば原色のような進行に対して、パステルカラーの色合いとでも言いましょうか。

 そんな「きゅんメロ進行」に代表される繊細なコード進行の普及に関して、オフコースの貢献は多大なものがあったと思うのです。

技巧的で繊細なコード進行を普及させた黄門様御一行

 ユーミン黄門さまを真ん中に、助さん・格さんならぬ、2人の「和さん」──オフコースの小田和(正)さんとチューリップの財津和(夫)さん、この3人が諸国を漫遊しながら、技巧的で繊細なコード進行を日本全国に普及させた。

 ちなみに余談ですが、1970年代において、ユーミン、オフコース、チューリップは同じレコード会社(東芝EMI)でした。なので人脈的にも近く、お互いを意識しながら切磋琢磨したように思うのですが(さらに東芝EMIは、この2人の和さんの前に、先輩の和さん=加藤和(彦)さんがいました)。

今なんていったの転調

 今回は、オフコースの代表曲「Yes-No」(1980年)を取り上げます。この曲、イントロから「きゅんメロ進行」(後ろ髪コード進行)を、惜しげもなく繰り返します。

 気が利いているのが、イントロが終わって本編に入った瞬間、いきなり半音上に転調するところ(キー:B→C)。歌い出しの歌詞《 ♪ 今なんていったの?》とリンクして、絶妙な味わいを与えます(この部分を私は「今なんていったの転調」と呼んでいます)。

 さて、サビの「ス式楽譜」です。起伏をご覧ください。2つの跳躍があるものの、これまで、かなり激しい起伏の「きゅんメロ・ス式楽譜」を見続けてきた読者の方々におかれましては、これまでに比べると、むしろ、なだらかなメロディのように思われるのではないでしょうか。

──── ♪ 君を抱いていいの 好きになってもいいの

「Yes-No」オフコース 作詞・作曲:小田和正

ス式楽譜「Yes-No」オフコース

 しかし曲そのものを聴いてみると、逆に、これまでの「きゅんメロ」の中で、指折りのインパクトを与えるはずです。その秘密は……小田和正のキーの高さです。

 実は、このパート、キーがCでして、つまり「(好きになっても)いい(のー)」の最高音は、ス式楽譜通り「シ」(B)の音なのです。めちゃくちゃ高い。っていうか、普通なら女性用のキーですね。

 そんなメロディを、金属的な高音ヴォーカルで見事に発声する若き小田和正(32歳)。つまり、起伏が少ないといっても、そもそもがめちゃくちゃ高い音域なので、強い印象が残るのでした。

 恒例の鍵盤図。これまで学んできた「後ろ髪コード進行」、まんまですね。《 ♪ 君を抱いていいの》の「君を抱い(て)」を、赤丸鍵盤の音程(ラ/A)で歌ってみてください。

ニューミュージック終止

 さて、第20回まで来ましたので、「きゅんメロ」以外の話もしましょう。今回取り上げたいのが「オフコース終止」です。別名「ニューミュージック終止」

 「終止」という音楽用語、要するにコード進行が終止する、つまり主和音に落ち着くことを指します。例えばキーがCとして【F】→【G】→【C】と進行すると、最後の【C】で「あぁ、落ち着いたぁ」という感じがしますよね。

 ただ、オフコースは【Dm7】→【Dm7/G】→【Cmaj7】という、直線的な【F】→【G】→【C】に比べて、何とも繊維でパステルカラーの終止をよく使ったのです。「Yes-No」で言えば、この部分(歌い出しの音が赤丸鍵盤)。

 ぜひ、次の【F】→【G】→【C】で歌った場合と比べてみてください。上のほうが、めっちゃオフコースっぽいでしょう? 逆に下は、めっちゃ味気ない。「君」のことを「ぼんやり」ではなく、どんぐりまなこで凝視している感じがしませんか?

 ユーミン黄門と2人の和さんが、諸国漫遊しながら、このような繊細でパステルカラーなコード進行を日本全国に普及させた。結果として、当時の日本人の若者の音楽感性も、繊細な方向に成熟していった、その先に生まれたものが、そう、J-POPなのです。

──え? 「今なんていったの」って? 聴いてなかったんかい!

本コラムの執筆者

スージー鈴木

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2023年
『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)
2022年
『桑田佳祐論』(新潮新書)
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

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