【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
声帯の閉じ過ぎを治そう
第10回では歌声が詰まる原因について、問題を起こす器官と状態を6つ紹介しました。今回からその6つの症状それぞれの治し方を6回にわたって徹底解説していきます。今回は一つ目に紹介した(1)「声帯」の「閉じ過ぎ」=「ノド詰め声」を扱います。
喉詰め声は吐息で中和する
まず結論から申しますと、声帯を閉じ過ぎたことによる喉詰め声の解決のカギは“ウィスパーボイス”です。息をたくさん混ぜるささやき声/ヒソヒソ声のことですね。どういうことか解説していきますのでじっくり読んでいってください(‘ω’)ノ。それではスタート。
「喉詰め声」は「ノド詰め声」
まずこの症状を理解するためには、喉詰め声の“喉”を特定しないとなりません。喉とはあまりにも広い範囲を示す言葉であり、発声の諸問題を解決できないばかりか、もっと複雑化させてしまう悪魔の言葉です。筆者はこの注意喚起のために“ノド”と表現しています。「喉/ノド」という言葉を使う危険性については以下の記事をご参考ください。
【完全版!】悪魔の言葉「喉/ノド」
「ノド詰め声」は「声帯詰め声」
この場合の“ノド”とは声帯を指します。声が作られる最初の器官であり、最終的にコントロールするのも声帯です。
声帯は開く? 閉じる?
声帯は、ある程度閉じた状態に肺からの空気が当たると振動が生まれて声が作られます。声帯で摩擦音が生まれるイメージです。逆に完全に開いた状態では息だけが通り抜けるので声を作ることができません。ですから“声帯は閉じるもの”です。声帯を閉じることを声門閉鎖/声帯閉鎖と言います。
どれくらい閉じるべき?
“閉じる”と言っても、そこには程度問題が生じます。声帯をどれくらい閉じるかによって、どんな音色/声色になるか、声の出しやすさ、改善すべき問題の有無、が変わってきます。いろいろな声における“声門閉鎖の程度”を見ていきましょう。
(1)吐息
息だけ吐いているときは“声帯が完全に開いた状態”で“声は鳴らない状態”です。息だけ吐く場合は出しづらさを感じないはずです。
(2)ささやき声/ヒソヒソ声
多くの息が混ざるも声は薄っすら鳴ります。“声帯が開き気味=少し閉じた状態“です。慣れていないと声量は出しづらくて張り付いた感じを覚えやすいですが、音色自体はサラサラと流れていくような質感になり、”詰まる”とは反対の声になります。
(3)しっかりめの”話し声”や”歌声“
“声帯が閉じ気味=少し開いた状態”で、日常的によく使うバランスの発声ですが、歌においては地の声が大きい人ほど音域が上がってくると詰まりやすくなります。
(4)「ウ”ッ!」や「……ッ!!」
お腹をパンチされた時のような苦しそうな音です。“声帯が過度に閉じた状態”です。この段階になると“声帯の閉じ過ぎ”の状態となります。
声帯を閉じ過ぎると?
上記の(4)が声門閉鎖が強すぎて声がせき止められている極端な例であり、これがまさに“声帯で声が詰まっている”状態です。これを喉詰め声/喉締め声や過剰閉鎖と呼びます。このように程度の問題はあるにせよ声帯の閉じ過ぎが、歌声が詰まる原因の一つになります。
解決策は「閉じ過ぎるのなら開けばいいじゃない」
「パンが無ければケーキを食べればいいじゃない」のような意地悪な話ではありません(笑)。強すぎる閉鎖を治すには声帯を開き気味にすれば良いんですが、実は声帯を開く動作は、声帯の筋肉だけではコントロールできません(「半不随意筋」と言います)。
声帯の開閉コントロールは息で
“ケーキ”のように特別なものを用意する必要はありません。声を作るのに必要な材料は声帯と息です。専門的に言い換えると声門閉鎖と呼気です。声帯が閉じ気味だと漏れる息は少なくなり、逆に息を増やせば声帯は開き気味になるように、この二つはお互いがそれぞれをコントロールし合う表裏一体の関係です。発声はバランスです。この場合もシーソーや綱引きのように、声門閉鎖の強さと呼気量のバランスを取れば良いのです。発声に呼気を混ぜようとすれば、声帯の筋肉は息を通すために開く動作をするので、声帯が過剰に閉じる動作を中和してくれるのは呼気となります。
「声帯に“息を挟める”ことによって、物理的に閉じないようにする」と思っていても良いでしょう。「乾燥でカチカチに固まった食材(=声帯)を霧吹き(=呼気)で柔らかく戻す/ほぐす」ようなイメージも近いです。なのでささやき声/ヒソヒソ声のように呼気をたくさん使うウィスパーボイスを習得することがノド詰め声を改善する解決策となるのです。
ウィスパーボイスのトレーニング
では実際に、息を吐く/息を混ぜる/息を漏らす作業を必要とするウィスパーボイスの練習をしていきましょう。
筋弛緩法
筋弛緩法と聞くと難しそうですが、簡単に言うとあえて力んだ状態も覚えることで、脱力状態も覚えようというものです。過剰閉鎖の緊張状態とウィスパーの脱力状態を行き来させて練習します。
(1)まずは音程感を降ろして脱力を強調。
(2)次は同じ音程上でコントロール。
11段階でコントロール
最終的には以下の11段階でコントロールできるようになると良いですが、まずは大まかに100、80、60、40、20、10、0の6段階で区別できるようにしましょう。図の【声の輪郭のイメージ】のように、“息の成分”の中心に“声の成分”が鳴っているのをイメージしましょう。
(1)まずは6段階で区別。
(2)次は11段階でコントロール。
グラデーションでコントロール
上記の11段階をなめらかに繫げて練習します。
コントロールするコツあれこれ
上手くいかないときは以下の方法を試してみてください。
(1)鼻づまりの状態「danban」を作りながら漏らす。
(2)漏らし気味なら「ha」で、閉鎖気味なら「ah」の発音で練習する。
(3)漏らす呼気は“温める/湿らせる”ように吐くとなじみやすくなる。
(4)意図的な声門閉鎖「あ”/う”」を軽く混ぜながら発声。
これらの練習方法と、なぜ効果があるのかについての解説はウィスパーボイスをメインで扱う機会にお話ししましょう。
閉鎖の強さと狭さ、呼気の多さと速さ
それでも上手くいかない場合や、もっと進んだトレーニングをするときは、閉鎖の強さと狭さ、呼気の多さと速さについても理解して調整する必要があります。これらについても別の機会にお話ししましょう。実際にヘッドボイスやミックスボイスの習得をするときなどにも必要な知識と感覚になります。
今日の終わりに
ボイトレは問題が複雑に絡み合っていると解くのが難しくなります。今回感覚を掴めなくても、ほかの項目でボイトレをしている中で急に感覚を掴める瞬間が訪れたりすることがありますので、一つに凝り固まらないで練習するのも効果的な方法です。
次回予告
次回は、第10回「歌声が詰まる原因6つ」の2つ目で紹介した(2)「喉仏の上がり過ぎ」=「ノド上げ声」について解説していきます(‘ω’)ノ
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
-
第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
-
第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
-
第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
-
第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
-
第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
-
第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
-
第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
-
第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
-
第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
-
第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
-
第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
-
第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
-
第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
-
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
-
第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
-
第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
-
第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
-
第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
-
第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
-
第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
-
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
-
第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
-
第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
-
第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
-
第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
-
第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
-
第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
-
第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
-
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
-
第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
-
第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
-
第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
-
第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
-
第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
-
第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
-
第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
-
第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
-
第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
-
第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
-
第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
-
第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
-
第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
-
第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
-
第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
-
第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
2024.12.11
-
第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】
2024.12.18
-
第47回:チェストボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.25