【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】

2024.05.15

喉ちんこにハリを与えよう

 第11回では「声帯の開閉調整」、第12回では「喉仏の上下位置調整」、第13回第14回では「のどちんこの上下位置調整」をやりました。今回は「喉ちんこの位置」以上に重要な「喉ちんこの“ハリ”」を作る作業になります。これはボイトレ全般において最も重要なポイントとなります(‘ω’)ノ。


「声が張り付く」のは喉ちんこの準備不足

 歌っていると、以下のように声が“喉に張り付いた感じ”や”突っかかる感じ”を覚えることがあると思います。

  • 声が細く声量が出ない
  • 声質がカサカサと乾いた感じ
  • 特に裏声で出だしにつまづく
  • 特に裏声が喉(声道)に張り付く感じ
  • 声と一緒に喉(声道)も出ていくような感じ
    など。

 これらの症状は発声の準備不足によって起こります。その準備はどこでやるのか?という問いに対して、腹式呼吸という基礎的な答えが思い浮かびやすいですが、この場合は腹式呼吸を頑張っても何の解決にもなりません。発声の問題は“車の故障”くらい複雑であり、わからないまま乗っていると危険です。この場合の原因は「喉ちんこのハリの無さ」にあります。

テントの四隅をきちんと張るイメージで

 上記の症状を引き起こす要因として認識しておくべきなのが、声道せいどう(気道)が狭くなったまま発声している」という共通の状況です。これをキャンプに例えるなら“テントの四隅よすみをきちんと張っておらず、クシャクシャで中に入れない”ようなイメージです。まずは準備をしましょう。
 “テントを四隅から同じ力で引っ張り合う”と中に空間が作られ、テントは初めて使えるようになります。それだけでなく、テントにできたシワは四隅から引っ張り合う力が強いほど引き伸ばされ、“ハリ”が生まれますよね?……発声で言えばそれが“声のハリ”や“声のツヤ”を作ることになるのです。

発声で引っ張り合うのは「喉ちんこ」

 では発声においてその“テントの四隅”はどこになるのか?……というと、そのうちの2つは「喉ちんこ」、正確には軟口蓋なんこうがいにあります。(※注1:喉ちんこが付いている膜全体を「軟口蓋」をいい、それに垂れ下がっている喉ちんこの正式名称は「口蓋垂こうがいすい」です。実際に動かすのは軟口蓋ですがここでは「喉ちんこ」で説明を続けます。)

 ただ、喉ちんこが2つあるわけではなく、①「喉ちんこを上げること」と②「喉ちんこを下げること」で2つと思ってください。この「喉ちんこを上下方向に引っ張り合う」発声作業が「喉ちんこを“ハリ”のある状態」にし、その結果“声のハリ”“声のツヤ”を生むのです。(※注2:“声のツヤ”は「倍音ばいおん」と呼ばれる響きに現れます。)

 そして“テントの四隅”の残りの2つはどこかというと、③腹式呼吸を行う「腹筋ふっきん」と、④歌声の最終出口に存在する「各表情筋ひょうじょうきん」です。簡単に説明すると「お腹に力を入れて表情筋を豊かに使うと、テントが伸びるように声が伸びる」のでこれも併せて意識してみてください。

下げる、上げる、引っ張り合う

 第13回、第14回と、喉ちんこを”下げる“調整と”上げる“調整をしましたが、これらはあくまで「位置の調整」でした。実はそれ以上に重要になるのは「喉ちんこを”下げる力“と”上げる力“で引っ張り合うこと」です。単なる上下位置の調整だけでなく「喉ちんこを”上げようとする力の中で下げる“、”下げようとする力の中で上げる“」、この強度バランスがあってこそ、いろいろな症状の改善が見込めるのです。

=鼻にかける、鼻詰まりを作る、両方やる

 この作業をカジュアルに言い換えましょう。第13回でやった”喉ちんこを下げる“のは「鼻にかける」ことであり、第14回でやった”喉ちんこを上げる“のは「鼻詰まりを作る=鼻に溜める」ことになります。この両極端な作業を、2つ同時にやりながらバランスを取ります。時には”鼻にかけながら鼻に溜める“、時には”鼻に溜めつつ鼻にかける“、両方必要になります。”張った声“を出したいのか、”柔らかい声“を出したいのかによって、両方をやりながら喉ちんこの位置を調整できればOKです。

 例えば、綱引きをしているのに片方が引くのをやめてしまったら?……すっぽ抜けて後ろに転倒すると思いますが、発声でも同じことが起こります。片方だけではバランスが取れないのです。

両方やる=「喉ちんこの引き合い」

 この「喉ちんこの引き合い」ぜひ覚えて実行してみてください。発声の操縦桿そうじゅうかんは全部この作業にあると言ってしまって大げさではありません。声帯を直接いじろうとするから「喉声のどごえ」になるのです。声帯の代わりに働くべき器官が「喉ちんこ」です。もっと詳しい説明については追って筆者ブログ【完全版!】で公開したいと思います。

【重要!】「喉ちんこの引き合い」は発声全部に影響する

 この「喉ちんこの引き合い」ができるようになると、実にいろいろなことが改善・習得できます。冒頭に紹介した”声が喉に張り付く“症状だけに留まらず、声帯の開閉動作や呼気の調整が必要になる「ウィスパーボイス」、地声と裏声を混ぜて繋げる「ミックスボイス」、広がりのあるウェットな響きの「共鳴きょうめい」、”声のツヤ“になる煌びやかな響きの「倍音ばいおん」まで、改善・習得方法を説明しようとすると、全~~~部この「喉ちんこの引き合い」に解決の答えを見つけることになります。

喉ちんこの位置と強度バランス~発声状況と用語まとめ~

 ここまでで出てきた用語まとめと、先送りにしていた「トゥワングとネイザル」「閉鼻音と開鼻音」についても触れようとしましたが、また長くなってしまったため、これに関しては筆者ブログ【完全版!】でまとめます。整理整頓したい方はご確認ください(‘ω’)ノ。

【完全版!】記事:
【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?
【鼻 2/4part】「鼻に○○る」など発声用語まとめ
【鼻 3/4part】開鼻声と閉鼻声って何?治せる?
【鼻 4/4part】ネイザル、トゥワング、鼻腔共鳴(執筆中)


「喉ちんこの引き合い」トレーニング

 喉ちんこの引き合いの練習に関しても、第13の喉ちんこを”下げる“調整と、第14回の喉ちんこを”上げる“調整のトレーニングを理解してこなすことができれば、ほかに必要となるメニューはありません。
 強いて2つ言及するなら、例えば「danban(dangbang)」の発声練習には”鼻に溜める“発音も”鼻にかける“発音も含まれています。あとは作業順序のアプローチとして「鼻にかけてから鼻に溜める/ん~⇒あ~」と「鼻に溜めてから鼻にかける/あ~⇒ん~」の2パターンを試しながら練習すると、感覚がつかみやすくなります。
 今後例えば「倍音を生成するには?」というような課題のときには、”違った視点で「喉ちんこの引き合い」練習をする“ような場面が多くなります。そこには新しく必要な知識やコツが確かに存在しますので、またその時に説明します(‘ω’)ノ。 

 今回はいまだボイトレ界に浸透していないであろう、重要なメソッドの提唱がメインとなりました。ボイトレで良くある「……で、それはどうやればいいの?……」の答えを今後も言語化していきます。

次回予告

 次回第16回では、第10回「歌声が詰まる原因6つ」の最後、(6)「口腔内各所」で「子音が溜まり過ぎる」について解説します(‘ω’)ノ。まぁオマケのようなものです。

 

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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