【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
喉ちんこにハリを与えよう
第11回では「声帯の開閉調整」、第12回では「喉仏の上下位置調整」、第13回と第14回では「喉ちんこの上下位置調整」をやりました。今回は「喉ちんこの位置」以上に重要な「喉ちんこの“ハリ”」を作る作業になります。これはボイトレ全般において最も重要なポイントとなります(‘ω’)ノ。
「声が張り付く」のは喉ちんこの準備不足
歌っていると、以下のように声が“喉に張り付いた感じ”や”突っかかる感じ”を覚えることがあると思います。
- 声が細く声量が出ない
- 声質がカサカサと乾いた感じ
- 特に裏声で出だしにつまづく
- 特に裏声が喉(声道)に張り付く感じ
- 声と一緒に喉(声道)も出ていくような感じ
など。
これらの症状は発声の準備不足によって起こります。その準備はどこでやるのか?という問いに対して、腹式呼吸という基礎的な答えが思い浮かびやすいですが、この場合は腹式呼吸を頑張っても何の解決にもなりません。発声の問題は“車の故障”くらい複雑であり、わからないまま乗っていると危険です。この場合の原因は「喉ちんこのハリの無さ」にあります。
テントの四隅をきちんと張るイメージで
上記の症状を引き起こす要因として認識しておくべきなのが、「声道(気道)が狭くなったまま発声している」という共通の状況です。これをキャンプに例えるなら“テントの四隅をきちんと張っておらず、クシャクシャで中に入れない”ようなイメージです。まずは準備をしましょう。
“テントを四隅から同じ力で引っ張り合う”と中に空間が作られ、テントは初めて使えるようになります。それだけでなく、テントにできたシワは四隅から引っ張り合う力が強いほど引き伸ばされ、“ハリ”が生まれますよね?……発声で言えばそれが“声のハリ”や“声のツヤ”を作ることになるのです。
発声で引っ張り合うのは「喉ちんこ」
では発声においてその“テントの四隅”はどこになるのか?……というと、そのうちの2つは「喉ちんこ」、正確には「軟口蓋」にあります。(※注1:喉ちんこが付いている膜全体を「軟口蓋」をいい、それに垂れ下がっている喉ちんこの正式名称は「口蓋垂」です。実際に動かすのは軟口蓋ですがここでは「喉ちんこ」で説明を続けます。)
ただ、喉ちんこが2つあるわけではなく、①「喉ちんこを上げること」と②「喉ちんこを下げること」で2つと思ってください。この「喉ちんこを上下方向に引っ張り合う」発声作業が「喉ちんこを“ハリ”のある状態」にし、その結果“声のハリ”や“声のツヤ”を生むのです。(※注2:“声のツヤ”は「倍音」と呼ばれる響きに現れます。)
そして“テントの四隅”の残りの2つはどこかというと、③腹式呼吸を行う「腹筋」と、④歌声の最終出口に存在する「各表情筋」です。簡単に説明すると「お腹に力を入れて表情筋を豊かに使うと、テントが伸びるように声が伸びる」のでこれも併せて意識してみてください。
下げる、上げる、引っ張り合う
第13回、第14回と、喉ちんこを”下げる“調整と”上げる“調整をしましたが、これらはあくまで「位置の調整」でした。実はそれ以上に重要になるのは「喉ちんこを”下げる力“と”上げる力“で引っ張り合うこと」です。単なる上下位置の調整だけでなく「喉ちんこを”上げようとする力の中で下げる“、”下げようとする力の中で上げる“」、この強度バランスがあってこそ、いろいろな症状の改善が見込めるのです。
=鼻にかける、鼻詰まりを作る、両方やる
この作業をカジュアルに言い換えましょう。第13回でやった”喉ちんこを下げる“のは「鼻にかける」ことであり、第14回でやった”喉ちんこを上げる“のは「鼻詰まりを作る=鼻に溜める」ことになります。この両極端な作業を、2つ同時にやりながらバランスを取ります。時には”鼻にかけながら鼻に溜める“、時には”鼻に溜めつつ鼻にかける“、両方必要になります。”張った声“を出したいのか、”柔らかい声“を出したいのかによって、両方をやりながら喉ちんこの位置を調整できればOKです。
例えば、綱引きをしているのに片方が引くのをやめてしまったら?……すっぽ抜けて後ろに転倒すると思いますが、発声でも同じことが起こります。片方だけではバランスが取れないのです。
両方やる=「喉ちんこの引き合い」
この「喉ちんこの引き合い」ぜひ覚えて実行してみてください。発声の操縦桿は全部この作業にあると言ってしまって大げさではありません。声帯を直接いじろうとするから「喉声」になるのです。声帯の代わりに働くべき器官が「喉ちんこ」です。もっと詳しい説明については追って筆者ブログ【完全版!】で公開したいと思います。
【重要!】「喉ちんこの引き合い」は発声全部に影響する
この「喉ちんこの引き合い」ができるようになると、実にいろいろなことが改善・習得できます。冒頭に紹介した”声が喉に張り付く“症状だけに留まらず、声帯の開閉動作や呼気の調整が必要になる「ウィスパーボイス」、地声と裏声を混ぜて繋げる「ミックスボイス」、広がりのあるウェットな響きの「共鳴」、”声のツヤ“になる煌びやかな響きの「倍音」まで、改善・習得方法を説明しようとすると、全~~~部この「喉ちんこの引き合い」に解決の答えを見つけることになります。
喉ちんこの位置と強度バランス~発声状況と用語まとめ~
ここまでで出てきた用語まとめと、先送りにしていた「トゥワングとネイザル」「閉鼻音と開鼻音」についても触れようとしましたが、また長くなってしまったため、これに関しては筆者ブログ【完全版!】でまとめます。整理整頓したい方はご確認ください(‘ω’)ノ。
【完全版!】記事:
【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?
【鼻 2/4part】「鼻に○○る」など発声用語まとめ
【鼻 3/4part】開鼻声と閉鼻声って何?治せる?
【鼻 4/4part】ネイザル、トゥワング、鼻腔共鳴(執筆中)
「喉ちんこの引き合い」トレーニング
「喉ちんこの引き合い」の練習に関しても、第13回の喉ちんこを”下げる“調整と、第14回の喉ちんこを”上げる“調整のトレーニングを理解してこなすことができれば、ほかに必要となるメニューはありません。
強いて2つ言及するなら、例えば「danban(dangbang)」の発声練習には”鼻に溜める“発音も”鼻にかける“発音も含まれています。あとは作業順序のアプローチとして「鼻にかけてから鼻に溜める/ん~⇒あ~」と「鼻に溜めてから鼻にかける/あ~⇒ん~」の2パターンを試しながら練習すると、感覚がつかみやすくなります。
今後例えば「倍音を生成するには?」というような課題のときには、”違った視点で「喉ちんこの引き合い」練習をする“ような場面が多くなります。そこには新しく必要な知識やコツが確かに存在しますので、またその時に説明します(‘ω’)ノ。
今回はいまだボイトレ界に浸透していないであろう、重要なメソッドの提唱がメインとなりました。ボイトレで良くある「……で、それはどうやればいいの?……」の答えを今後も言語化していきます。
次回予告
次回第16回では、第10回「歌声が詰まる原因6つ」の最後、(6)「口腔内各所」で「子音が溜まり過ぎる」について解説します(‘ω’)ノ。まぁオマケのようなものです。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
-
第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
-
第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
-
第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
-
第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
-
第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
-
第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
-
第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
-
第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
-
第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
-
第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
-
第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
-
第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
-
第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
-
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
-
第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
-
第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
-
第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
-
第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
-
第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
-
第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
-
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
-
第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
-
第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
-
第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
-
第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
-
第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
-
第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
-
第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
-
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
-
第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
-
第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
-
第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
-
第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
-
第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
-
第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
-
第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
-
第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
-
第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
-
第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
-
第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
-
第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
-
第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
-
第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
-
第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
-
第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
2024.12.11