【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選

2024.05.29

弱い声は総じて“抜けている”

 tOmozoです。今回から“弱い声”を力強く鍛えるボイトレメニューを紹介していきます(‘ω’)ノ。今回から扱う“歌声が抜ける”症状は、第10回~第16回にて扱った“歌声が詰まる”症状とは正反対の状況になります。言わば“詰まる”は声が多くて余っている状態で、“抜ける”は声が少なくて足りない状態と言えます。前者に必要なのは引き算である「脱力」で、後者には足し算である「増力」が求められます。でも、発声に必要な筋力を鍛えただけでは増力はできないのがミソです。


 例えば自転車を力強く漕いだとしても、チェーンが外れていたらカラカラと空回りを起こして前に進めませんよね。発声作業においても、体のどこかで声を留めようとするような抵抗を作らないと、声が完成しないまま外に放出されてしまう”抜ける“状態に陥ってしまいます。このように声を力強く作れない状況は、共通して”抜けている“と言うことができます。

 この記事では、

①発声に使う筋力UPの方法

②”抜けない“声を作るコツ

③声量UPの方法

……を簡単に一覧にして紹介します。身体のどこで”抜けて“、何を”足す“べきのか、1つずつ確認してご自身の状況と照らし合わせてみてください。それぞれの詳しい解説は次回以降に続けていきます(‘ω’)ノ。


声が抜ける発声改善トレーニング一覧

(1)声帯を閉じる筋力UP

 まず最初に紹介するのは、発声において最終的にコントロールしなければならない「声門閉鎖せいもんへいさ」です。声帯せいたいを強く合わせることができれば強い発声ができます。この場合においての”抜ける“とは、声帯で多くの”呼気こきが抜ける“状況です。息が不必要に漏れないように声帯の開閉コントロールの練習をします。「ウ”ッ!」はかなり強い閉鎖になります。

(1)声帯を閉じる筋力UP
(1)声帯を閉じる筋力UP

 でも気を付けてほしいのは「声帯をダイレクトにいじる作業はいわゆる喉声のどごえになるリスクを上げる」ということです。なので「発声作業はまず”声帯以外に“頑張ってもらう」のが原則になります。ということで(2)以降のメニューを見てみましょう。

(2)お腹に力を入れる

 ボイトレでは「腹圧ふくあつ」と言いますが、お腹に力を入れれば声門閉鎖を強くする手助けができます。発声を下から支えるような作業になります。”お腹“と言っても4か所に分けてコントロールすると細かい調整ができますよ。

(2)お腹に力を入れる
(2)お腹に力を入れる

(3)こめかみを上げる

 こめかみを上げる作業は発声を上から吊り上げるような作業になり、高い音の処理、”声のツヤ“を出す作業(倍音ばいおん生成)を手助けしてくれます。

(3)こめかみを上げる
(3)こめかみを上げる

(4)鼻にかける

 今までの連載でしつこく扱ってきた作業です。今回は声の芯を練り込むような作業をするのが目的なので、強い声門閉鎖を用意しながら”鼻にかける“をします。このとき、息を伴った”鼻に通す“はしないようにしてください。これは鼻から”声が抜ける“ことそのものだからです。

(4)鼻にかける
(4)鼻にかける

(5)鼻にためる

 これは特に、広がりのあるウェットな響きである「共鳴きょうめい」を作るときに、口や鼻から”声・息が抜ける“のを防ぐ作業になります。自転車の例で触れた「抵抗」は、この動作に多く含まれていると言っていいでしょう。

(5)鼻にためる
(5)鼻にためる

(6)喉ちんこの引き合い

 『これが発声において一番重要である』とお伝えしてきたように、実は(1)の声門閉鎖の代わりに頑張るべき動作がこの「喉ちんこの引き合い」になります。声帯自体を直接いじらずに”声の芯“”声のハリ“”声のツヤ“”声のバネ感“を作ることができます。

(6)喉ちんこの引き合い
(6)喉ちんこの引き合い

(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める

 声の出口となる、顎・舌・唇を含めた表情筋を適切に使えると、”迷いのない“”通りの良い“発声になります。特に「か/k行」「た/t行」「ぱ/p行」のように、遮断・圧縮をしてから発音する子音は、溜めれば溜めるほど強く破裂させることができます。”声が足りない“のなら”声が溜まってから出せば良い“のです。また唇をすぼめたりする作業も有効ですが、これらは”声を集める“作業と言えます。

(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める
(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める

(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP

 腹式呼吸をする目的は「息のコントロール」だけではありません。腹圧も用意する意図があります。

(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP
(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP

 基本的なことであろう腹式呼吸ふくしきこきゅうを最後に書いたのは、「多くの息を扱えるようになっても、(1)~(7)の作業が不完全だと息が”抜ける“だけになる可能性がある」からです。

 お風呂場にお湯を溜めても、栓が閉まっていなければお湯はどんどん流れていきますよね。この栓を閉めるのが(1)~(7)であり、これらは「発声のバランス」や「声色こわいろ」を整える作業です。これらが整った状態で腹式呼吸を施すと、良いバランスのまま「声量せいりょう」を上げることができます。

(9)大胆に発声作業をする

 オマケですが、“声が足りない人”のほとんどが、“内気で控えめ”な性格の持ち主です。こういった方は実際のレッスンでも、調整作業に必要な強さの7割までしか力を入れられなかったりします。発声における「脱力」作業は、その原因をしっかり特定して適切に対処する必要があります。でも今回からの「増力」作業は、“何か問題が発生するまでは”積極的に足し続けてOKです。これに心当たりのある方は、“思いっきり”行動して大丈夫ですよ( `ー´)ノ。


次回予告

 今回は以上です。次回からはこれらについて詳しく説明していきます(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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