【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】

2024.05.1

喉ちんこの上がり過ぎを治そう

 第12回では歌声が詰まる原因6つのうち、2つ目の「のど上げ声」を紹介しました。今回は3つ目として「のどちんこ」が「上がり過ぎ」=「息・鼻が詰まる」を扱います。最後のトレーニングまでお付き合いください(‘ω’)ノ。


「息・鼻が詰まる感覚」の原因は喉ちんこ?

 歌っていて次のような症状はありませんか?

①「ま/m行」「な/n行」「が/ng行」が発音しづらい
②どんな発声・発音でも詰まりやすい、突っかかる
③特に地声では硬くて大きい声しか出せない
④音色が深い声にはなっているが、分厚く、重たい

 これらの症状がある人は、”喉ちんこの上げ過ぎ“が原因の1つとなっている可能性があります。これらの症状は総じて「息・鼻が詰まる感覚」を覚えやすいです。まず、この「息・鼻が詰まる感覚」や上記4つの症状がどういう原理で起こっているのか、この点を整理したい方は、筆者ブログ【完全版!】のほうで、以下に紹介したトピックも合わせて徹底解説していますので、まずそちらをご覧ください。

・“実際に鼻が詰まっている”のと“鼻が詰まった感じがする”のは違う
・共通するのは“空気が通りづらい”という点
・“鼻腔への扉”が「喉ちんこ」
・”喉ちんこ上げ“発声にはメリットもデメリットもある
・上記①~④の症状についての解説

【完全版!記事】「息・鼻が詰まる感覚」を徹底理解したい人向けのお話。

解決策は「喉ちんこを下げる+α」

 解決策のメインは「喉ちんこが上がっているのなら下げれば良いじゃない」なのですが、個人の症状によってはそれだけでは治らない場合があります。その+αの部分は個人で対面レッスンをしないと特定できないことですので、今回は誰にでも共通する「喉ちんこを下げる」部分を扱います。それでは仕組みの理解と一緒にトレーニングメニューを進めていきましょう(‘ω’)ノ。 


喉ちんこを下げるトレーニング

”喉ちんこをどれくらい下げるか“=”喉ちんこをどれくらい上げるか“

 今回は喉ちんこを下げることに特化したトレーニングを紹介しますが、裏を返せば”上げる“練習にもなりますので、次回第14回の”喉ちんこを上げる“トレーニングにもつながる内容になります。

……

(1)まず「鼻音」3つを理解する

 「ま/m行」「な/n行」「んが/ng行」はいわゆる”鼻にかかる・鼻に抜ける”発音です。まずもって鼻音びおんが何なのか、どういう仕組みなのか、これについて知識を得たい方は、筆者ブログ【完全版!】のほうで、徹底解説していますので、まずそちらをご覧ください。

【完全版!記事】【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?

それぞれ一つずつ発音しながら確認していきましょう。

①「えむハミング」
 口を閉じた状態でハミング。ここから母音ぼいん「あ~」に繋げると「ま/m行」の発音になります。

②「えぬハミング」
 口は開け、舌先を上の歯に当てた状態でハミング。ここから「あ~」に繋げると「な/n行」の発音になります。

③「ngえぬじーハミング」
 口は開け、舌奥と喉ちんこをくっ付けた状態でハミング。「あんこ」の”ん“で止めるとこの状態になります。ここから「あ~」に繋げると「んが/ng行」の発音になります。
 この「ng」が”喉ちんこ下げ“を練習するのに一番適しています。「ng~が~」の発音を口を開けたまま繰り返してみてください。口の中で舌と喉ちんこがくっ付いたり離れたりしているのが分かりますか?「ng~が~」を発音するだけで、”喉ちんこの上げ下げ“が練習できるのです。

……

(2)母音の発声で喉ちんこを下ろすのが大事

 「んが/nga」は鼻濁音びだくおんと呼ばれ、確かに喉ちんこが下りている状態になりますが、これは子音の状態を表す言葉です。今回大事になるのは「母音の発声をしているときに喉ちんこが下がること」です。子音で鼻濁音を作れても、その後の伸ばした母音の発声で喉ちんこが下り気味になっていないと意味がありません。つまり鼻母音びぼいんを作る必要があるのです。喉ちんこの下り具合を段階を追って練習していきましょう。

①完全な「ngハミング」
 まずは口を開けて完全な鼻音の「ng~」を作ります。以下に出てくる「ん~」はすべてこの「ng」で発音してください。

②少し「あ/a」を足す
 つまり、喉ちんこを少し上げて「ん:あ」が「9:1」になるように発声します。若干「あ」に聴こえる程度です。柔らかく角が立たないように「ん~んあ~」と発音します。喉ちんこと舌が「パチッ」と離れないように「ヌメッ」と離す練習です。

③ハッキリした「んが/nga」で
 ②を際立たせるために、あえて明瞭な「ん~がー!」で発音してみます。喉ちんこと舌が離れる時の音をあえて作ります。「ん:あ」を「0:10」→「10:0」にする要領です。区別を付けるために②に戻って極力なめらかに発声する練習を強化しましょう。

④各母音をなめらかに
 ②のバランスで各母音を練習します。一番柔らかく繋げやすいのは「お/o」です。そして深めの声で練習すると音の角が立ちづらくなります。

⑤「あ」から「ん」へ
 今度は逆方向からの練習です。まずクリアな発声になるように「あ~」と発音したら、そこからだんだん完全な「ん~/ng」に寄せていきます。徐々に喉ちんこを下ろします。口の開き具合は変えないでください。各母音でも練習しましょう。

⑥「あ」から「ぁん」へ
 ⑤の練習と同じやり方ですが、喉ちんこは完全に下ろさずに「ん:あ」の比率が「5:5」くらいで留まるようにやってみます。下の⑦も合わせて、これが「鼻母音」であり、実際の歌唱中に必要な作業の感覚になります。

⑦「んぁ」「ぁん」で
 初めから「ん:あ」の比率が「5:5」になるように発声してみましょう。極力このバランスをキープします。「ん~」に傾いやすい人は「んぁ」で、「あ~」に傾きやすい人は「ぁん」の意識でやってみてください。

⑧「あっ!」”喉ちんこが上がった“声を確認
 ここであえて、反対の声を確認しましょう。喉ちんこを極力上げる努力をしつつ(こめかみを上げる、dabadabaなど)「あっ!、あっ!」と発声します。

⑨各子音をくっ付けて「鼻母音」練習
 「か(ん)あ/k(ng)a」のように、各子音を発音したあとの母音が鼻母音になるように練習します。

 以上、このように喉ちんこの“位置”を調整するエクサイズを紹介しましたが、実は最終的に大事になるのは位置でなく、「喉ちんこを上げる力と下げる力の強度バランス」です。これについては次回第14回にて触れたいと思います。

……

(3)歌唱中の意識のコツ4つ

 歌唱中にこの鼻母音を作れるようにするためのアイテムを紹介して終わります。

①歌詞の間に「ん/ng」を挟めて歌う
 「(ng)お(ng)は(ng)よ(ng)う(ng)~♪」最終的には発音が露骨にならないように練習します。

②「ん」と小さくハミングを入れてから各音を歌い始める
 歌詞によっては「m」「n」「ng」それぞれを使い分けた方がいいでしょう。この場合は「ng」じゃなくても十分効果があります。

③母音を歌うときは脳内で「ん/ng」を念じる
 発音は歌詞の通りにしっかり出しますが、伸ばしているときには頭の中で「ん/ng」を念じながら歌ってみてください。

④声を“鼻に当てる”作業
 歌いながら、小鼻のあたりに声を”押し込む“、”押し当てる“ような意識も有効です。

試してみてください(‘ω’)ノ。


次回予告

 次回第14回では、第10回「歌声が詰まる原因6つ」の4つ目で紹介した(4)「喉ちんこ」が「下がり過ぎ」=「鼻にかかる」について解説していきます(‘ω’)ノ。

今日の終わりに

 実は今日紹介した”喉ちんこを下げる“作業は、言い換えれば「鼻にかける」作業に他なりません。次回は「鼻にかかる」ことで問題となる発声の症状について扱います。発声はまさに表裏一体のバランスで出来上がっています。次回はこれらにまつわる、「トゥワングとネイザル」「閉鼻音と開鼻音」についても解説します。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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