【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第50回:諸悪の根源”悪い地声“の種類と対処法まとめ~ミックスボイスへ~

2025.01.22

“悪い地声”を撲滅してミックスボイスへ

 tOmozoです。「声区シリーズ」も佳境に入ります。今回は筆者が”悪い地声“とも呼んでいる「喉詰のどづめ声」や「張り上げ声」などの原因と対処法をまとめ、換声点かんせいてん付近のチェストボイス発声においてよく見られる「声の裏返り」との関連性についても触れます。その解決策にはミックスボイスへの足掛かりが含まれていますのでお見逃しなく(‘ω’)ノ。

【声区融合:各成分まとめ】
【声区融合:各成分まとめ】


”悪い地声“の対処法

 今回のメニューは以下になります。前回同様、あくまで“力強いアクティブな状態をキープしたまま”での対処法を紹介します。

(1)喉詰め声
(2)張り上げ声
(3)深いけど硬い声
(4)声の裏返り

 問題と対処法を明確化するために、声門閉鎖圧は「声帯位置」「声帯張度(強度)」に、呼気圧は「呼気量」「呼気速度」に細分します。これに関する記事は以下をご参照ください。

関連記事:
第36回:声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを! 
第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!

 ご自身の状況と照らし合わせてケーススタディをしつつ対処していきましょう。

(1)喉詰め声/喉締め声

 声帯が閉じ過ぎることで起こる「喉詰のどづめ声/喉締のどじめ声」は”声が詰まる“感覚になります。喉仏が上がり過ぎる「喉上げ声」も併発することが多いです。喉仏が上がっていないと出せない音色もあるのでそれ自体は悪いことではありませんが、“聴き苦しい”音色になると感じる人が多く、解決策も重なる部分があるのでまとめます。

①喉詰め声 ②喉詰め+喉上げ声
声帯位置閉じ過ぎ一番の要因となる
声帯張度強いハリが強いこと自体は悪くない
呼気量少なめ少ないことで声帯が寄る側面も
呼気速度速めもし遅いならヘッド寄りになる
【喉詰め声の材料バランス】

喉詰め声の解決策2つ

 「喉詰め声」の対処法の1つは、歌声成分の中にウィスパーの感覚を10%ほど確保することです。前回紹介した「鎖骨さこつ上のせり出し」にこの感覚が含まれます。この時、声帯の開き過ぎによって希薄なウィスパーボイスにならないように、”声帯で摩擦を起こす“感覚は失わないようにします。

①ウィスパーへの推移調整 ②10%ほどウィスパーを追加 

 対処法の2つめは「声道確保を広く図る」ことです。これも「鎖骨上のせり出し」に含まれていて、喉仏のどぼとけ喉頭こうとう)が自然に下がることを期待しています。「喉上げ声」の解決策にもなりますが、声道確保により過剰閉鎖も少し緩んでくれる傾向が見られます。
 過度な「喉仏下げ」は発声の重心を下げかねないので、発声のベクトルは下方よりも前方にイメージしたり、微調整をしてみてください。“首を太くする”イメージも有効です。

①深めの音色への推移調整 ②深め(喉頭位置は70%ほど)に調整

……

(2)張り上げ声

 “声がかれる““むせる”“せき込む“症状は、「張り上げ声」によって誘発されるものです。

①適性バランス:ソフト ②適性バランス:ハード ③張り上げ発声例

 「張り上げ声」は声帯を痛めてしまうため、最も避けなければならないトラブルです。大きな原因は激しい呼気圧であり、声帯はその呼気を抑え込もうとして更に強く閉じる作用が働くため、果てしない悪循環に陥ります。

声帯位置閉じ過ぎ呼気圧に抵抗して声帯が閉じる
声帯張度強い声帯周辺に力みが掛かると悪
呼気量多い過剰な呼気は声帯の下に溜まる
呼気速度速すぎ声帯が耐えられない速度
【喉詰め声のバランス】

張り上げ声の解決策4つ

 解決策の1つは、当然「呼気圧を下げること」です。呼気圧を下げれば無意識な過剰閉鎖は自然と収まります。呼気圧を下げる方法に関しては第37回でも紹介していますが、このうちアクティブなままそれを可能にするのは「吸気きゅうき発声」です。吸気発声に関しては「エッジボイス」の解説の際に詳しく触れます。

①吸気発声で素材作り ②吸気の感覚でエッジボイス

 解決策の2つめは、「歌声の成分を口腔内に収めようとして歌う」というものです。張り上げ声は発声のベクトルが特に前方に傾きます。エネルギーの総量を抑えなくても“口から漏れないように/溢れないように歌う”だけで、過剰な呼気圧も自然と収まることがあります。

 解決策の3つめは、前々回解説した「発声の重心上げ」を含めた”2段弁当の上段”作りがある程度できていることです。共鳴きょうめい倍音ばいおんやウィスパー成分で声を埋めてしまえば、”悪い地声”の入る余地が無くなる、という発想です。ここで今一度振り返ってみてくださいね。

 解決策の4つめは、(3)(4)のトラブルの解決策として重要になる「鼻音」です。

……

(3)深いけど硬い声

 ”クリアでパワフルで深い”発声が正義だと信じ、それを目指していると「硬くて大きい声しか出せない」「換声点付近で上手く処理できない」状況に高確率で陥ります。

①最高音ソの部分のように「ビビリ」が入りやすくなる

 これは”良い声”を出そうとして「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」を上げることしかやっていないのが原因です。

(4)声の裏返り

 換声点付近で「声が裏返る」症状は良く見られるものですが、この連載ではほぼ初めて取り上げます。

①裏返りの例

 これは言い換えれば「地声で出したいのに意図せず裏声になる」ということですので、「地声成分が不足している」状況です。では何を足せばいいのか……? これまで地声成分として紹介してきた「倍音」もその1つですが、それだけではまとまりません。

 ズバリ、これら(3)(4)の直接の対処法になるのが、喉ちんこを下げることで作る「鼻音」の感覚です。今まで長らくもったいぶってきましたが、これが”悪い地声”の強力な解決策であり、ミックスボイス習得への突破口になってくれます!

①鼻音を意識した発声:ドライに ②鼻音を意識した発声:ウェットに

 往々にして(1)(2)(3)の症状は、(4)声の裏返りを打破するために、”悪い地声”の成分でもって発声を補強してしまった結果であることが多いです。鼻音生成が習得できると、そもそも(1)(2)の原因となる各アイテムの暴発自体が起こりづらいという側面もあります。


次回予告

 ということで次回は、換声点の突破を目標にした「鼻音生成」についてお届けしたいと思います(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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