【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】

2024.04.10

“どこで何がどう”詰まってる?

 tOmozoです。第10回の今回からボイトレに突入していきます。今日の議題は「声(歌声)が詰まる」です。詰まると一言で言っても“どこで、何が、どんな状況で詰まってる?”の問題を含んでいますので、結構複雑になりやすい症状です。この記事では、“声が詰まる”に似ている感覚も含めて、6パターンの症状の簡単な説明と、その解決策のヒントを出していきます(‘ω’)ノ。


まず“ノド”は禁句!のお話

 さて、以下が声が詰まる6つのパターンなのですが、これで正確に理解できた方はいますか?

マズイ捉え方での“声が詰まる”

(1)「ノド」が「閉じ過ぎる」
(2)「ノド」が「上がり過ぎる」
(3)「ノド」が「上がり過ぎる」
(4)「ノド」が「下がり過ぎる」
(5)「ノド」の「張りが無さ過ぎる」
(6)「ノドのどこか」で「子音が溜まり過ぎる」

 ……まず(2)と(3)は同じに見えますが、実際には同じ症状ではありません。これは“ノド”という言葉を使ってしまうから同じに見えるのです。そしてこの問題の本質は(6)に現れています。

“(6)「ノドのどこか」”……って、どこやねん!!

 ……ということです。皆さんが普段良く使うノドという言葉ですが、ボイトレをする上では絶対に使ってはいけません。ノドと呼ばれる器官は実際にいくつかあるからです。

「ノド」のどこだろう?

 ノドと言ってしまった時点で、その中のどこの器官なのかを特定しないでボイトレを進めることになります。それがどんなにいい加減なことか!……については、筆者が運営するブログ「完全版!」の記事で説明していますので以下をご覧ください。

【完全版!記事】悪魔の言葉「喉/ノド」


 それでは本題に入っていきましょう。先程のいい加減な捉え方を正して、声が詰まるパターンを洗い出していきます。そうするといろいろな器官で大きく6つの症状が考えられます。

「声が詰まる」が起こる箇所と状況6つ

(1)「ノド」が「閉じ過ぎる」→声帯」の「閉じ過ぎ」
(2)「ノド」が「上がり過ぎる」→「喉仏」の「上がり過ぎ」
(3)「ノド」が「上がり過ぎる」→「喉ちんこ」が「上がり過ぎ」
(4)「ノド」が「下がり過ぎる」→「喉ちんこ」が「下がり過ぎ」
(5)「ノド」の「張りが無さ過ぎる」→「喉ちんこ」の「張りが無さ過ぎ」
(6)「ノドのどこか」で「子音が溜まり過ぎる」→口腔こうくう内各所」で「子音が溜まり過ぎ」
 ①「舌と喉ちんこ」で「k/g」の子音が
 ②「舌と上の歯の裏」で「t/d」の子音が
 ③「上下の唇」で「p/b」の子音が

 洗い出した結果、ここでは“ノド”と呼ばれる器官は、「声帯」「喉仏」「喉ちんこ」の3つが出てきました。以上の状況をひとつずつ簡単に解説していきます(‘ω’)ノ。それぞれご自身の状況と照らし合わせてみてください。人によっては複数の症状が当てはまると思います。


(1)「声帯」の「閉じ過ぎ」=「ノド詰め声」

 まずは下図を参考に声帯の場所を確認しましょう。声帯の閉じ過ぎはよく見られる基本的な症状で“ノドごえと呼ばれます。声帯を閉じることを“声門閉鎖せいもんへいさと言いますが、閉鎖が強すぎる状態です。

 声門閉鎖が強過ぎた状態では「ア”ッ!」とか「ウ”ッ!」と苦しそうな声になります。声帯の下に声をせき止めてしまっている状態です。声帯を閉じ過ぎないようにするには、いわゆるウィスパーボイスで呼気を混ぜる必要があります。


(2)「喉仏」の「上がり過ぎ」=「ノド上げ声」

 (1)のノド締め声とセットになると余計詰まった感じと認識される症状です。筆者は“ノド上げ声”と呼んでいます(喉仏が上がっている状況だけでは必ずしも悪とはなりませんが)。喉仏の正式名称は喉頭こうとう軟骨なんこつで、声帯が入っているケースのようなものです。

 喉仏を下げれば「深い/暗い声」に、上げれば「浅い/明るい声」になりますが、「ノド上げ声+ノド締め声」はいわゆる「キンキン声」になります。喉仏を下げるヒントは、深呼吸キープ、顎を縦に開く、唇を伸ばす、舌先を少し巻く、などです。


(3)「喉ちんこ」が「上がり過ぎ」=「息・鼻が詰まる」

 喉ちんこの正式名称は“軟口蓋なんこうがい (口蓋垂 こうがいすい”と言います。根本的には上がっていないと声が響かないので、上げようとするのが基本ですが、上げ過ぎると息の流れが止まりやすくなり、問題も起こりやすくなります。“息が詰まる”とか“鼻が詰まる”ような状況が生まれます。

 喉ちんこの挙上きょじょうと緊張により声帯に張りが生まれるので、勢い良く「パーンっ!」と張った声を出したいなら有効ですが、その反面柔らかい音は出しづらくなります。普段から響き(共鳴)が溜まらない人や息が漏れてしまう人にとっては改善アイテムですが、鼻が詰まったような発声やブツ切りな歌い方など、息の流れが必要な人にとってはデメリットです。喉ちんこを少し下げるには鼻音を足すのが解決策となります。


(4)「喉ちんこ」が「下がり過ぎ」=「鼻にかかる」

 (3)が“鼻が詰まる”のに対して、こちらは“鼻にかかる”状況になります。もこもこ、もさもさした発声になりますが、(3)の解決策にもなるので完全悪ではありません。イラストの状態の場合、完全な鼻音の状態で「んー」に聴こえますが、そこから開いていくと「んーがぁー」と鼻濁音になります。

 母音の発声を明瞭にしたければ(3)のように喉ちんこを上げましょう。まずはこめかみを上げることが動作のきっかけになります。


(5)「喉ちんこ」の「張りが無さ過ぎ」=「声が引っかかる」

 (3)と(4)は喉ちんこの位置の問題ですが、実は位置以上に大事なのが“張りとその強度バランス”です。つまり、喉ちんこを下げようとする力の中で上げる、上げようとする力の中で下げる、ということです。この張りこそが発声準備であり、これが無いと「声が引っかかる/突っかかる」感覚になりやすくなります。また、強度バランスが傾いていると各所で発声が崩れる症状が出ます。『発声の操縦桿そうじゅうかんは声帯ではなく“喉ちんこ”にある』これが筆者の握る最大の秘密です。


(6)「口腔内各所」で「子音が溜まり過ぎる」

 「k/g」「t/d」「p/b」の子音は、一度息を遮断、圧縮してから破裂させるので、声が詰まる状況を総合的に誘発しやすくなります。「かっぱ/kappa」などの「っ」は声門閉鎖を強くしやすく、ブツ切りの歌い方になりやすいのです。

 これらの子音は長く発音して瞬間的な破裂を分散させると良いでしょう。また後続の母音を意図的に呼気混じりのウィスパーボイスで準備しておくことで、破裂後の発声を自然と脱力させられます。


次回以降この6つを詳しく解説!

 はい、第10回は以上となります。今回は声が詰まる6つの症状を簡単に紹介しましたが、それぞれの症状を改善させるための詳しい解説はまだまだできていません。次回以降はそれぞれを深堀りした記事を数回に渡って公開していき、それが終わったら次の議題「声が抜ける」についてお届けしていきます(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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