【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
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共鳴と息漏らし声との関係
tOmozoです。声の2つの響き=「共鳴」と「倍音」シリーズをお届けしています。今回は共鳴についての最後、5回目になります。今回は「ファルセット」や「ウィスパーボイス」について、「共鳴の響き」との関係性を解説します(‘ω’)ノ。
ファルセットとウィスパーボイスとは?
「ファルセット」とはヘッドボイスと共に裏声に分類される発声で、「ウィスパーボイス」とはファルセットの地声版と言える発声になります。
両者に共通するのは“息漏れが多い/吐息成分が多い”ということで、これは裏返すと両者ともに“声門閉鎖が弱め/声帯が開き気味”ということです。
息が“意図せず漏れた”発声をこのように呼ぶ側面もありますが、音色作りのためには“積極的に息を漏らす”発声だと捉えていてください。“息漏れ声”ではなく“息漏らし声”です。
吐息成分の多い発声は“優しい”“儚い”“サラッとした”印象を作ってくれます。
息漏らし声には共鳴が必要になる
結論から言うと、今回のテーマである「共鳴」の響きは、息漏らし声である「ファルセット」と「ウィスパーボイス」の発声時にも重要な役割を果たします。
息を多く漏らすと発声バランスは崩れる
一般論として、発声は“集めて溜まってから出す”のが原則です。息を積極的に漏らそうとすると、”溜める“と”漏らす“が正反対の性格を持つために、この原則がおろそかになって息を上手く漏らすことができないケースが多く見られます。ほとんどの場合は以下の2つの症状が現れます。
①吐息成分がダダ漏れになる
②声が気道/声道に張り付く感覚になる
それぞれの解決策を見ていきましょう(‘ω’)ノ。
(1)吐息成分のダダ漏れに「共鳴」
吐息成分が不必要に多く漏れてしまう原因は、“声を溜める”“声を集める”作業が不完全だからです。この症状の時は、気道/声道はしっかり広がっている状態です。広がっているからこそ、しっかりと留めようとしなければ息や声は簡単に流出してしまいます。
そんな時に「共鳴」です。共鳴は響きを充満させることで完成します。充満の作業は“溜める”“集める”ことそのものですので、共鳴を作りながら息漏らし発声をすることでバランスは取りやすくなります。
この症状の解決策は、共鳴作りの2つの条件のうち「共鳴腔の充満」そのものです。
(2)息や声の張り付きに「共鳴」
声が気道/声道に張り付く感覚になる症状の原因は(1)の逆で、気道/声道が狭くなっているために起こります。通り道が狭ければその壁面に息や声が突っかかってしまい、それが張り付いたような感覚を引き起こします。
そんな時に「共鳴」です。深い共鳴のためには響かせるための空間=「共鳴腔」を広く作ればいいのですが、これは気道/声道を広げるということとほぼ同じです。深い共鳴を作ることができれば“声の張り付き”は自然と収まります。
この症状の解決策は、共鳴作りの2つの条件のうち「共鳴腔の拡大」そのものです。
息漏らし声にセットで必要になるのは共鳴
ということで、上記のように「ファルセット」と「ウィスパーボイス」の発声時にバランスを取ってくれる発声アイテムの1つが「共鳴の響き」です。つまりは共鳴を特徴としているのは「ヘッドボイス」なので、ファルセットの前にヘッドボイスの習得をした方が良い、とも言えます。
共鳴はあくまで解決策の1つであり、他には以下のようなコツが関わってきます。
息漏らし声に必要になる他のコツ
・声門閉鎖の強さと、声帯の開閉位置
・ウィスパーボイスの反対はエッジボイス
・吐息成分を2つの抵抗で挟む作業
・吐息成分は温めると馴染みやすい
これらについての詳しい解説は「ファルセット」と「ウィスパーボイス」をメインで扱う時にしたいと思います(‘ω’)ノ。
次回予告
ここまで「共鳴」に関する解説を6回に渡ってしてきました。
第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
第32回:「共鳴」の響きにはファルセットやウィスパーボイス作りにも必要!(今回)
声の2つの響き=「共鳴」と「倍音」シリーズは、次回から「倍音」に突入していきます(‘ω’)ノ。ボイトレの中でも音声学が深く関わるために、より専門的な分野に感じられると思います。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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