【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~

2024.02.21

第2回の要点・結論

・歌は感覚だけでも歌えないことはない。
・「天才」でなければ「秀才」を目指そう。
・天才以外には理論・感覚、どちらも必要。
・「理論と感覚のリンク」が再現性を上げる。
・「いい加減な感覚」は「理論」が矯正してくれる。

 tOmozoです。前回は以上のことについてお話ししました。第3回では「理論vs感覚、どちらが大事なのか」のテーマのもと「感覚は理論を飛び越える」ことについて続けていきます。


=基礎が気にならなくなるとき

 第2回の最後では『例えば歌詞が「悲しいよ~辛いよ~」で、これを実直に表現するならば、音程は低めに歌ったほうが「悲しく辛そうに」それらしく聴こえる場合がある。(※1)』とお伝えしました。この「極論、音程はズレていてもOK」を補足する例として、『例えばライブで歌唱中に、お客さんを煽るために歌詞の部分を「歌わずに叫ぶ」演出がある』ことを紹介しましたが、まずはこれについて詳しく続けていきます。

「基礎」より「表現」のほうが上

 ライブ中のこの場面を想像してみてください。「愛してるのは~♪(歌)……お前らだぜぇ~!!(叫ぶ)」みたいなことです。この瞬間、発せられた音程は本来のメロディより、おそらくだいぶ高いわけですけど、それを聴いて「え、音程高くない?」と思う人はいないはずです。大体の人はこれが演出であることを理解できるからです。こんな情熱的な場面なのに理論的な側面を気にしてしまったら、音楽本来の楽しみ方とは言えないでしょう。雰囲気が出ていてこれに感動できる人がいるならば、結果として正しい音程からズレていても問題ない、むしろそのほうが良い感じじゃない?という考え方がこれです。音楽は音程やリズムのズレを気にして聴くものではなく、「基礎」の上にある「表現」を楽しむものです。「表現」とは簡単に言えば「どう歌うのか」です。「どんな雰囲気で歌うのか/どんな歌い方をするのか」、その表情を楽しむのが音楽です。

 このように、①基礎である音程、リズム、発声の練習段階では、感覚は理論に矯正してもらう立場だったものが、②表現の世界に入ってくると、感覚が理論の存在を上回るようになります。これが「感覚が理論の存在を越えるとき」です。言い換えると「感動が先立って基礎や理論が気にならなくなる状態」と言えます。「感動」は心が感じるものだから「感覚的なもの」です。(理論的な美しさだって最後は感覚で感じるものだと思います。)だから第2回の「理論vs感覚」の問いに対しては、「理論よりは感覚のほうが大事」と答えを出すことができます。ただし、これは「最終的には!」の条件が付きます。

(※1)「場合がある」について、第2回の注に加筆します。……「そう聴こえる場合がある/ない」この違いは、聴き手が「文系脳」なのか「理系脳」なのかによって変わってきます。低く歌われた音程に対して「悲しくなった/暗くなった……」と感じるのが文系脳。低く歌われた音程に対して「あれ、音程少し低くない?」と感じるのが理系脳。……わかりますか?音の捉え方の違いに、感覚派/文系脳は「感情に置き換えて感じる」、理論派/理系脳は「現象を数値で判断する」という傾向がそれぞれ出てきます。面白いでしょ?(笑)。最近流行りの「MBTI」性格診断で言うと、4ケタのアルファベットのうち、2個目のN型/S型、4個目のF型/T型がこれに関係すると思います(最近ハマってます)。これらについてはまたあとでさらに詳しく書きましょう(ΦωΦ)フフフ……。

最終的には!「理論よりは感覚のほうが大事」

 「理論よりは感覚のほうが大事」と聞いて、「やっぱり気持ちが大事なんじゃん!気持ち込めて歌えば伝わるよ!」と思ったそこのあなた……実に甘すぎます!ヽ(`Д´)ノ……いや、読者さんが天才ならばそれでいいんですよ? でもこのコラムを読んでいる時点で「そうではない」のでしょうから、落ち着いて聞いてくださいませ。(そんな筆者も理論フル活用してますからね、当然天才ではありません。)順序や段階があるだけで、理論も感覚も両方大事なことには変わりはありません。そして「気持ちを込めて歌う」ことの真実についても話さないとなりません。この辺について話すとまた3,000字必要になるので、以下についてはまた後日まとめたいと思います。

・「気持ちを込めて歌う」ことについて。
・「感覚=気持ち」ではない。
・「ズレる」と「ズラす」は違う。
・「不必要ズレ」と「必要ズレ」について。
・「表現」とは?その実態に迫る。

「理論」「感覚」「感性/センス」「技術/スキル」

 今は「理論」と「感覚」という言葉だけ使って説明していますが、「感覚」をもっと細かくカテゴライズすると、①音感・リズム感など、基礎の段階で必要なものを「感覚」と呼び、②表現の段階で必要になるものは「感性/センス」と分けることができます。そうすると、その対義語で「技術/スキル」も出てきます。なので、これらを必要な順番に細かく並べていくと、①音感・リズム感などの「音楽基礎感覚」、発声のときの「身体感覚」、②それらの感覚を矯正してくれる「音楽理論」「発声理論」、③音楽を感じる力である「感性/センス」、それを形にして表現する力の「技術/スキル」、になります。

「感性/センス」は「歌い方」で発揮する

 最初に紹介したライブでの「叫ぶ」演出は、誰でも理解・共感できるレベルの極端な表現方法ですが、これが「悲しく辛そうに」するような繊細な表現になってくると、(※1)で書いた理由もあっていろいろな感じ方が生まれてきます。そもそも芸術は、いろんな解釈や感じ方をされてしまう分野ですが、そもそも「表現の仕方」つまりは「歌い方」にもたくさんの方法や選択肢があります。その選択肢の中からどんな歌い方を選んで、1曲をどういう表現に仕上げていくのか……に歌い手のセンスが発揮されます。もし誰もしていない新しい歌い方や表現を生み出すことができたなら、それは「センス」以上の「才能」と呼ぶことができるでしょう。

表現の方法=どんな歌い方をするのか

 以下に「悲しく辛そうに」を「低めの音程」で表現したとき、歌われた歌の音程グラフが実際にどうなっているか、例を3つ紹介しました。このように、同じ表現内容でも、歌い方でいろいろな工夫ができて、与える印象も変えることができるということです。今回はこのようなイラストを用意しましたが、連載第5回ではサンプル音声を用意して、「あなたはどっち?~感覚派?理論派?聴き分けテスト!~」を実施したいと思います。

 正確な音程で歌えば「実直な/平常心な/当たり前な」印象に聴こえたり、高めの音程で歌うと「明るい/興奮した」印象に聴こえたりする(人がいる)、というふうに「音程の変化により感情表現が感じられる/行なわれる」側面があって、これは立派な歌い方の工夫となります。

歌い方の工夫

 ここでは数ある音楽の要素の中から、音程での歌い方の工夫を紹介しましたが、他にはどんなものがあるのでしょうか?……これについては次回の第4回で紹介していきたいと思います。ここまでずっと小難しい考え方をやってきましたからね、ここで一回実用的なボーカルトレーニングをやりましょう(‘ω’)ノ

第3回の要点

・「基礎」の段階では理論が感覚を矯正してくれる。
・「表現」の世界では感覚が理論の存在を上回る。
・表現では基礎や理論ではなく、感動が先立つようにすべき。
・「表現」とは「どう歌うか/どんな歌い方をするのか」。
・「感覚」⇒「理論」⇒「感性」⇒「技術」の順。
・「感性/センス」は「歌い方」で発揮する。

次回予告

・第4回「【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!」

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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