【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-

2024.03.27

第4・5・6・7回の要点

 tOmozoです。第4回第5回第6回第7回と「歌い方」のテクニックを動画サンプルとともに紹介してきました。part1では「音の高さ/音高」、part2では「音の質感/声色こわいろ」、part3では「音の大きさ/音量」、part4では「音の波/グルーヴ」に変化を加えることで生まれる歌の表情の違いを説明しました。それぞれの練習方法などはまた後日詳しく徹底解説しますので、わからないところがあってもご安心ください(‘ω’)ノ。

音高変化による「歌い方」一覧(第4回

⑴「しゃくり」
⑵「つまみ※」
⑶「フォール」
⑷「ライズ※」
⑸「先打ち※」
⑹「ビブラート」
⑺「フェイク/こぶし」

音色変化による「歌い方」の種類(第5回

⑴「ウィスパーボイス、チェストボイス/吐息といき量」
⑵「声色の明るい・暗い、細い・太い/喉頭こうとう位置」
⑶「ファルセット、ヘッドボイス、ミックスボイス/声区せいく
⑷「ネイザル、トゥワング/鼻音びおん量」
⑸「ハスキーボイス、シルキーボイス ※/もともとの声色」
⑹「擬似ぎじハスキー、がなり/ノイズ量」
⑺「エッジボイス」
⑻「裏返し/ヒーカップ」
⑼「ブレス音の活用(4つ)」

3.音量変化による「歌い方」の種類(第6回

⑴「構成ごとの強弱」
⑵「フレーズごとの強弱」
⑶「音符ごとの強弱」
⑷「クレッシェンド、デクレッシェンド」

4.グルーヴによる「歌い方」の種類(第7回

⑴「フレージング」
⑵「アーティキュレーション」
⑶「2個イチ※」
⑷「文節区切り」
⑸「リズムによるグルーヴ」

(※印は筆者が使っている呼称)

「歌い方」の種類をまとめて紹介!part5/5

 今回でこのシリーズは最後です。part5の今日は「リズム変化」、「テンポ変化」、「テクニック応用表現」をまとめて紹介します(‘ω’)ノ。

5.リズム変化による「歌い方」の種類

⑴「シンコペーション」

 「シンコペーション」とは「強拍(表拍)ではなくて弱拍(裏拍)にアクセントをおくリズムの取り方」のこと。「表拍にある音符を、裏拍の位置に移動したようなリズム」を指すことが多い。サンプル動画のパターン①のように一般的には「前倒し」することが多い(「食う」とも言う)が、パターン②のように「後ろ倒し」もあり得る。①と②が8分音符のシンコペーションなのに対して、パターン③は16分音符での「食う」リズム。躍動感、興奮感、焦燥感、切迫感などが生まれる。前回、『基本的にはリズム構造自体を変えて歌うことはない(※注1)』と説明したが、シンコペーションは歌い手にある程度自由に許されたリズム表現のひとつ。

(※注1)「リズム構造を変える」とは「8ビートを16ビートにしたり、シャッフルビートにする」などで、これはバンドメンバーに対して相談が必要になる範囲の高度なアレンジ。カラオケの場合は、リズム構造はもちろん変更できないので音源のビートに従って歌う必要があるが、シンコペーションに関してはだいたいどんな曲でも実行可能となる。

リズム変化による「歌い方」の種類/「シンコページョン」

6.速度変化による「歌い方」の種類

⑴「タメ」と「走り」

 ひとつ前で説明した「シンコペーション」は、ビートの上に明確にハメたほうがカッコいいリズム表現だが、「タメ」と「走り」に関してはグラデーションのようにぼやけたリズム変化のことも含めて指す。実際にはこれはリズムというよりは「音楽の速度/テンポ」を変化させていることになる。リズムを「カチッとハメない」ので「崩す歌い方」とも呼ばれる。サンプル動画のパターン①のように、カラオケの場合など、楽器隊が一定速度のテンポ=「インテンポ」のままで、歌い手だけがテンポ変化させることもできるし、パターン②のように、バンドメンバー全員でテンポ変化を合わせることもできる。

⑵「フェルマータ」

 サンプル動画内の「(2)フェルマータ」のように、一部分だけ伸ばしてタメるような表現は「フェルマータ」という名前が付いている(誕生日の曲もそうですね)。

速度変化による「歌い方」の種類/「タメ」と「走り」、「フェルマータ」

7.テクニック応用表現編!

⑴「モノや動きも表現」

 「表現」と聞くと、まず「感情表現」を思い浮かべることが多いが、感情以外にも表現できるものがあることをお忘れなく。まず《揺れる光が~》は、ビブラートで実際に「揺れ」を作れば良いし、「光/hikari」は「hとk」の子音しいんの息成分を鋭く搾りながら出すことで、光線がスッと差し込む様子を演出できる。《風と流れる~》は、ウィスパーボイスの吐息で「風」を実際に作れば良いし、「流れる」様子はなめらかな音程曲線を描けば良い。これらに必ずしも感情を含める必要はなく、一般的に「風景描写」と言う。(サンプル動画内では(1)「風景描写」にあたる)

⑵「歌詞なし声だけで感情表現」

 歌詞がなくても、歌い方テクニックだけでいろいろな感情表現をすることもできる。Let’sチャレンジ!

サンプル動画内の(2)感情表現では、以下をご紹介。
「①喜、②怒、③哀、④楽」
「⑤楽しく笑う、⑥鼻で笑う、⑦呆れる」
「⑧悲しく泣く、⑨泣き笑いする」

テクニック応用表現編!/「風景描写」、「感情表現」

……

 はい、これで『「歌い方」をまとめて紹介!シリーズ』はひと段落となります(‘ω’)ノ。

「歌い方」のテクニックを練習するにあたって

歌唱テクニックはファッションや料理と同じ

 これまで紹介して来た歌い方のテクニックは、「声、ピッチ、リズムの形や色を変化させる」ことで「歌の表情の違い」を作ります。なのでその「違いの差」があまりないと、聴き手には伝わりづらくなります。前髪を5mm切ったくらいだと、それに気付く人と気付かない人がいるのと一緒です。歌い方を今までと「違う」レベルまで変化させるためには、それ相応の「発声コントロール、音感、リズム感」が必要になります。まずはしっかりと色濃く違いを作れるようにトレーニングしましょう。
 派手な味付けができるようになったら、地味な味付けもできるようになっているはずです。その辺はファッションと同じで、試してみて変だったら「やっぱりやめた」でOKなので、いろいろなアイテムをいろいろな濃さで使ってみてください。歌唱テクニックで自分の好みの濃さが出せるようになると楽しくなってきますよ。

「表現」の「表と裏」

 「表現」とはおもてあらわれる」ところまで完成させてようやく、聴き手の耳に届けることができるものです。「表」があれば「裏」があります。
 この場合の「裏」とは①「理論」②「感覚」③「感性/センス」であり、これらはまだ脳内、つまり「脳裏」に収まっている段階のものです。①「理論」は「このフレーズならこの歌い方が定番」などの知識。②「感覚」はリズムやピッチの微細なズレがわかるかどうか。③「感性/センス」は、音楽をどう感じたのか、それを受けてどういう歌い方にするのか、リズムやピッチのズレを味として表現する感覚があるかどうか。です。
 そしてこれらを実際に歌唱テクニックの形にして「表」にアウトプットするのが④「技術/スキル」です。ここでは「発声コントロール」のことですね。「頭でわかること」と、それを「身体で実現できるかどうか」は別の問題になります。歌で表現をするためには、これらが表裏一体のセットで必要になります。

次回以降予定

 ということで「感性/センス」を磨く方法なども後ほど記事にしますが、次回以降からは「技術/スキル」のうち「発声コントロール」のトレーニング、つまりボイトレに入っていこうと思います(‘ω’)ノ。次回はこれまでの流れをまとめる回とし、次々回からボイトレについて詳しく書いていきますのでお楽しみに。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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