【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
喉ちんこの下がり過ぎを治そう
第13回では歌声が詰まる原因6つのうち、3つ目の「息・鼻が詰まる感覚」を紹介しました。今回は4つ目として「喉ちんこ」が「下がり過ぎ」=「鼻にかかる」を扱います。最後のトレーニングまでお付き合いください(‘ω’)ノ。
「鼻にかかった声」の原因も喉ちんこ?
「鼻にかかった声」といえば、“ハッキリしない声”や“モコモコした声”“ねっとりした声”などのイメージがあるかと思います。これらの症状は「喉ちんこが“下がり”過ぎ」が原因で起こります。
前回の「鼻・息が詰まる感覚」は「喉ちんこが“上がり”過ぎる」ことが原因でした。“発声はバランス”なので、シーソーのようにどちらかに傾き過ぎると問題が発生します。第10回の「歌声が詰まる」原因6つの中でこの2つを紹介していますが、「喉ちんこは上げ過ぎても下げ過ぎても“声が詰まる”」症状が起こります。
鼻にかかった状態、身体の中では何が起こっている?
「鼻にかかる」とは“喉ちんこが下りている”、または“下り気味の状態”での発声で起こります。イラストで提示します。
喉ちんこが下がったことによって発せられた声は鼻腔に多く流れるので、から声が聴こえる。それが鼻にかかった声である。と思っていただいて構いません。
鼻にかかる、鼻に抜ける、鼻が詰まる、鼻音、鼻母音……
ボイトレの「鼻にかかる」において問題になるのはこの、喉ちんこが下りた母音発声の「鼻母音」ですが、子音で見れば「ま/m行」「な/n行」「が/ng」の3つが、鼻にかかる音・鼻に抜ける音「鼻音」に分類されます。これらについて整理をして更に知識を得たい方は、筆者ブログ【完全版!】で徹底解説していますので、併せてこちらもご覧ください。
【完全版!】記事:
【鼻 1/4part】鼻音3兄弟と母「鼻音」とは?
【鼻 2/4part】「鼻に○○る」など発声用語まとめ
解決策は「喉ちんこを上げる」一択
鼻にかかった声をクリアにする解決策は「喉ちんこが下がっているのなら上げれば良いじゃない」しかありませんが、滑舌の側面から“更に”クリアな発声を求めているのなら、その解決策はこれだけにとどまりません。「子音の明瞭な発音」と、母音の艶出しである「倍音の生成」などが必要になります。これについては後日解説しましょう。
それでは仕組みの理解と一緒に「喉ちんこを上げる」トレーニングメニューを進めていきましょう(‘ω’)ノ。今回は6つあります。
喉ちんこを上げるコツいろいろ
喉ちんこを“下げる”作業は普段の発話動作の中に自然と含まれているために比較的簡単ですが、一定の位置より“上げる”作業は難しく感じる人が多いです。自然な作業から、最後は目一杯上げる作業まで1つずつ順を追って見ていきましょう。
(1)あくびの吸気で“上げてもらう”
生理的なあくびのとき、たくさんの空気を取り込むために喉ちんこは“フワッと”上がってくれます。きっかけとしては一番自然な形になりますが、言わば“自力で上げていない”ので効果としては弱めです。空気をたくさん吸うパターンから、あまり吸わないパターンまで鏡を見ながら練習してみましょう。
(2)こめかみを上げる
こめかみを上げることで、内側にある喉ちんこを上げる筋肉を刺激することができます。喉ちんこが上がる方向、つまり少し斜め後ろに引っ張るようなイメージで、“キューッ”と目と眉毛を離してみてください。この状態で歌ったり、トレーニングメニューをこなすと良い助けになってくれます。実際にこの作業は、歌唱中に高音が出づらかったり、ピッチ(音程)が上がりづらかったりするのを改善してくれる“お立ちアイテム”になってくれます。なおかつボイトレの作業の中では珍しく、あまり副作用が現れない動作になるので、恐れずに“メリメリ”上げてみましょう。
(3)太い声を出そうとする
声色(音色)を“太い”、“深い”、“暗い”響きを作ろうとすることで、喉ちんこは自然と上がるほうに作用してくれます。この”広がりのあるウェットな響き”である「共鳴」は、喉仏が下がって喉ちんこは上がっている状態で作られるものです。なので響きのある音色を直感的に狙うことで、必要な筋肉が喉ちんこを上げようと働いてくれます。響きによって内側から押し上げてもらうようなアプローチになります。裏声の音域ではオオカミの遠吠え(ヘッドボイス)が上手にできると良いですね。
(4)喉仏は下げようとする
(3)の作業を、筋肉から働かせるアプローチになります。以前『”喉仏が下がること”と”喉ちんこが上がること”には深い関連がある』とお話ししました。詳しい説明は改めて機会を設けますが、「喉仏を下げるのが上手だと、既に喉ちんこを上げるのも上手になっている可能性も高い」と言うことができます。喉仏を下げるメニューは、第12回にて8つ公開していますのでご確認ください。最終的には独立して動かすことができるものですので、まずはこの関連性を利用しても問題ありません。
(5)鼻づまりの状態を作る
前回は「鼻が詰まる感覚」を治しましょう、という回でしたが、“発声は表裏一体のバランス”です。今回の「鼻にかかる」状態を改善するには、前回の「鼻が詰まる」状態が良い薬になるのです。自ら鼻詰まりの感覚を用意するには、「daba」「danban」の発音で上記の(1)(3)(4)を意識します。そもそも上記3つの作業は、この「daba」の中に含まれていますので、一緒の作業を強化するアイテムだと思っていただいてOKです。
(6)吸気発声ができるようになる
「吸気発声」も第12回にて紹介したエクササイズの1つですが、これが一番強力に喉ちんこを上げる作業になりますので、ここで詳しく説明したいと思います。
音声サンプルで4つのパターンを提示していますが、それぞれの状況と改善のコツを説明します。
①「◎」吸気発声でエッジボイス
上手くいっているときの音がこれです。息を軽く吐きます。上記(5)の鼻づまりの状態「daba」を用意しながら1回息を止めたら、鼻詰まりの抵抗の中で息を吸い上げる動作をします。このとき鳴っているのは声帯ではなくて声帯上部にある「仮声帯」と呼ばれる部分で、声帯自体をキツく合わせるのではなく、鼻づまりを作る作業と喉ちんこを上げる作業にエネルギーを集中させるのがコツになります。
②「△」少し緩くて息が混ざった場合
喉ちんこを上げて張る力が弱かったり、息を吸う感覚が強すぎるとこのような音になります。まずは鼻詰まりの状態「daba」を強化して、それでも息が抜けるようなら「danban」で粘着力を強化します。それから、息は“吸う”動作だけども実際に使う息は微量ですので、「息を止める」感覚を強く持ってください。
③「×」吸わずに吐こうとした場合
吐く動作、つまり通常の発声の感覚で出そうとするとこのような潰れた音になりやすいです。でも上手くバランスが取れれば、歌い手の感覚としても聴き手の聴覚としても「吸っているのか?吐いているのか?」どちらか分からないようなエッジボイスになることがあり、実は最終的にはこれが望ましい歌唱の感覚になります。しかし今は喉ちんこを上げることが目的ですので、まずは吸う感覚を覚えましょう。吸う感覚が分からなくなったら、あえて息を多く通して確認しながら、上記②の作業を加えながら①を目指します。
④「〇」吸気発声でキレイな発声
ノイズを入れないキレイな発声もやっておきましょう。①の張りの強い状態では出せない音なので、適度な脱力を覚えるため、響きの1つである「共鳴」の感覚を覚えるため、の練習に役立ちます。①との感覚を比べると、喉ちんこの上がり具合は80%、張り具合は30%、くらいのイメージです。この発声は明確なピッチ(音程)を作れますので、いろいろな音域で音階練習をしてみてください。
エクササイズは以上です、繰り返し取り組んでみてください(‘ω’)ノ。
次回予告
次回第15回では、第10回「歌声が詰まる原因6つ」の5つ目で紹介した「喉ちんこ」の「張りが無さ過ぎ」=「声が張り付く」について解説していきます(‘ω’)ノ。「トゥワングとネイザル」「閉鼻音と開鼻音」についても触れようと思いましたが長くなってしまったため、次回に持ち越したいと思います。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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