【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
目次
力強い歌声へ! ~ 声量アップ作業
tOmozoです。今回扱うのは「腹式呼吸」です。腹式呼吸をすれば声量アップが期待できます。今回は腹式呼吸のエクササイズもそうですが、声量アップに関する意識の置き方などもまとめて紹介します(‘ω’)ノ。
第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選のうち、8つ目と、オマケの9つ目のメニューを詳しく解説する内容になります。
腹式呼吸の目的と動作を簡単に
腹式呼吸は「呼吸」と名前が付いているので、息のコントロールだけに意識が向かいがちですが、実は目的はそれだけではありません。腹式呼吸の動作には以下のの2つの意味を持たせると効率的です。
①息の量や速さのコントロール
②発声のエネルギー生成(声門閉鎖のコントロール)
です。そんな腹式呼吸の実際の動作は、ごく簡単に言うと次のようになります。
「①深く息を吸ったら、②お腹に力を入れて歌う」
です。それでは詳しく見ていきましょう(‘ω’)ノ。
声量アップを叶える材料とバランス
まず、声量を上げるための仕組みについて簡単に説明します。
1.声量アップを叶える材料2つ
声量を上げるために必要な発声の材料は以下の2つです。
①吐く息「呼気圧」:声帯に当てる息の量やスピード
②声門閉鎖「閉鎖圧」:声帯を閉じる動作とそのパワー
これら2つのパワーをそれぞれ強くして合体させれば、声帯でより大きな声が生まれます。この場合は“声帯で強く摩擦を起こす”と思っていてOKです。でも、力強くも問題のない良質な発声が叶うのは、この2つのパワーの量がバランス良く混ざっている場合です。
2.閉鎖圧と呼気圧のバランス
閉鎖圧と呼気圧のバランスによっては以下のような発声になり得ます。
①閉鎖圧>呼気圧 息が少ないことで鳴る「エッジボイス」を作ることができるが、失敗すると声帯を閉じ過ぎる「喉詰め声」になる可能性が出てくる
②呼気圧>閉鎖圧 吐息成分が多い「ウィスパーボイス」を作ることができるが、失敗すると息が抵抗なく漏れ過ぎる「声が”抜ける“」可能性が出てくる
これらに関する詳細は割愛しますが、今回紹介している腹式呼吸は、この2つのパワー「呼気圧と閉鎖圧」をバランス良く強めてくれるのです。ということで、腹式呼吸について見ていきましょう(‘ω’)ノ。
腹式呼吸とは?仕組みと動作を確認
腹式呼吸について、実際に動作させながら仕組みを把握していきましょう(‘ω’)ノ。
横隔膜を使えば腹式呼吸と呼べる
腹式呼吸とは「横隔膜」を使った呼吸のことを言います。腹部(へその周辺)を出したり引いたりして動かせば横隔膜も連動して動きます(横隔膜の動き自体は体感できるものではありませんが)。実際にやってみましょう。
①お腹を引いて凹ませてみてください。この時横隔膜は上がり、肺から空気を放出させます。
②お腹を出して凸ませて(膨らませて)みてください。この時横隔膜は下がり、肺に空気が入ってきます。
このように呼吸を自分の意識でしようとしなくても、横隔膜が動いたことによって自然と呼吸は開始されます。なので、腹部を動かす+意識的な呼吸、をすればより強力にブレスコントロールできるという訳です。
これだけで腹式呼吸単体としての動作は完成しますが、発声しながらの動作はどうでしょうか?
Q1:実際に歌っている時の腹式呼吸の動作は?
では歌う時に実際どういう動作をしながら歌えばいいのかというと、一番簡単なケースは、
A1:①お腹を中心に膨らませながら空気を吸い、②発声中はずっとお腹に力を入れて歌う
になります。普段から平均的な発声バランスを持つ人で、力強い発声を目指している場合ならばこれだけでOKです。腹式呼吸による圧力である「腹圧」がかかれば、①呼気圧も②閉鎖圧もバランスを保ちつつ適度に上がってくれます。声量アップの材料2つの強化が、腹圧をかけることによって用意できるのです。
Q2:呼気圧と閉鎖圧を更に増力・調整したい場合は?
上記の方法は言わば“お手軽セット”なので、効果は即効性がある代わりに“それなり”です。更に声量アップが必要な人や、呼気圧と閉鎖圧のバランスを調整する必要がある人は、それぞれのパワーをトレーニング・調整できる必要があります。
(1)声門閉鎖圧
声帯を閉じるパワーのトレーニング・調整作業は以下の記事をご覧ください。
第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
閉鎖圧は次のトレーニングでも訓練できます。
(2)呼気圧
呼気圧をアップするトレーニングを簡単に紹介します。
①腹筋の筋トレ(表層筋でなく深層筋)
まず呼吸は意識せずに、へそ周辺を出したり引いたりする動作を、a.強めの力でゆっくり、b.軽めの力で速く、のパターンで動かします。「プランク」という体幹トレーニングも有効です。
②呼吸を入れて腹筋の動作と重ねる
次は①の腹筋の動作に重ねて、意識的に呼吸を入れます。ブレスを吸ったり吐いたりする動作を、a.たくさんの量をゆっくり、b.ある程度の量を素早く、のパターンで呼吸します。特に後者は「ドギーブレス」という“犬が舌を出す呼吸”をイメージすると良いですね。※酸欠に要注意です。
Q3:腹式呼吸の細かい動作あれこれはどうする?
Q1は簡単な動作を紹介しましたが、細かく見ていくと以下のような動作の選択肢が出てきます。
①ブレスは口から吸うのか・鼻から吸うのか
②腹圧のかけ方は腹部を出すのか・凹ますのか
③吸う量と腹圧の強さの程度はどれくらい?
これらはケースバイケースでそれぞれにメリットとデメリットがあります。対処法も個人の状態によって変わりますし、話すと長くなるので(笑)、今回は「口から深く呼吸したら、発声中はへその位置は気にしないで力を入れる」でOKです。これらに関してはまた別の機会に解説しましょう。
その他、声量アップを支えるアイテム
1.声の響き2つでも声量アップできる
ボイトレの段階でも実際の歌唱の段階でも、「2つの声の響き」を増やすことで声量アップを図る意識も必要です。今回は紹介だけに留め、次のシリーズから解説します。
①広がりのあるウェットな響きの「共鳴」
②声の芯で鳴る明るく鋭い響きの「倍音」
2.大胆に発声作業をする
オマケですが、“声が足りない人”のほとんどが、“内気で控えめな性格”の持ち主です。こういった方は実際のレッスンでも、調整作業に必要な強さの7割までしか力を入れられなかったりします。発声における「脱力」作業は、その原因をしっかり特定して適切に対処する必要があります。でも今回のテーマ「増力」作業は、“何か問題が発生するまでは”積極的に足し続けてOKです。これに心当たりのある方は、思いっきり行動して大丈夫ですよ( `ー´)ノ。
次回予告
……はい、ここまで“声が抜ける”症状の対策を紹介してきました。
声が抜ける発声改善トレーニング一覧
(1)声帯を閉じる筋力UP:第18回
(2)お腹に力を入れる:第19回
(3)こめかみを上げる:第19回
(4)鼻にかける:第20回
(5)鼻にためる:第21回
(6)喉ちんこの引き合い:第22回
追加①⇒「喉ちんこの引き合い」を模型で説明:第23回
追加②⇒倍音生成=「鼻を鳴らす」:第24回
(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める:第25回
(8)腹式呼吸(呼気圧+閉鎖圧)=声量UP:第26回(今回)
(9)大胆に発声作業をする:第26回(今回)
次回第27回以降は、2つの声の響きである「共鳴」と「倍音」について、何回かに分けて解説したいと思います(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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