【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第63回:声門閉鎖を間接的に強めるアイテム一覧 ~ハードミックスの完成へ⑤~

 tOmozoです。連載「声区シリーズ」は「声区融合せいくゆうごう」「ミックスボイス」について回数を重ねてきまして、今回の「ハードミックス」のためのアイテム解説の完了とともにシリーズも終了となります。『強いけど裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を、まずは第58回にて一挙に紹介しました(‘ω’)ノ。

裏声→地声アイテム一覧

(1)鼻音でモワっと→ネチっと:第59回
(2)倍音でキラキラさせる:第59回
(3)速い呼気で声帯をなびかせる:第61回
(4)エッジボイスで乾かし焦がす:第60回

 補足回:「抵抗圧」について:第62回
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する:今回

 今回のポイントはいつも言っている『意図的な声門閉鎖せいもんへいさは後回しにする』ということです。まず声帯の構造についての少し専門的な話から始めます。


声帯は自分から閉じない

 声帯周辺の筋肉である内喉頭筋は、大きく分けると4つの役割があります。

①声帯を開く=息を吐く
②声帯を閉じる=声を鳴らす
③声帯を伸ばす=音程を高くする
④声帯を縮める=音程を低くする

【「内喉頭筋群」の通称と愛称】
【「内喉頭筋群」の通称と愛称】

 です。これらは「不随意筋ふずいいきん/「自分の意思では動かせない筋肉」です。ですが、このうち「声帯を閉じる」筋肉の一部だけは「随意筋ずいいきん/自分の意思で動かせる筋肉」とされています(ボイトレ界隈では特にこの部分において色々な情報が錯綜していますが、筆者個人としても『意思で動かせている』感覚があります)。つまり、声帯を閉じ過ぎる「過剰閉鎖かじょうへいさ」が起こる原因はここにあります。

押しやすい“余計な閉鎖スイッチ″

 声帯を閉じる機能だけが、自らの意思によって余計な動作を引き起こし得るシステムになっているのです。今回は各筋肉の詳細については触れません(少し知識のある人向けに言及しておくと、声帯閉鎖は「狭小」ではなく「内転」で作るべきということです)。ポイントは『声帯って自分から閉じなくても勝手に閉じるんやで』ということです。

声帯は勝手に閉じる

 「不随意筋である」ことが答えになるんですが、声帯は自ら動かすのではなく、他の器官の動作によって間接的に動くものです。なので声帯周辺の筋肉である「内喉頭筋ないこうとうきん」の役割を知って直接いじろうとしても正しい動作にはなりません。『声帯の稼働スイッチ、声帯には無いのよ』という話に繋がります。

声帯は操り人形である

 声帯は操り人形と一緒です。”声帯周辺の筋肉を直接動かそうとすることは、操り人形の本体を持って直接動かそうとする動作そのもの“です。動きは当然ぎこちなくなります。ではどこで動かすのか……?

声帯は軟口蓋で操作する

【発声に重要な筋肉群】
【発声に重要な筋肉群】

 一番イメージしやすいのは、これまでも筆者が提唱してきた「軟口蓋(喉ちんこ)の引き合い」です。声帯の上方に位置しているので、操り人形のイメージと重なると思います。軟口蓋を上げるだけでもダメ、下げるだけでもダメ、両方の動作が必要です。この動作によって「声門閉鎖圧せいもんへいさあつ」は自然と強さを帯びます。これについては第59回の解説部分になります。

 核となるのはこのアイテムですが、これだけでは発声の様々な細かい調整は効きません。そこで今回はこれまでも紹介してきた「声門閉鎖を作るアイテム/筋連動きんれんどう誘発アイテム」まとめをします(‘ω’)ノ。


筋連動誘発アイテム6選

 簡単な解説と関連記事リンクとともに、6つ紹介していきます。これらは結局のところ”声門閉鎖せいもんへいさの上位互換”として紹介している「軟口蓋なんこうがいの引き合い」や「抵抗圧ていこうあつ第62回)の用意」を促すアイテムになります。

【「筋連動誘発」=「ベクトル調整」アイテム】
【「筋連動誘発」=「ベクトル調整」アイテム】

(1)「口輪筋こうりんきん」の稼働

 「口輪筋こうりんきん」とは唇の筋肉です。軟口蓋なんこうがい周辺の筋肉を経由して間接的に声帯へ伝播します。声帯から遠い筋肉ほど副作用が少なく済みます。第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】

(2)「頬骨ほおぼね鳴らし」

 頬骨のあたりに力を入れて歌うと「軟口蓋のハリ」がそれとなく用意できます。「軟口蓋の引き合い」の感覚が掴めた後ならかなり直接的に作用してくれます。第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】

(3)「こめかみ上げ」「鼻に当てる」

 「軟口蓋の引き合い」のうち、「軟口蓋上げ」の動作を補強する動きです。イラストでは省略していますが、鼻音が苦手な人は「鼻に当てる」動作をオススメします。小鼻のあたりに向かって声を当てながら歌う動作です。これは「軟口蓋の引き合い」のうち、「軟口蓋下げ」の動作を補強するアイテムです。第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説

(4)「嚥下えんげ/飲み込むフリ」

 第60回のエッジボイスに関連して紹介した抵抗圧を作る万能アイテムです。これ以外にも抵抗圧を作るアイテムはたくさんありますので第62回をご確認ください。ですが閉鎖圧の上位互換として用意するならこれ一択でOKです。

【抵抗圧いろいろマップ】
【抵抗圧いろいろマップ】

(5)「鎖骨上さこつうえのせり出し」

 あえて「意図的な声門閉鎖」と「呼気圧こきあつ第61回)」と「喉仏のどぼとけ下げ」をセットにするアイテムです。第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】 

【鎖骨上のせり出し】
【鎖骨上のせり出し】

(6)「太く作る鼻音びおん

 「鼻にかける声/鼻音びおん」を「深い/太い/暗い」音色で鳴らそうとすると縦方向に大きな筋連動を用意できます。「喉仏下げ」のための筋肉と「軟口蓋下げ」のための筋肉は、良くも悪くも喧嘩しやすくハリ合いになるからです。

【「引き合い/筋連動」の関係性】
【「引き合い/筋連動」の関係性】

声区シリーズは終了!

 いかがでしたでしょうか? 多くの人にとって「ハードミックス」が目下の課題になっていることから、これをゴールとして沢山の解説をしてきました。とはいえ多くの情報を自分の状況に合わせて適切に処方して感覚まで結びつけることは難しいことです。筆者はリモートレッスンにも対応していますので、自分用のレシピがピンポイントに知りたい方は教室のHPからアクセスください。


次回予告

 次回は何を書きましょうか……。この1年間で初めて次回号の構想がない(まだまだ書くことがあって精査できていない)ため、次回は「お楽しみ」ということでお願いします(笑)。


本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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