【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
豊かな「倍音」が生まれる条件を解説
tOmozoです。声の2つの響き=「共鳴」と「倍音」シリーズをお届けしています。「倍音シリーズ」の2回目になる今回は、前回紹介した「喉ちんこの引き合い」「声門閉鎖」、そして「ベルヌーイ効果」をキーワードに、良質な声門閉鎖で倍音生成を叶える方法について詳しく解説します(‘ω’)ノ。
倍音を声帯で量産できる条件
声門閉鎖だけでは不十分
声帯を直接閉じ合わせる意識での声門閉鎖は、極端に例えるなら”荒い金属の断面をガチガチと合わせているような作業“と言えます。声門閉鎖の作業だけでは、倍音生成ができないばかりか、特に地声では固い音しか出ない、高い音では詰まって音程が下がる、など”悪い地声“になる危険性が増します。
声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」
ここで”正解“のカギを握るのが筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」になります。まずはこれによって倍音生成をする様子を動画でご覧ください。
発声パワーを生成する器官を「声帯」から「喉ちんこ(軟口蓋)」に移すことで、声帯に負担をかけずに良質な声門閉鎖ができる形になります。直接的で過剰な声門閉鎖により固まりがちな声帯は、ゴムのように柔軟性と弾力性を兼ね備え、これによって”声のハリ“”声のツヤ“、そして「倍音」が生まれます。
倍音が多く含まれた音色は『ビィー』というセミの鳴き声やブザーに似たサウンドになります。これは人の声に限らず、どの楽器でもそうです。フルートよりはサックスの方が倍音を多く生み出せます。
(フルートが劣っているという話ではありません。倍音や共鳴の含まれ方は個性の1つであり、少ないなりの音色の魅力があります。ただ、ボイトレ的に見ればどちらもしっかり出せるようになった方が正しい発声になりやすいのは事実です)
「喉ちんこ」から「声帯」に力を移した発声
ここで試しに「喉ちんこの引き合い」による倍音生成を意識した発声と、声帯を直接閉じ合わせようとした”悪い地声“での発声を聴き比べてみてください。過剰な閉鎖で「喉締め声」になった瞬間に、倍音の煌びやかな成分が消えるのが確認できると思います。
「ビィー」のサウンドが倍音の成分
サンプル音声を聴いて『これが倍音なの?』と思う人もいるでしょう。サンプルでの発声は、生成した倍音成分を聴きやすくするための発声バランスであって、実用的な発声ではありませんので特にそう感じるかも知れません。
では、このサンプル音声の発声が倍音を多く含んでいることを証明したいと思います。
ちなみにここまでの作業は、前回紹介した(1)原音での倍音生成、(2)調音での倍音表出、のうち前者になります。次の倍音の証明をする作業は後者です。たくさん作った倍音を、もっと聴き取りやすくするために形を整える作業が以下になります。
必見:「ビィー」が倍音を多く含んでいる証明
まず、ピアノの音色に含まれているたくさんの倍音を順番に強調していくこのサンプル動画、今までに何回か紹介していますが、今一度ご確認ください。
これは音響をいじれる機械で各倍音を強調していますが、実はこれと同じ作業が人の声によって再現可能です。しかも機械は使わなくてもできます。以下のサンプルを聴いてみてください。
……どうでしょうか?倍音が順番に強調されるのを確認できましたか?筆者は特別これ自体を極めているわけではないので(笑)、もっと分かりやすく上手にできる人たちがいますのでここで紹介します。
倍音のプロはモンゴルにいる
それはモンゴルなどに代々伝わる「ホーミー」(ホーメイとも呼びます)という発声方法です。検索すれば簡単に動画が見つかりますので調べてみてください。……倍音生成と倍音表出を極めるとこんなに分かりやすく二重音声を発声することができます。低く唸るような基音の発声と、高くヒョロヒョロ動いている倍音の2つで二重に聴こえる仕組みです。筆者がやったのはこれと同じ作業ですが、当然クオリティは全然及びませんので、是非本場の「倍音」を聴いてみてください。
まとめ
どうやったら「倍音」を作れるのか?……それが筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」です。それをコントロールしてやっている本人が言っているんですから間違いありません(笑)。
関連記事紹介:「喉ちんこの引き合い」
第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
ただ、この発声作業が担当しているのは(1)原音での倍音生成(=声帯で作るまで)であって、もしホーミーまでやりたければ(2)調音での倍音表出(=作った声の形の調整)が必要になります。後者に関してはまたこのシリーズのどこかで触れたいと思います。
……
次回予告
今回は「ホーミー」の発声方法で倍音を強調して表出させ、「喉ちんこの引き合い」をすることによって倍音を生成できることを証明しました。
今回扱う予定だった「ベルヌーイ効果」は長くなったため次回に持ち越し、それも踏まえてもう少し詳しく「声帯の正しい動かし方」について解説したいと思います(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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