【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第70回:ノイズ発声①エッジボイスは低い音? 高い音でも『エッジの効いた歌声』を出せるようになろう!

ノイズを味方にする

 tOmozoです。今回からいろいろな「ノイズ発声」についての詳細解説をしていきます(‘ω’)ノ。

①エッジボイス
②ラスピーボイス
③吸気ノイズ
④ハスキーボイス
⑤デスボイス
⑥不具合ノイズ

 ノイズはときに『汚い』と言われ邪魔者扱いされますが、「デスボイス」などではむしろそれが最大の魅力です。そればかりか、ノイズを入れない通常の「クリーントーン」を発声する際、重要なバランサーにもなってくれます。ノイズ発声には”良い発声“のヒントがかなり多く隠されているのです。
 今回から複数回に分け、作り出すノイズから、発声の不具合によって起こる不本意なノイズまで、解説したいと思います。今回は①エッジボイスです。


 この記事は第64回で一挙紹介した「音色おんしょくシリーズ」のうち(5)雑音量で“ノイジー”を作る、のひとつです(‘ω’)ノ。

(1)“明るい”を作る3つの作業第65回
(2)“深い”を作るふたつの作業
第65回
(3)音色の4系統分類表
第66回
(4)鼻音量で“マット”を作る
第67回
(5)雑音量で“ノイジー”を作る
:今回から
(6)もとの声質:ハスキーとシルキー
第68回
(7)ミックスボイス:ソフトとハード
第69回


エッジボイスを使いこなそう

エッジボイスの基本情報

 「エッジボイス」とは、“ジジジジ”、“ブチブチ”としたノイズの一種で、一般的には最低音域の発声で現れるものです。別名に「ボーカルフライ」などがあります。

①エッジボイス ②エッジから通常発声へ
【エッジボイスの成立条件】
【エッジボイスの成立条件】

エッジボイスの作り方

 エッジボイスの作り方とミックスボイスや声区融合に及ぼす影響については、すでに以下の記事で解説しています。
関連記事:第60回:“料理の焦げ味”地声成分になる「エッジボイス」とは?~ハードミックスの完成へ②~

 今回はエッジボイスと音域の関係についての視点で追加解説します。『エッジボイスを高い音域でも鳴らしたいのに、低い音域の歌いだしでしか鳴らない……』という状況の方は多いと思います。


エッジボイスと音域

エッジボイスは低い音?

 エッジボイスというと『最低音域の発声』として言及されることが多いんですが、まずこれはどういうことでしょうか?……

 “ジジジジ”といったノイズは、音程感が低いほど音の鳴る間隔が“ジ…ジ…ジ…ジ…”と広くなっていくのは実感したことはあるかと思います。

音は振動、エッジも振動

 音は振動であり、それは「波形はけい」で表わすことができます。その横方向の長さである「波長はちょう」は、高い音ほど狭く/低い音ほど広い幅になります。縦方向は「振幅しんぷく」といい、音量を表わします。

【音の波形:高い/大きい】
【音の波形:高い/大きい】

 なのでエッジボイスの“ジジジジ……”といった音も同様に、低い音高ほど粒が大きく立つことになり、よりエッジボイスらしく聴こえるのです。といってもノイズだけだとドレミのような音程感はハッキリとは出ず、エッジボイスの場合はノイズの間隔によっても音程感が感じられる、ことになります。

高いエッジボイスに挑戦

 エッジボイスは低音域だとハッキリと認識でき、なおかつ低音域が鳴りやすいだけで、なにも低音域だけでしか鳴らないわけではありません! 高音域でのエッジは”細かく振動する“ため、エッジボイスっぽく聴こえないのです。

①低めエッジボイス ②中音域からエッジ→クリーン ③高音域からエッジ→クリーン

訓練が必要な高音エッジ

 ただし、実際に高音域でのエッジ発声は低音域より難しいのは確かです。どのくらいからが”高音“なのか?と言えばそれはハッキリしていて、各個人の“換声点より上の音域”です。換声点より上でエッジが鳴りづらい理由は、ミックスボイスの習得が難しい背景とまったく一緒です。

エッジボイスの成立条件

 軟口蓋(喉ちんこ)のハリを高音域でも強め、呼気を減らすことができればエッジボイスになります。もともと裏声音域である換声点以上の音高は、軟口蓋を中心とした筋連動のパワーが備わっていないために“か弱い”ケースが多いというワケです。これを鍛えるのが筆者提唱の「軟口蓋の引き合い」です。
関連記事:記事まとめー「軟口蓋(喉ちんこ)の引き合い」

【軟口蓋の引き合い】
【軟口蓋の引き合い】

換声点以上に必要な条件

 これは通常のクリーンボイス発声でもそうなんですが、換声点より下は「軟口蓋上げ」のパワーだけでなんとかなります。でも、換声点付近より上は「鼻音生成の感覚/鼻にかける/軟口蓋下げ」の作業をプラスし、文字通り軟口蓋を引っ張り合うバランスがないと処理できません。声区融合が必要なミックスボイスの成立条件の核がこれです。

『エッジの効いた歌声』

 こういった理由から低音の歌いだしでは鳴りやすいエッジボイスですが、ひと手間加えると高音で伸ばしている最中でもエッジが絡まったような状況にでき、これを『エッジの効いた歌声』と言ったりします。

①中音域でエッジっぽい発声 ②高めでエッジっぽい発声

 ”ひと手間“とは、軟口蓋のハリを強めつつ呼気を減らしてエッジを鳴らしたら、そのエッジにもう一回呼気を混ぜにいくような要領です。

 実際に音色に付加すればひとつの魅力として使えるだけでなく、実際にオモテに現われない程度であっても、この感覚を用意するだけで発声バランスを地声寄りに整えてくれる材料にもなってくれます。

エッジボイス?

 そうなってくると、これをエッジボイスと呼ぶかどうかは微妙なところですが、実はこれには別の名前が付いています。

 「ラスピ―ボイス」です。ノイズ発声のキモとなる「仮声帯かせいたい」も関わってきます。


次回予告

 ということで、次回は②ラスピーボイスについて解説いたします(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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