【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第69回:ボイトレは料理である! ミックスボイスのソフト&ハードを作る「歌声成分」まとめ

 tOmozoです。第64回で一挙紹介した「音色おんしょくシリーズ」は以下のトピックで詳細解説を進めています(‘ω’)ノ。

(1)“明るい”を作る3つの作業
(2)“深い”を作るふたつの作業
(3)音色の4系統分類表
(4)鼻音量で“マット”を作る
(5)雑音量で“ノイジー”を作る
(6)もとの声質:ハスキーとシルキー
(7)ミックスボイス:ソフトとハード

 今回は(7)ミックスボイス:ソフトとハードについてを、筆者が一番プッシュしているアプローチである「歌声成分5つ」でまとめる内容です(‘ω’)ノ。


ミックスボイスは「ハード/ソフト」に分類

 ミックスボイスは一般的に「ソフトミックス」と「ハードミックス」に分けられ、もしくは「ライトミックス」と「ヘビーミックス」という呼ばれ方もします。

 このふたつに分ける捉え方は、料理で言うならば“和風パスタか洋風パスタ”か、くらいの大ざっぱな分け方であって、それぞれを正確に作り分けできるくらいのレシピではありません。

 “和風”を作るにも醤油や味噌とか、材料はいくつかありますよね。ボイトレでも同じことが言え、筆者はそれを「成分」と呼んでいます。

ボイトレは「歌声成分」で完成できる

 筆者は「歌声成分」でボイトレを完成させるアプローチで指導してます。あとで説明しますが、それが“手っ取り早い”からです。

「歌声成分5つ」

 成分は以下の5つを揃えればOKです。

【各声区の発声感覚と成分のイメ―ジ】
【各声区の発声感覚と成分のイメ―ジ】

(1)ウェットに広がる「共鳴きょうめいの響き」
関連記事:記事まとめー声の2大響き「共鳴」について

(2)声の芯とツヤ担当の「倍音ばいおんの響き」
関連記事:記事まとめー声の2大響き「倍音」について

(3)サラッと薄め材になる「吐息といき
関連記事:記事まとめー「吐息成分」について

(4)柔らかさと繋ぎ担当の「鼻音びおん
関連記事:記事まとめー「鼻音」「軟口蓋の上げ下げ」について

(5)装飾担当のドライな「エッジ」
関連記事:記事まとめー「エッジボイス」について

ソフト/ハードの作り分け

 ソフトミックスの材料は「共鳴」、「吐息」、「鼻音」の3つで、ハードミックスの材料は「鼻音」、「倍音」、「エッジ」の3つです。「鼻音」は両方に必要です。

【「発声マップ」声区と成分相関図】
【「発声マップ」声区と成分相関図】

 ソフトでもハードでも耳に聴こえない部分で「呼吸圧/閉鎖圧/抵抗圧」(=発声の基本原理「圧3点セット」)も重要になりますが、「歌声成分5つ」を習得さえできれば、これらの「圧3点セット」は意識しなくても大体は整います。

【発声の基本原理】
【発声の基本原理】

 というか『圧3点セットを気にしなくても発声が整うように「歌声成分5つ」を提唱している』のが筆者自身ですので、どうぞ信じてください(笑)。

ミックスの成立条件は材料全てを揃えること

 ソフト/ハード、それぞれに必要な材料がいつくかありますが、材料はすべてを揃えて混ぜ合わせなければなりません。その名の通り“ミックス”ボイスですからね。材料が揃っていないと何らかの発声トラブルが起こることでしょう。特に重要なのは「鼻音」で、ソフト/ハード両方に必要な材料です。

 だけど、これら材料をどれくらいの割合の配合にするか、は完全にお好みでOKなんです。

材料のブレンド量はお好みで

 「吐息」の分量を多くすれば“息感”や“抜け感”が魅力のソフトミックスになるし、「鼻音」を多くすればよりマイルドなソフトミックスに、「共鳴」が多ければシックな雰囲気のソフトミックスになります。「倍音」が多ければ派手な印象のハードミックスになるし、「エッジ」が多ければドライな印象のハードミックスになります。ハードミックスで「鼻音」に重きを置くと粘り気のある質感になります。

①吐息ソフト ②共鳴ソフト ③鼻音ソフト ④鼻音ハード ⑤倍音ハード ⑥エッジハード

完璧なミックスボイスはある?

 ミックスボイスと言っても、上記のように好きな音色で歌えば良いのです。ボイトレばっかり頑張っていると『歌のうまさは発声次第だ!』と意識が偏ってしまって、“ひとつの完璧なミックスボイス”があるように思えてくるものです。以前も書きましたが、『ひとつの一定な音色がずっと聴こえてくる歌より、いろいろな音色が聴こえてくる歌のほうが表情豊かであり、スキル面で見ても高度』と言えますよね。

全部合わせると”完璧“かも?

 とはいえ、一番発声しやすいミックスのバランスは、ソフト/ハードの材料5つすべてを均一に混ぜ合わせた「吐息2:共鳴2:鼻音2:倍音2:エッジ2」だったりもします(笑)。ただ、『ボイトレに一般論はほとんど存在しない』のです。こういった感覚も当然”人によって変わる“ものなので、自分が一番歌いやすいバランスを探してください。ボイトレは実験です。

「歌声成分5つ」はボイトレを制す

 こんな感じで、ミックスボイスと言っても「歌声成分5つ」をメインにするだけで、それぞれの魅力を打ち出した音色にすることができます。なので「歌声成分」からボイトレを完成するアプローチは、ミックスボイスの条件も満たしつつ、直感的に音色作りもできるために、一番効率が良く”手っ取り早い“のです。歌声成分は「圧3点セット」と違って“聴覚/耳で確認できる”のも大きなポイントです。

 これを別の視点から言い換えてみましょう。

 ミックスボイスを「ソフト/ハード」とだけ捉えていては、必要な条件が何なのか見えてきません。このままでは発声迷子になるか、まぐれで偶然にうまく行っても再現ができないか、の状況から抜け出すことは難しいでしょう。まず、ミックスボイスの成立条件は「歌声成分」でほとんどの説明ができます。そして音色の面から見ても「ソフト/ハードのふたつ」の分け方より、「歌声成分5つ」のほうが魅力を増やせる、ので一石二鳥!……というワケです。

必要最低限の割合

 最後に、それぞれの材料は最低限1割でも入っていればミックスボイスとして成り立つ場合が多いです。例えばソフトミックスなら「吐息4:共鳴5:鼻音1」とか、「吐息5:共鳴1:鼻音4」とかですね。これまでに筆者がデータ収集してきた体感値としては、最低限10%入れておけば問題なく歌えるケースが多いです。『ミックスボイスで歌えている=発声トラブルは起きない』ものですので。
 こういった実際の物理的な割合と、個人が持つ感覚的なイメージにはけっこう乖離があったりします。数値とイメージのすり合わせをしたい方は、一度筆者のレッスンをお試しくださいませ。


次回予告

 次回は飛ばしていた(5)雑音量で“ノイジー”を作る、についてまとめます(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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