【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第68回:ハスキーボイス/シルキーボイスは生まれつき? それともボイトレで変えられる!?

 tOmozoです。第64回で一挙紹介した「音色おんしょくシリーズ」は以下のトピックで詳細解説を進めています(‘ω’)ノ。

(1)“明るい”を作る3つの作業
(2)“深い”を作るふたつの作業
(3)音色の4系統分類表
(4)鼻音量で“マット”を作る
(5)雑音量で“ノイジー”を作る
(6)もとの声質:ハスキーとシルキー
(7)ミックスボイス:ソフトとハード

 今回は(6)もとの声質:ハスキーボイスとシルキーボイス、についての”あれこれ“を解説する回です。これらふたつの○○ボイスは、”もともと持って生まれた音色“を指す言葉になり、正反対の性格を持ちます。生まれつきとは言えど、それぞれある程度は作り込むことができます。発声のしやすさにおけるそれぞれのメリットやデメリットなども解説していきます(‘ω’)ノ。


ハスキー、シルキーあれこれ

シルキーボイスは初耳?

 まず「ハスキーボイス」は有名ですが、「シルキーボイス」は初耳の人が多いかもしれません。ハスキーは“ザラっと”していて、シルキーは“ツルっと”した質感です。

 筆者は10年くらい前、自分自身が完全に後者寄りなのもあって、『ハスキーの反対は何だろう?』とふと疑問に思い、当てはまる言葉を探して『シルキーがピッタリだ!』と、勝手にこう呼び始めました。
 連載を始めるにあたってウェブ検索をしてみたら「シルキーボイス」と銘打って活動する歌手の方もいて、業界的にも浸透し始めているのかなと感じています(筆者が広めたのではありませんヨ)

【ハスキーボイスとシルキーボイス】
【ハスキーボイスとシルキーボイス】

ハスキーボイスは“ザラっと”

 ハスキーボイスは”ザラっと“した質感が魅力の音色ですが、これは簡単に言うと「声帯せいたいが完全に閉じない状態で、強めの発声をする」ことによって起こります。声帯が完全に閉じないので息漏れが起こり、強めの発声により声帯で息との摩擦感が生まれます。

 一番のポイントは「声帯が完全に閉じない」状況が自動的に/無意識に起こることです。

先天性か後天性か

 冒頭で『生まれつき』と書きましたが、あとからハスキーになるケースもよくあります。ハスキーボイスは魅力的な音色なので、例えばお酒とかタバコであえて声をしゃがれさせる人がいるのもよく聞く話です。これは「後天性」と言い、あとから作った音色になります。

 それに対して、本当に子どもの頃からハスキーボイスの人もいて、これは「先天性」と呼びます。声帯が完全に閉じないということは、生まれつき声帯靱帯せいたいじんたいの形状が少し歪んでいたりすることにより“ピタッと”合わず、隙間風が生まれるような状態です。

 興味深いのは、この“子どもの頃からハスキー”が「後天性」の場合もあるということです。

遺伝か習慣か

 例えば、親御さんが後天性のハスキーボイスの場合によくあるんですが、親御さんは酒焼けでしゃがれただけなのに、そのお子さんまで似たようなハスキーボイスになっているというケースです。

 とある論文で見たことがあるんですが、「声の音色は遺伝より習慣のほうが強い影響を受ける」という研究結果があるようです。つまり、酒焼けでしゃがれた親の声を自然にマネする発話習慣によって子どももハスキーになりうる、ということです。

 なのでハスキーは作り出すことができる発声と言えます。現状がシルキーボイスの人でも、ひと手間加えることで「擬似ハスキー」といって一時的に作り出すこともできます。

シルキーボイスは”サラっと“

 ハスキーボイスに対してシルキーボイスは、“ツルッと”した滑らかな質感が特徴です。声帯が”ピタッと“綺麗に隙間なく閉じることによって、息漏れ感や摩擦感が感じられない状態で聴こえてきます。

ハスキーは喉頭原音で

 声帯で鳴る、生まれたての音を「喉頭原音こうとうげんおん」と呼びます。『ハスキーかどうか』については喉頭原音次第な側面が強いです。

シルキーは共鳴量でも

 ですが、『シルキーかどうか』の印象に関しては、それに加えて「共鳴きょうめいの響き」が多いかどうかも影響を受けていると言えます。この場合、共鳴腔きょうめいくうが広いかどうかではなく、共鳴量が充満しているかどうか、が重要です。共鳴が充満していることで、“ぽやっと”広がる響きが声の輪郭を滑らかに埋めます。

シルキーは鼻音量でも

 さらにシルキーボイスの印象は「鼻音びおん」の量にも大きな影響を受けます。実際に「軟口蓋なんこうがい(喉ちんこ)」が降り気味の場合も柔らかく聞こえますし、軟口蓋の“ハリ”が落ち着いている場合も柔らかく聴こえます。

「擬似ハスキー」とは?

 「擬似ハスキー」とはシルキーボイスの人が、ハスキーボイスの質感をマネしたものです。簡単に説明すると、声門閉鎖圧を強めに用意した状態でウィスパーボイスを出そうとします。

①シルキー ②疑似ハスキー ③がなり 

 声帯で摩擦が起こり、しゃがれた雰囲気が作られます。このとき、声門閉鎖は意図的な「閉鎖圧」ではなく、「抵抗圧」から優先して用意してください。抵抗圧なしで閉鎖圧を用意すると高確率でむせますよ。それと、程度問題によってはハスキーを通り越して「がなり」に進化しますので加減が必要です。
関連記事:第62回:どんな発声にも必須な「抵抗圧」って知ってる? ~ハードミックスの完成へ④~

【発声の基本原理】
【発声の基本原理】

 ではこの反対である「擬似シルキー」は作り出せるでしょうか……?


ハスキーボイスの“メリット/デメリット”

 これらについては筆者運営のブログのほうで解説しますのでご参照ください。『ハスキーボイスは力みづらいから出しやすい』事実についても以下のトピックでお話します。

・ハスキーはシルキーに寄せづらい
・酒タバコは音色を永久的に変える
・ハスキーは実は高音を出しやすい
・出づらいのはハスキーだからではない
・逆流性食道炎でもハスキーになる
・ホイッスルボイスも出やすくなる
・結局は“無い物ねだり”

関連記事:ハスキーボイスは実は高音が出しやすい発声なのだ。~ハスキーの”メリデメ“一覧~


次回予告

 次回は(7)ミックスボイス:ソフトとハード、についてまとめる回にしたいと思います(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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