【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第67回:“柔らかさ”や“マットさ”が売りの鼻音はボイトレの中心にいる ~鼻音のメリット一覧~

鼻音はメリットだらけ

 tOmozoです。第64回で一挙紹介した「音色おんしょくシリーズ」は以下のトピックで詳細解説を進めています(‘ω’)ノ。

(1)“明るい”を作る3つの作業
(2)“深い”を作るふたつの作業
(3)音色の4系統分類表
(4)鼻音量で“マット”を作る
(5)雑音量で“ノイジー”を作る
(6)もとの声質:ハスキーとシルキー
(7)ミックスボイス:ソフトとハード

 今日は(4)鼻音、の詳細解説になります。「鼻音びおん」は滑舌の問題にもなり得ることから敬遠されがちな存在ですが、音色の側面から見ても、根本的な発声の側面から見ても、非常に重要な役割を果たします。

まず鼻音とは? 用語まとめ

子音に自然に含まれる鼻音

 子音しいんの発音で見ると『m/マ行』『n/ナ行』『ng/ンガ行』の3つが鼻音です。音声が口腔こうくうから出ることができずに、鼻腔びくうに回り込んで鼻穴から聴こえてくる、のが共通する原理です。この場合は「鼻に抜ける」という表現がよく使われ、これらは無意識な鼻音です。特に3つめは鼻濁音びだくおんと呼ばれます。

【鼻音になる子音3兄弟】
【鼻音になる子音3兄弟】

ボイトレでは母音を鼻音に

 それに対して、ここで言う『鼻音』とは、子音ではなく母音ぼいんが鼻音になっている”ことを指し、鼻母音びぼいんと呼びます。この場合は「鼻にかかる/鼻にかける」と表現されます。母音のタイミングでの鼻音化は軟口蓋なんこうがい(喉ちんこ)を降ろすことによる「ng」と同じ原理でしか起こりません。

【鼻音親子=子音3兄弟+鼻母音】
【鼻音親子=子音3兄弟+鼻母音】

 軟口蓋が完全に降りた状態ではただの『ん』になってしまいますので、“降ろし気味”にします。半分降ろせば口腔こうくうから『あ』が、鼻腔びくうから『ん』が半分ずつ聴こえてくる形になります。「鼻音」の反対は口音こうおんです。

【母音が鼻音の状態とは?】
【母音が鼻音の状態とは?】

あえて作るのが鼻音

 無意識に鼻にかかった状態は“滑舌の悪さ”を生み、鼻声はなごえと呼びます。ですが、ボイトレにおいては積極的に「鼻音」を作ります。実際に鼻に“かかってしまっている”音と、コントロールして鼻音にしている音とでは、筋肉の稼働によるハリがあるためにまったく違う印象になります。

鼻音に関する記事は以下にまとめています。
関連記事:記事まとめー「鼻音」「軟口蓋の上げ下げ」について


鼻音のメリット一覧

 以下のトピックに関連する記事についても上記リンクにまとめているため、ここでは簡単に紹介していきます。

“明るさ”の材料に

 鼻音を作ると“明るい”印象に傾きます。構造上「鼻にかける」と喉頭こうとう喉仏のどぼとけ)も上がりやすくなりますが、喉頭を下げて鼻音を作ることも当然できます。“深い”や“暗い”印象の「共鳴きょうめいの響き」の中に鼻音を足すと、やはりどことなく明るさが感じられます。

①軽めの音色で口音 ②軽めの音色で鼻音 ③深い音色で口音 ④深い音色で鼻音

“マットさ”の材料に

 鼻音の音色を肯定的に捉えた言い方として、“マットな質感”というものがあります。これの対極にあるのは「倍音ばいおんの響き」による“キラッと”です。『キラキラしてれば良いってもんじゃない』と言えますね。例えばアイドルのYoutubeのコメント欄で『マットな歌声が良い』って書いてあるのを見ると、筆者も『聴き手として上級者だなぁ』と思います(笑)。

“柔らかさ”の材料に

 鼻音の質感はトゲがなくて“柔和な”印象も与えます。“トロッと”した“モニョっと”したニュアンスです。音色として捉えると良い印象がないかもしれませんが、固くなった“悪い地声”を溶かしてくれる役割を持っています。ここで鼻音が根本的な発声に及ぼすメリットが見えてきます。

ソフトミックスの材料に

 固くなった“悪い地声”の対処法として紹介したのは『裏声成分3つを混ぜ合わせて溶かす』というものでした。“サラッと”した吐息といき成分」、“ウェット”な共鳴きょうめい成分」、“モニョっと”した鼻音びおん成分」の3つです。3つセットで用意すると、それは直接的に「ソフトミックスボイス」を作ることになります。
 ここでは“薄め材”としての機能を果たしますが、鼻音のマルチさは計り知れません。“濃く”もできます。

【「発声マップ」声区と成分相関図】
【「発声マップ」声区と成分相関図】

“声の粘り気”の材料に

 特に声がスカスカになってしまう人の救世主になるのが鼻音です。散ってしまう歌声に足りないのは声の粘り気担当の鼻音です。ここでのニュアンスは”ネチっと”になります。それから裏声は誰しもパワフルに発声するのが難しいものですが、裏声を地声のように力強く発声する材料にもなります。

ハードミックスの材料にも

 裏声を地声のように力強く発声する「ハードミックスボイス」の材料は、“キラッと”した倍音ばいおん成分」、“ドライ”な「エッジ成分」、“ネチっと”した「鼻音成分」の3つプラス、“ザラっと”した声帯での摩擦感です。

声区融合の“接着剤”に

 どちらにも含まれている鼻音を中心にしてソフトミックスとハードミックスを繋げれば、シームレスな発声が叶います。特に換声点かんせいてん(地声裏声の境目)には鼻音の感覚が必須となります。

 こんな具合で、実はボイトレの中心に存在しているのがこの「鼻音」なのです。『鼻音が特に日本人にとって重要になる』という側面も一連の連載で解説していますので、探して読んでいただければ幸いです(‘ω’)ノ。


次回予告

 次回は(5)を飛ばして(6)もとの声質:ハスキーとシルキー、について解説いたします(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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